上 下
40 / 106
第1章 赤ちゃんじゃん!

40ー本題に入ろう

しおりを挟む
 それからやっと落ち着いた父は、またバリトンボイスの良い声で言った。

「ラウが考えているより大変な事なんだ」

 おう、さっきの転移の事だな。
 父とアンジーさんが丁寧に説明してくれた。
 転移ができるという事は、当然だがどこにでも瞬時に移動できるという事だ。
 それは、国にとってはどういう事なのか。
 極端な事を言えば、誰にも見つからずに政敵を始末する事ができるという事だ。

「あばば」
「それだけじゃない。普通は入る事ができなような要所にも、簡単に出入り可能だという事だ。しかも誰にも見つかる事なくだ」

 ああ、そうなのか。スパイしまくりなんだ。しかも暗殺だってできちゃうぞって事だな。
 俺はそんな事はしないけど。
 でも俺の意思には関係なく、国や教会に利用される事になってしまうかも知れない。

「もちろん、兄上はそんな事はしないだろう。ラウの事は可愛がってくれているからな。だが要職に就いている貴族や、大臣達が知ったらどう思うかだ」
「そうなんスよ、坊ちゃん。良い人間ばかりじゃないんスから」

 おう、それは身に染みているぞ。味方のはずだった騎士団長の息子に、俺は殺されたからな。

「あば」

 俺はヒョイと手を挙げる。

「え? もしかして分かったって事ッスか?」
「あうあー」
「ふふふ、だからラウは理解しているわよ、アンジー」
「マジッスか!?」

 母の言う通りなのだよ。俺はちゃんと理解しているぞ。
 だから絶対に人前では魔法は使わない。人前ではな。

「あぶぶぶ」
「あら、ラウ。何を考えているの?」

 え? 母ったら鋭い。人前では使わないけど、人が見ていないところでとんでもない事をしようとしている俺とミミ。

「あう、あう」
「駄目よ。めっていったでしょう? お外で使っては駄目よ」
「あぶあー」

 分かっている。絶対にバレないようにする。その為に今ミミと練習しているんだから。

「いやだわ、なんだかとっても嫌な予感がするわ」
「あぶー」

 おふッ、本当に母の勘は鋭い。母親だからなのだろうか? それとも母自身が鋭いのか?
 いや、どっちもだな。

「俺、びっくりして報告する事忘れちゃったッス」

 何を言っているんだ。アンジーさんはそんな事はないのだろう?
 父の側近をしているくらいなんだ。俺達の前ではとっても朗らかな良い兄ちゃんって感じなのだけど、そうじゃないって事くらいは気付いているぞ。
 それに邸のメイド達が、話しているのを聞いた事がある。
 父とアンジーさんはとってもクールだと。
 父が『氷霧公爵』ならアンジーさんは『銀花ぎんか男子』と言われているそうじゃないか。
 『銀花』とは雪の異称だ。雪の結晶が銀色の花のように見えることから、雪を銀花と呼ぶらしい。
 色んな事を考えるもんだ。
 氷と雪だよ。冷たい事を現すには良い表現だ。ふむふむ。
 と、俺は考えながらつい癖で腕を組み、指をペチッと額につける。

「ぶふふッ! 坊ちゃん、貫禄があるッスね」
「あば?」
「そのポーズですよ。癖ッスか? よくやってるでしょう?」
「あうあー」

 え? そんなにやっているか? 癖だから知らない内にしているのかも。
 赤ちゃんがすると、とっても可愛らしいだろう?
 なかなか本題の報告に入らない。俺の話は良いんだ。

「アンジー、落ち着こうか」

 さっきまで、一番落ち着いていなかった父が言う。

「はいッス。報告です」

 やっと本題に入った。もう俺は関係ないな。おフク、出て行こうぜ。オヤツが食べたい。

「あぶぶ、ぶばー」
「あらあら、オヤツですか?」

 そうそう、小腹が空いたぜ。さつまいもが良いな。りんごでも良いぞ。

「ラウ、もう少し我慢だ」
「あう」

 え? 俺、いらなくね? 必要なくね?
 俺、赤ちゃんなんだけど。

「あうあう」
「坊ちゃま、我慢ですって」
「あぶあ」

 仕方ない。我慢しよう。と思うのだけど、口が寂しくて自分の指を咥えてしまう。

「あば、あば」
「らうみぃ、おやちゅみゃ?」
「あうあ」
「がまんみゃ。しょう、ちちしゃまがいったみゃ」
「あぶう」

 俺が話を聞いても仕方ない。まあ、我慢するけども。
 アンジーさんの報告だ。呑気に関係ないねと、思っていた俺もその話を聞いて少しびっくりした。

「いつの間にかまた婚姻届けを出そうとしていたんです」
「なんだと? 女性とは接触していないのだろう?」
「していません、していないはずです。24時間体制で見張ってますし、メイドとして一人潜り込ませてますから」

 スゲーな。潜入捜査しているんだ。なのにまた婚姻届なのか?

「なら、婚姻届けは出せないだろう? 女性のサインが必要な書類もあるんだ」
「そうなんですよ。なのにです」
「どういう事だ? ちゃんと見張りを付けているのだろうな」
「当然です」

 ほうほう、なるほど。
 アンジーさんが言うには、見張りの者は深紅の髪の女性を見ていないというのだ。
 潜入している者も見ていない。だがその貴族は、また婚姻届けを出そうとしていたと。
 なら、誰かが代わりにサインをしたのか?



◇◇◇

お読みいただき有難うございます🌟
いつも感想を有難うございます🌟
今週から連休明け位まではお返事できないかも知れません💧
申し訳ないです。ですが、全部読ませて頂いてます🌟
有難うございます🩵
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

私を虐げてきた妹が聖女に選ばれたので・・・冒険者になって叩きのめそうと思います!

れもん・檸檬・レモン?
ファンタジー
私には双子の妹がいる この世界はいつの頃からか妹を中心に回るようになってきた・・・私を踏み台にして・・・ 妹が聖女に選ばれたその日、私は両親に公爵家の慰み者として売られかけた そんな私を助けてくれたのは、両親でも妹でもなく・・・妹の『婚約者』だった 婚約者に守られ、冒険者組合に身を寄せる日々・・・ 強くならなくちゃ!誰かに怯える日々はもう終わりにする 私を守ってくれた人を、今度は私が守れるように!

神獣連れの契約妃~加護を疑われ婚約破棄された後、隣国王子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
神獣ヴァレンの守護を受けるロザリアは、幼い頃にその加護を期待され、王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、やがて王子の従妹である公爵令嬢から嫌がらせが始まる。主の資質がないとメイドを取り上げられ、将来の王妃だからと仕事を押し付けられ、一方で公爵令嬢がまるで婚約者であるかのようにふるまう、そんな日々をヴァレンと共にたくましく耐え抜いてきた。 そんなロザリアに王子が告げたのは、「君との婚約では加護を感じなかったが、公爵令嬢が神獣の守護を受けると判明したので、彼女と結婚する」という無情な宣告だった。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

処理中です...