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第1章 赤ちゃんじゃん!

68ー子守歌

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 母が王妃に送ったオルゴール。それはリンリンが魔法を付与した物だった。
 それを聞いて俺は思い出したのだ。精神干渉だ。人の精神に干渉して操る魔法。これは使い方によっては、恐ろしい洗脳の手段になる。だからどの国でも使用条件を厳しく管理されている。
 万が一、秘密情報を取得する為に精神干渉系魔法を使ったことが発覚した場合は重罪となる。
 これはどの国でもそうだ。と、いってもそうホイホイと精神干渉系魔法が使える者がいる訳でもない。ジョブで言うと賢者より上位のジョブを持つ者、そして聖職者だ。
 当然大賢者だった俺も使えた。5歳の『鑑定の儀』の時に大賢者だと鑑定されると幾つか誓約書にサインをした事を覚えている。
 まだ5歳の子供に誓約書を書かせるんだ。それだけ危険な魔法だという事だ。
 その精神干渉系魔法を使ったのではないかと思ったのだ。精霊なら難なく使えるだろうし。

「ああちゃ」
「あら、ラウ。もしかして分かったのかしら?」
「ぶぶぶ」

 分かったのではない。危険な魔法を使っていないのか心配しているんだ。
 もしも、それが公になって母や父が捕まったりしないのか?

「ふふふ、ラウったら本当にお利口さんだわ。母様は怖くなってしまうわ」

 そう言いながら、母は俺を抱きしめてくれる。
 そりゃそうだろう、まさか0歳児にそんな事が分かるなんて普通じゃないからな。

「ラウ、大丈夫なのよ~」

 本当なのかよ。リンリンも精霊だからな。人とは感覚が違うだろう? 人の国の約束事なんて知らないだろうし。

「陛下から直々の依頼だったのよ」
「あば?」

 なんだって、王が頼んできたという事なのか?

 元々王妃は王子の教育と躾けに厳しい人だったらしい。それが懐妊してからより厳しくなった。
 あの王子の様子を見ていれば分かる。王妃の一言に反応して怖がっていた。
 普通の子供ならどうだ? 3歳児だぞ。そんなの何を言われたって、言う事なんて聞かないさ。やんちゃな盛りなんだから。だが、可愛い盛りだとも言う。
 そんな王子にあの対応だ。普段はもっと厳しいのだろうと容易に想像がつく。

「それを見ていらした陛下が、ずっと考えていらしたみたいなのよ。それをお父様に相談されたの」

 今は懐妊が影響しているのかも知れない。だから心を落ち着かせる様な事を考えたのだそうだ。
 オルゴールを鳴らし、その音色を聞く事によって心が落ち着く。そんな軽い魔法なのだそうだ。
 なら、精神干渉って訳でもないのか?

「全然違うわよ~。どちらかというと子守歌ね」
「あばー」

 アハハハ、子守歌とはよく言ったものだ。
 だがとても良い考えだ。それで嫉妬心とか、妬みとかも抑えられたりするのかな?

「もちろんよ、負の感情を抑えるわ~」
「あぶあー」

 抑えるだけじゃ物足りないな。負の感情を消したりできたら良いな。

「あらあら~、ラウったら本当にお利口だわ~」

 リンリンまで何を言っているんだ。俺は元大賢者だぞ。

「もとじゃないみゃ。いまもみゃ」

 暫く大人しかったミミが口を出してきた。どうして大人しかったかと言うとだな。それはもう決まっている。

「ももじゅーしゅ、もうないみゃ」

 一人……いや、一羽か? おフクに桃ジュースを貰って飲んでいたんだ。ズリーな。
 飲み終わったのだろう。

「そうね~、元じゃないわね~」

 あ、リンリンまでそんな事を言う。俺はそれを隠蔽したいんだ。

「あら~、それは無理よ~」

 ああ、やっぱ無理なのか。ミミが知らないだけかと思ったりしたのだけど。

「らうみぃ! ひろいみゃ! みみはてんしゃいみゃ!」
「あぶぶぶ」

 はいはい、天才の鳥さんだよ。

「らから、みみはしぇいれいみゃ!」
「あらあら、何を話しているのかしら? 母様も混ぜて欲しいわ」

 おっと、母がいるのを忘れていたぜ。これは秘密なのだ。ミミ、リンリン、秘密だからな。

「わかってるみゃ」
「分かったわよ~」
「ああちゃ」

 話を変えようと、俺は母の身体に両手で抱きついた。甘えるとも言う。

「ふふふ、ラウったら。分かったわよ、母様は聞かない事にしておきましょう」
「あば」

 おっと、読まれているじゃないか。やっぱ母には敵わない。
 どうして前の時に気付かなかったのか。ちょっと反発したり、大人な振りをしてみたり。ほら、年頃の男なら誰でもあるだろう? 照れもあるんだ。
 そんな事、するんじゃなかったと今なら思う。
 もっとちゃんと両親と意思疎通ができていたらと後悔してしまう。
 俺の知らなかった事が、沢山あったんだ。大事なのに、知らされていなかった。
 いつもの会議だってそうだ。そんな事をしているのも俺は知らなかったんだ。あの会議室に入った事がなかったのだから。

「お散歩しましょうか、ラウ」
「あう!」

 母に抱っこしてもらって庭に出る。そのまま母のお気に入りの四阿へと向かう。俺はちゃんとベビーシューズも履いてるぜ。
 これは俺のパーフェクトなヨチヨチ歩きを、披露するべきだろうな!
 
「また、ももじゅーしゅがのめるのみゃ?」
「あぶぶ」

 また桃ジュースかよ。さっき飲んだばかりじゃないか。
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