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エピローグ

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 竜人とは、人よりも長く生きる。人よりも力も能力も高く、ついでに言えば魔法を使えるのもこの世界では竜人だけらしい。何それチートすぎないか? と思ったものの、その代わり竜人の王族は運命の番いと出会わなければ、一生を幼体で過ごすんだとか。
 俺の運命の相手とやらは、この国の王であるイルらしい。はあ、王様。
「も……っ、真っ昼間から盛るの……っ、やめろって……あ……」
「アキが可愛い過ぎるのが悪い。その唇がいつでも俺を昂ぶらせる」
 さっきまだ昼食を食べたばかりだというのに、この男は俺をソファに組み敷いた。
 この世界で出会った俺の運命の相手、イル。最初は男と結婚!? と若干引いていたはずなのに、あれこれ甲斐甲斐しく世話をされ、おいしい食事を出されて、気がつけば心を許して、今では身体の関係すらあるんだから自分でも信じられない。
 だってイルの側は息がしやすい。イルが抱きしめるだけで、いつだって発作を起こしそうになっても、詰まりそうになる呼吸はすうっと通り抜けてくれるのだ。気がつけば彼の体温は俺に安らぎを与えて、彼の匂いは俺に安定をもたらした。
「あ……」
「ほら、アキの身体は素直だな? 俺も一緒だ」
 ゴリ、と押し当ててくるモノは俺と全然サイズの違う逸品だ。それが自分の体内に収まると知った今でも、硬度を増したそれを見るのは少し怖い。
「少しだけ……。もうすぐイル……会議が始まる、から……っ」
「俺の心配をしてくれるのか? 待たせてやればいい……竜人の蜜月に仕事をするなど、本来ありえないことなのだから。アキが仕事をしろと強請るせいだぞ」
 まったくアキには叶わないと、苦笑する男の表情に見惚れてしまう。ああもう、すっかりこの男に恋してしまった自分が恥ずかしい。
「……っ、ん、ん……」
 手早く下衣のみを剥ぎ取られ、浄化の魔法をかけられた。上のシャツはきっちりと着込んだままで、そのギャップがいやらしい。
 指を少しずつ増やして解された後孔は、この男を受け入れたいとヒクヒクと震えているのが自分でも分かる。
「もう、いい……いれて……いい」
「おねだりが上手いな、アキは」
「ちが……っ、会議……会議、が……っあ!」
 狭い肉輪をくぐり抜けて、その熱い塊が体内に押し入ってくる。皺の全てを引き延ばされるほどの巨大なイル自身が、小さく抽挿を繰り返しながら奥へ奥へと進んでいく。
「ほら、アキ。ちゃんと息をしろ……っ」
「あ……っ、はあっ、だって……おっきい……ッンン」
 イルの側で過ごすようになって、例の発作はすっかりなくなった。一体何が作用しているのか、そもそもの原因はなんだったのか、今でもよく分からない。だけどイルの隣で辛くなる事は一度も無かった。
「あああっ、なんで……っ、はげし……!」
「煽るのが上手い……まったく……っ」
「あおって、なんて……っ、ふぁ、あああ……!」
 前言撤回、こういう時はいつでも俺を苦しめるのはこの男だ。そりゃもちろん、その……気持ちは良いんだけども。
 ぬちゅぬちゅと粘膜がこすれる音、そして肉同士がぶつかる卑猥な音が室内を満たす。お互いの熱い呼吸を口づけで吸い込みながら、もう目の前にある高みへと上り詰めていく。
「んあああっ、も、……っ、いく……っイく……!」
「は……っ、俺も出すぞ……!」
「あ! ダメ、あ……っんんんっ――!」
 呼気を全て覆われて、苦しい程に気持ちの良い絶頂に押しやられる。体内で一層膨らんだイル自身から吐き出された白濁が、俺の身体の奥まで染めていく。
「ん……んあ……っ、あ……はぁ……」
「愛してるよアキ……」
 お互いの唇を吸い合い、舌をゆっくりと絡めさせる。まだ俺の身体の中のイルはビクビクと精を吐き出している。竜人の射精は驚くほど大量で、時間がかかる。初めは思わず泣いてしまったその感覚が、今では愛おしいとすら感じるのだから俺はもうイル無しではきっと生きていけない。
 だけど……。ああ、またやってしまった。
「服、全部脱げば良かった……っ」
 自分とイル二人の上着に、いやらしい汚れが飛び散ってしまった。優秀なこの城の侍女にはきっと、俺たちが何をしてどう汚したのか一発で分かってしまうのだろう。いや、竜人の蜜月なんてヤリっぱなしらしいし、むしろ俺は周囲に奥ゆかしいだなんて称されているらしいけど。
 現代日本で育った一般人の感覚で言うと、周囲に性行為を知られるのも恥ずかしければ、その後処理を他人にさせるのも申し訳なさ過ぎて慣れることがない。
「それはもう一度、というお誘いか? アキ。積極的だな」
「ちが……っ、こら、イル……! 脱がすなって!」
 身分が上であるほどに、この竜人の国では手間をかけた衣装を着せられる。つまり、イルの服は恐ろしいほどに手間のかかった細やかな刺繍が施され、服一着作る為にはにベテランのお針子たちが数ヶ月かけているらしい。そんな服を汚すことを躊躇わないあたり、やはり王族なんだろうなあ。
 そう思うと、あの盗賊村で何の頓着も無しに生活していたことに首をひねった事があったけれど、そのことをイルに聞いたら「別に服など何でも良い。あの場所はお前と出会うために居てやっただけだ」と言われたっけ。良くも悪く何にも執着しないんだ、この男は。
 執着するのは……俺に対してだけで。
 そんなことを考えていると、思わず状況も忘れていたらしい。気がついたら裸に剥かれていた。
「こらっ……、会議……ダメだって……、んン……」
 すっかり敏感になってしまった乳首を指の腹で撫でられ、抵抗していると言いがたい甘い声が鼻から抜けた。
「会議……そうだな、もう一度終われば会議に行こうか。ほら、このままでは会議になど行けまい」
 そう言いながら硬度を保ったままの剛直は、奥でぐるりとかき回す。
「ア……、ああ……っ、ん、もう……! あ、もう一回だけ……だから、ね……!」
 イルの身体をぎゅっと抱きしめて、俺はもう一度始まる律動に腰を揺らした。
 
※※※

「テイル、お前悪趣味だぞ。人の子らの閨を覗いてやるなっつーの」
「ん~~? ふふふ、いいじゃない。みんな幸せそうで。なかなか甘い時間を過ごしてるみたいだよ?」
 俺たちが過ごす今日の室内の調度品は確か、今こうして閨を覗いている竜人の国のものだ。テイルは日ごと暇つぶしに、室内の調度品を変化させる。
 きっとテイルが出歯亀をしているのはそのせいかもしれない。
 テイルもあいつらが今どうしているのか心配してたんだとは思うが、こういう時はそっと離れるのがマナーだろう。
 この男は生れながらの神だから、やはり俺とどこか感覚が違う。愛の神であるテイルは、幸せそうに目の前に映し出される映像を眺めている。音声は切ってあるのがせめてもの情けだろうか。
「シヴァンだって懐かしいでしょ? 自分の子孫たちの国だし。まああれから随分月日が経ってるけど……このイルって子も君の血を引いてるかと思うと感慨深いよねえ」
 その割に顔は似てないけど、と何の気無しに笑うテイル。いや、だから覗き見をやめてやれ。ああもう、あいつらもあいつらだ、テイルに見られているとも知らずにそんなに睦み合って。
「ねえ、シヴァン。僕たちこれで随分子供たちを幸せに導いたと思わない?」
「ああ、そうだな」
「もう何十組……何百かな? 人の子も獣の子も、いろんな相手の所に導いた。皆それぞれ幸せを掴んだね。世界の幸福値は随分高まって、僕の管理する世界たちは、愛が満ちてきたと実感してるよ」
「――ああ、そうだな」
 出歯亀に飽きたのだろうか、映像をブツリと切って、長椅子に腰掛ける俺の足下に跪いた。この男が膝をつくのは俺の前だけ。俺がこいつの運命だから。そしてこいつが俺の運命だから。
 竜人として王家に生れたにも拘わらず、特別な力を持たずに腐っていた俺を、テイルは見つけてくれた。そのまま誰にもなんの断りも無しに攫われて、最初の十年くらいは酷く反発したっけ。惹かれる気持ちとそれを認めたくない反骨心で、俺は随分時間を無駄にしたように思える。
 竜人の寿命は三百年程度。その寿命ですらテイルと番う事で伸びてきた。昔から手を変え品を変えて力を注がれているが、この百年ほどは与えられるアクセサリーも増えている。
 この宝石や金属の中には、より濃縮されたテイルの力が込められて、こいつと離れている間でも惜しみなく俺の身体を補強してくれるが……。
 だがそれももう――限界に近づいてきている。俺の寿命はあと数年あるかどうか。神であるテイルと過ごせるのも、もうほんのわずかだ。
 俺はこいつを遺して死ぬ。
 ただの人であるならば、神の精を受けて不老不死になるのかもしれない。だが竜人という強すぎる種族は、神の精すら打ち消したし、俺自身も不老不死なんてまっぴらごめんだった。
 テイルは俺の死期に気づいた時に――いやきっと随分前から考えていたんだろうが――突然人の子たちにコンカツをさせようなんて言い出した。テイルの力の源は愛と、それを基にした幸福にある。力が無くては、いくら神とはいえ出来ることには限りがある。逆を言えば、力さえあればどんな奇跡だって起こせるのもまた、神なのだ。
「僕の管理する世界たちから受ける恩恵は、子供たちの幸福に左右される。僕のチカラもね。だからシヴァン、もうどちらにでも転べる位には、僕のチカラは満ちてきたよ。そろそろ決めよう」
 テイルの手が、俺の手のひらに優しく重なった。大きくて温かい、俺の愛する男の手だ。
 分かっている。テイルが何のためにここまでしているのか。こいつと違って俺は神じゃない。無限の生を持つこいつが、番いである俺の死を良しとするわけが無かった。そう素直に思える位には、俺は愛されていると思っているし、俺もこいつを愛している。
 テイルが差し出した選択肢は三つ。極限まで高めた力テイルの――愛の神の次世代を作り役目を終え、俺と共に消滅すること。もしくは俺が神と成り、テイルと共に永遠を過ごすこと。
 もしくは、俺を看送ってテイルは一人で生きること。これは、テイルから拒否されているから選択肢としては正しくない。
「ああ。そうだなテイル」
 目の前にある、その唇を小さく吸った。啄むように口づけると、すぐにそれは深いものに変わっていく。どちらからともなくお互いをむさぼって、髪の毛をくしゃくしゃに混ぜながら長椅子へと倒れ込んだ。
「はは……っ、今日は積極的だなテイル」
「僕はいつだってシヴァンといるだけで興奮しちゃうよ」
 神として世界を管理するこいつはきっと、俺の何の力も無い竜人を番いにしたことで、きっと脆くなっている。こんな時俺は柄にも無く、思わず弱気になってしまうんだ。こいつは――俺と出会わなければもっと幸せになれたんじゃないかって。
 だけど……だけど。俺はこいつを一人にはできない。そしてこいつを俺と一緒に死なせる事もしたくはない。分かってる、最初から。俺の選択肢なんて一つしか無かったんだ。
「テイル、決めたぜ。俺を――神にしてくれ」
 のしかかる男の顔が、目を見開いた。なんだよその顔。予想してたんじゃないのかよ。俺がお前を残して死ぬか、それともお前の次世代を創って二人で死ぬか、もしくは二人で神として生きるかの選択を突きつけた男は、まるで予想外だと言わんばかりの表情だ。
「え。だって君……神なんて嫌だって昔から言ってたじゃない」
「言ってたな。無限に生きるなんてまっぴらごめんだ」
 今でもまっぴらだ。だけどこいつを一人そこに置いておくなんて出来そうにない。
 色んな人の子らを見守ってきた。運命や愛に振り回されて、可哀想にと思うこともあった。だけど俺自身を振り返ったとき、俺は俺を哀れに思ったことは一度も無い事に気がついたんだ。
「俺が腹を括ればいいだけだ。まさか人の子に教わるとは思ってもなかったぜ」
「ほんと……ずっと僕と一緒にいてくれる?」
「ああ。ずっといる。お前を一人にはしねぇよ」
「うっ……うぐ……っ、結婚、僕とシヴァン……っ、嬉し……幸せにするからぁ」
「ああもう、きったねぇなあ。そりゃプロポーズのつもりか? しゃんとしろ」
 だけどこいつのこんな所が、愛おしい。
 そうだよこいつが俺の運命で、愛すると誓える男なんだ。
「プロポーズってのはなぁ」
 ワタワタと慌てる男の頭部を抱き寄せる。そして小さく、――――と、囁いた。
「本当に? わあ……ありがとうシヴァン……! 愛してる、愛してるよ僕のシヴァン!」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて息苦しい。本当に何でも大げさなやつだ。笑いながら泣くなんて、器用なことをする男の目尻に口づけをする。
 神になんてなりたくない。だが、こいつを一人にしたくもない。俺に合わせて消滅なんて、もっと嫌だ。だから結局俺がカミサマになるのが一番いいのだろう。
 まさかこんな単純な結論になるなんて、自分自身思ってもいなかった。
 導いた人の子たちにそれを教わったのだから、結局全てこの男の手のひらの上だったのかもしれないが。クツクツと笑う俺に、テイルは首を傾げる。まったく、そんな仕草も可愛い男だ。
 何が言いたいのかってつまりさ。結局運命の相手――自分がそうと決めた相手のためにはどんな困難でも乗り越えてしまうって事だ。
「愛してるぜ、テイル」
 しょっぱい唇を重ね、素肌を弄るテイルを受け止めながら、俺は思わず微笑んだ。

                                  ―― 終わり ――




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