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第1章 赤ちゃんじゃん!
2ー誘拐事件
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俺がまだ生後半年の頃だ。
自分で何もできない、喋る事さえも出来ない。なにしろ生後半年の赤ん坊だ。
乳母におっぱいをもらい、オムツも替えてもらってスヤスヤと眠っていた。
深夜、乳母の補助をしているメイドが部屋にこっそりとやって来た。
そして、静かに俺をおくるみで包みそのまま部屋を出た。逃げるように邸の裏口から外へと出ると、待っていた馬車に乗り込んだ。
この後、どこへ連れて行かれたのか分からない。
寝ていたところを抱き上げられて、何だ? と、思った事くらいしか覚えていない。
普通はその事だって覚えていないだろう。だって生後半年の赤ん坊なのだから。
メイドに攫われた俺は、見覚えのない邸宅の薄暗い一室で目が覚めた。
この出来事を覚えているのも、きっとその直後に前世の記憶が戻ったからだろう。
前世ともう一つ、今世の一回目で大賢者だった記憶をだ。
俺は転生者な上に、ラウルーク・クライネンとして、過去に一度大賢者として生きた事があったんだ。
そして、背後から胸を刺されて死んだ。その記憶が蘇ったんだ。
何だ? なにが起こったんだ? ここはどこだ? と、驚いてギャン泣きした拍子にポコンと記憶が蘇った。
そう、ポコンとだ。ガチャポンのカプセルが出てくるかのように、ポコンと蘇った。
と、同時に攫われたらしい事を理解した。
それでも生後半年の俺は、精神激ヨワでギャン泣きだ。
「びぇーッ! ふぎゃーふぎゃー!!」
思い出した事にも戸惑い、今の状況も恐怖で泣くしかなかった。
俺は死んだのではなかったのか? なのにこの状況は何なのか、咄嗟には理解できなかった。
喋ろうとしても、出てくるのは泣き声だけだ。その上、体が自由に動かない。
拘束されているのか? と、最初は思ったくらいだ。
そこに入ってきた貴族の男性。
泣きながらも俺はじっと見た。
ふくよかな体形に、耳の上辺りでクルッと癖のある髪でお粗末なちょび髭。やたらと豪華な服装をしている。小者感がプンプンしている。
「よくやったぞ。この赤ん坊さえいなければ」
こいつが犯人か! 何てことをしやがるのだと睨みつけた。ただし、ふぎゃーッと泣きながらだ。
生後半年の赤ちゃんに睨まれても、怖くもなんともない。
その後、どうやって助け出されたのかだ。
記憶が蘇った事がラッキーだった。
俺が一回目の時に、大賢者だったこともだ。もちろん、魔法の使い方もばっちり思い出した。
泣きながら自分の手が目に入った。どう見ても赤ちゃんの小さな手だ。それは泣き声で察してはいた。だが、俄には信じられなかった。
そんな事が起こるのか!? と、困惑した。
正確にはこの時はまだ、今世をやり直しているとは気付いていなかった。記憶をもったまま生まれ変わったのだと思っていたんだ。
だが、そんな事を考えている場合ではない。
俺は、自分の中に魔力があるのか確認し、それを練り始める。身体をバタつかせ、力一杯泣きながらだ。
「ふぎゃー! ふぎゃぁー! あぎゃぁぁー!!」
「ああ、煩い! 黙らせろ!」
貴族の男が、俺を攫ってきたメイドに命令している。そんな事お構いなしで、俺は火がついたように泣き続ける。
とにかく何とかして、外に知らせないとと思ったんだ。そう思って自分の中の魔力を練る。
「ふぎゃー! ふぎゃふぎゃあぎゃぁぁぁーッ!!」
なにしろこの体で魔法を使うのは初めてだ。加減も何もあったもんじゃない。
だから全力だったのだろう。俺が寝かされているベッドの周りに大きな魔法陣が浮かび上がり輝いている。
そして小さな両手を掲げ、練っていた魔力を一気に解き放った。
大賢者だった魔力を、一切の加減なく解き放ったんだ。
目を開けていられないほどの閃光と、耳を劈くような音がして、貴族の男とメイドを吹き飛ばした。それだけじゃない。俺が寝かされていた部屋の壁をぶち壊し邸宅が半壊した。
夜の暗闇の中に、光の柱が空に向かって伸びている。
あ、やべ。やりすぎだ。と、自分の身の危険を感じて咄嗟にシールドを展開したくらいだった。
そんな状態で、俺はギャン泣きを続ける。
「ぶきゃー! ふえぇーん! びえぇぇーん!!」
そして、何事だとやってきた衛兵や騎士団に無事保護された。
「ふぇッふぇッ! ぶぎゃぁー!」
「おうおう、もう大丈夫だぞ!」
兵士に抱っこされたまま、暫く泣き続けた。俺って0歳児。
この時俺を保護し、ゴツイ腕の中に慣れた手つきで大事そうに抱っこしてくれていたのが、騎士団長だ。
俺が包まれていたおくるみに、公爵家の紋章が入っていたらしい。
その紋章で一目瞭然。王弟殿下の愛息だと分かったわけだ。
この騎士団長、とても人格者らしい。
任務に忠実で部下を分け隔てしないと人望も厚かった。
だが、あまりにも訓練がキツイ事も有名で、団員達がヘバッているのに一人平然としていて力が有り余っているらしい。
その所為なのかどうなのか、子沢山だ。
男3人、女3人、うまく産み分けたものだ。合計6人の子供がいる。
その長男が、一番父親の血を濃く継いでいたらしく騎士団に入団しているという。
そんな子沢山の騎士団長の安定した抱っこに安心し、泣き疲れた俺はぐっすりと眠っていた。
なにより、加減無しで魔法をぶっ放したものだから、魔力が枯渇しかかっていたんだ。
いくら一回目の時に大賢者だって魔力量が膨大だったといっても、今は赤ちゃんだ。
大賢者だった時ほどではなかった。
◇◇◇
お読みいただき有難うございます🌟
プロローグしか投稿していなかったのに、HOTランキング15位💫
有難うございます!
やっぱこちらは頂いた感想にお返事もしやすいですね~😅
皆様も、マメに下さるので投稿し甲斐があります✨
皆様、お優しいお言葉を有難うございます!
書籍化作業がまた忙しくなったらお休みしてしまうかと思いますが、宜しくお願いします🌟
自分で何もできない、喋る事さえも出来ない。なにしろ生後半年の赤ん坊だ。
乳母におっぱいをもらい、オムツも替えてもらってスヤスヤと眠っていた。
深夜、乳母の補助をしているメイドが部屋にこっそりとやって来た。
そして、静かに俺をおくるみで包みそのまま部屋を出た。逃げるように邸の裏口から外へと出ると、待っていた馬車に乗り込んだ。
この後、どこへ連れて行かれたのか分からない。
寝ていたところを抱き上げられて、何だ? と、思った事くらいしか覚えていない。
普通はその事だって覚えていないだろう。だって生後半年の赤ん坊なのだから。
メイドに攫われた俺は、見覚えのない邸宅の薄暗い一室で目が覚めた。
この出来事を覚えているのも、きっとその直後に前世の記憶が戻ったからだろう。
前世ともう一つ、今世の一回目で大賢者だった記憶をだ。
俺は転生者な上に、ラウルーク・クライネンとして、過去に一度大賢者として生きた事があったんだ。
そして、背後から胸を刺されて死んだ。その記憶が蘇ったんだ。
何だ? なにが起こったんだ? ここはどこだ? と、驚いてギャン泣きした拍子にポコンと記憶が蘇った。
そう、ポコンとだ。ガチャポンのカプセルが出てくるかのように、ポコンと蘇った。
と、同時に攫われたらしい事を理解した。
それでも生後半年の俺は、精神激ヨワでギャン泣きだ。
「びぇーッ! ふぎゃーふぎゃー!!」
思い出した事にも戸惑い、今の状況も恐怖で泣くしかなかった。
俺は死んだのではなかったのか? なのにこの状況は何なのか、咄嗟には理解できなかった。
喋ろうとしても、出てくるのは泣き声だけだ。その上、体が自由に動かない。
拘束されているのか? と、最初は思ったくらいだ。
そこに入ってきた貴族の男性。
泣きながらも俺はじっと見た。
ふくよかな体形に、耳の上辺りでクルッと癖のある髪でお粗末なちょび髭。やたらと豪華な服装をしている。小者感がプンプンしている。
「よくやったぞ。この赤ん坊さえいなければ」
こいつが犯人か! 何てことをしやがるのだと睨みつけた。ただし、ふぎゃーッと泣きながらだ。
生後半年の赤ちゃんに睨まれても、怖くもなんともない。
その後、どうやって助け出されたのかだ。
記憶が蘇った事がラッキーだった。
俺が一回目の時に、大賢者だったこともだ。もちろん、魔法の使い方もばっちり思い出した。
泣きながら自分の手が目に入った。どう見ても赤ちゃんの小さな手だ。それは泣き声で察してはいた。だが、俄には信じられなかった。
そんな事が起こるのか!? と、困惑した。
正確にはこの時はまだ、今世をやり直しているとは気付いていなかった。記憶をもったまま生まれ変わったのだと思っていたんだ。
だが、そんな事を考えている場合ではない。
俺は、自分の中に魔力があるのか確認し、それを練り始める。身体をバタつかせ、力一杯泣きながらだ。
「ふぎゃー! ふぎゃぁー! あぎゃぁぁー!!」
「ああ、煩い! 黙らせろ!」
貴族の男が、俺を攫ってきたメイドに命令している。そんな事お構いなしで、俺は火がついたように泣き続ける。
とにかく何とかして、外に知らせないとと思ったんだ。そう思って自分の中の魔力を練る。
「ふぎゃー! ふぎゃふぎゃあぎゃぁぁぁーッ!!」
なにしろこの体で魔法を使うのは初めてだ。加減も何もあったもんじゃない。
だから全力だったのだろう。俺が寝かされているベッドの周りに大きな魔法陣が浮かび上がり輝いている。
そして小さな両手を掲げ、練っていた魔力を一気に解き放った。
大賢者だった魔力を、一切の加減なく解き放ったんだ。
目を開けていられないほどの閃光と、耳を劈くような音がして、貴族の男とメイドを吹き飛ばした。それだけじゃない。俺が寝かされていた部屋の壁をぶち壊し邸宅が半壊した。
夜の暗闇の中に、光の柱が空に向かって伸びている。
あ、やべ。やりすぎだ。と、自分の身の危険を感じて咄嗟にシールドを展開したくらいだった。
そんな状態で、俺はギャン泣きを続ける。
「ぶきゃー! ふえぇーん! びえぇぇーん!!」
そして、何事だとやってきた衛兵や騎士団に無事保護された。
「ふぇッふぇッ! ぶぎゃぁー!」
「おうおう、もう大丈夫だぞ!」
兵士に抱っこされたまま、暫く泣き続けた。俺って0歳児。
この時俺を保護し、ゴツイ腕の中に慣れた手つきで大事そうに抱っこしてくれていたのが、騎士団長だ。
俺が包まれていたおくるみに、公爵家の紋章が入っていたらしい。
その紋章で一目瞭然。王弟殿下の愛息だと分かったわけだ。
この騎士団長、とても人格者らしい。
任務に忠実で部下を分け隔てしないと人望も厚かった。
だが、あまりにも訓練がキツイ事も有名で、団員達がヘバッているのに一人平然としていて力が有り余っているらしい。
その所為なのかどうなのか、子沢山だ。
男3人、女3人、うまく産み分けたものだ。合計6人の子供がいる。
その長男が、一番父親の血を濃く継いでいたらしく騎士団に入団しているという。
そんな子沢山の騎士団長の安定した抱っこに安心し、泣き疲れた俺はぐっすりと眠っていた。
なにより、加減無しで魔法をぶっ放したものだから、魔力が枯渇しかかっていたんだ。
いくら一回目の時に大賢者だって魔力量が膨大だったといっても、今は赤ちゃんだ。
大賢者だった時ほどではなかった。
◇◇◇
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皆様、お優しいお言葉を有難うございます!
書籍化作業がまた忙しくなったらお休みしてしまうかと思いますが、宜しくお願いします🌟
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