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魔王と王子様 ~トモヒロの話⑦~

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 こんな時に人と比べてしまうのは、マナー違反なのかもしれない。だけど、どうしても全く同じ顔の、もう一人の相手のことも思い浮かべてしまう。
 荒々しい喋り方なのに、レオが僕のシャツを脱がしていくその手つきは、とても優しくて丁寧だ。
「……勇者の事を考えてるのか? いいぜ、俺をあいつの名前で呼んでも」
 そんな自虐的な事を言う。知り合って間もないけれど、レオのこの言い方は多分自分を守っているんだろう。僕にも覚えがある。傷つく事に臆病になって、予防線を張るために自分を卑下してしまうんだ。その方が自分のダメージは少なくて済む。
「そうじゃないよ。そうじゃないけど、ごめんね、レオ。僕、レオの事は好きだけど、アンドリューの事も同じくらい好きなんだ。だから……どっちかは選べないと思う」
「ああ、なんだそんなことか。別に構わない。俺は、お前を手に入れられればそれだけで良い。最後は殺されて終わると思っていたんだ、神子の気持ち位、勇者と一緒に受け入れてやるよ」
 だから、そういう事を言わないで欲しい。僕が魔王の魔力を奪わなかったら、起こっていた先の未来を想像すると悲しくなる。好きな相手が二人、運命に翻弄されて死ぬ様なんて見たくない。
「ん、ん……っ」
 全身に施される愛撫はどこまでも優しくて、それでいて恐る恐る僕の反応を確かめていく。ずっとアンドリューに高められてきたこの身体にはその優しさが少し物足りなくて、でも嬉しかった。
「あ、……っ、レオ……!」
 奥まったその穴に、レオの指が触れた。トントンとノックをするように軽く叩くと、ナカからとろりと何かが溢れてくる。
「や……っ、何……?」
「魔法で中にぬめりを足した。お前を傷つけたくないからな。……指を入れるぞ」
「んん、あ……!」
 大きな手に見合った指が、ゆっくりと内部に入ってくる。慎重に浅く出し入れを繰り返し、奥へ奥へと先を目指す。
「あ、あ……っ、レオ……」
「はは、良いな……名前を呼ばれるっていうのは。もっと呼べよ、トモヒロ」
「っ、ん……! レオ……、レオ、あ……」
 顔を覗き込まれながら、足の間に差し込まれた指はどんどん大胆な動きになってくる。僕の反応を伺って、強く感じるところを的確に刺激をしてくる。こういう行為にはセンスがあるのだろうか、レオだって初めてだろうに僕だけがこんなにも乱れさせられるなんて。
「レオ、レオ……も……っ」
 彼の中心に触れる。はしたないやつだと思われかねないけれど、ベッドに誘ったのは自分なのだから今更だ。魔力の暴発を防ぐだなんて大義名分を持ちながらも、僕は彼を一人にしたくなかったのだろう。身体の熱を合わせて、少しでもレオの孤独を埋めてあげたい。
「ふぁ……っ、レオ、もう、いいから……」
 激しくかき回されると、指を受け入れ慣れた身体はもう絶頂に達しそうだ。今回はそうじゃない。レオをこの身体に迎え入れ、彼の魔力を引き受ける。
「ね、入れて。もう、入れていい――」
 そう言いかけた言葉を遮るように、激しい音を立てて寝室の扉が開いた。驚くと人は動くことすら出来ないようで、そこからカツカツと足音を鳴らして近づく人の姿を追うしか無かった。
「アンドリュー……」
「魔王、貴様……! 私の神子から離れろ!」
 レオはため息をつくが、僕の身体から離れるつもりは無いらしい。それどころか、見せつけるように僕の腰を高くあげた。あの、流石にちょっと恥ずかしいんですけど。
「言って置くがこれは合意だぞ、勇者。いや、兄上とでもお呼びした方が? 俺の結界をこうも早く破るとは、流石だな。だけどもう神子は、俺をも選んでくれた」
「あ……っ、レオ……」
 指を抜かれ、ぽっかりと口を開けた部分にレオの昂ぶりの先端が当てられる。その熱さとその先を想像して、身体がびくりと震えてまう。
「挿れて良いか? トモヒロ。俺の魔力を貰ってくれ」
「うん。うん……! 大丈夫だよレオ、貴方の事は死なせないから」
  少し困ったように眉を下げて、本当に後悔しないか僕に問いかけてくる。レオは、優しい。そんな彼だからこそ、僕も助けてあげたい。
「ま、待て! トモヒロ、君はいいのか!? 私との未来よりもこの男を選ぶと!?」
 そう訴えられて、身体が一瞬硬直した。アンドリューは思っているんだ、僕がレオに心変わりしたと。
 僕は一旦身体を起こし、シーツを身体に巻き付けて座った。隣に座るようにアンドリューを促すと、彼は案外素直に従って腰を下ろした。
「あのね、アンドリュー。僕はアンドリューを嫌いになった訳じゃ無いよ。アンドリューがどうかは分からないけど……僕は今でも貴方のことが好きです」
 そう。アンドリューを嫌いじゃない。好きか嫌いで言ったら間違いなく好きなのだ。
 だけど僕はレオを受け入れたい。
「トモヒロ……! 私もそうだ。君を愛している」
 ああ、良かった。まだ好きでいて貰えている。その事実に深く安堵する。
「だけどね、レオの事も同じくらい好きになっちゃったんだ。双子なんでしょう? それなのに一人だけ家族と離されて、殺されるなんて……悲しすぎる。僕ができるなら、レオを救ってあげたいって思うんだ」
「――っ。それは、そう、だが……」
 この古城の前で出会った時、レオと対峙していたいアンドリューにも葛藤があったように感じた。優しいアンドリューが、自分の兄弟を殺す運命を受け入れているなんて思いたくない。
「僕がレオの魔力を貰うだけで、レオは生きていける。アンドリューにはレオの魔力が渡らないかもしれないけど……二人が力を合わせれば最高で最強の王様になるんじゃないの?」 レオから話を聞いた時から、僕はそんな風に思っていた。どちらかが一方的に奪うんじゃ無くって、二人で力を合わせればいいんじゃないかって。
 魔王と勇者の伴侶である、神子。
 ひょっとしたら神様は、二人を協力し合わせるために神子を用意したんじゃないかな。それが結局今までは、神子の独占になってしまっただけで。
 そして僕にとっての運命は、アンドリューではなく、レオだけでもなく、二人揃って初めて運命の相手だと言える――そう確信していた。
 アンドリューもレオも驚いた顔をしている。同じ顔のイケメンが同じ表情をしているのは、少し面白い。
「……考えた事もなかった……。私が魔王と協力するなどと」
「そう、だな、俺もだ。勇者に殺されて終わるか――運良くトモヒロに命を救って貰って終わりだと思っていた」
「別に私は殺したいと思ってきた訳ではない――っ! だがそう育てられ、世界の命運を握っていると……人殺しの運命を課せられてきたのだ……」
 ああ、そうか、アンドリューも辛かったのかもしれない。自分の兄弟を、そうと定められたからといって殺さなければいけないなんて。思わずアンドリューの身体に抱きついた。
「大丈夫、僕がそんなことさせないよ。レオの魔力の暴走さえ無くなればいいんでしょ? 僕がその……レオと繋がれば、それが無くなるって聞いたよ。そうしたら二人とも、仲良くできるんじゃないの?」
「それは……そうだが。いや、魔王の魔力が無くなることには賛成だ。私も弟を殺したい訳では無い。その上で国の――私の片腕として側にいてくれるなら、これほど心強いことはない。だが――」
 僕の案には賛成してくれると言うのに、アンドリューは浮かない顔だ。
「トモヒロの純潔は、私が貰いたかった」
「……っ、う……、ごめんなさい。でも、僕、アンドリューもレオもどっちも同じくらい大好きだから……! その、不誠実かもしれないけど……、その……」
「いい、責めている訳では無い。すまないな、トモヒロを困らせるつもりではなかった。魔王である弟をどうか、救ってあげておくれ」
 頭を優しく撫でられ、重ねるだけのキスをされた。温かい、いつものキスに安心する。
「さあ、魔王。私のトモヒロを譲ってやるのだ。わずかでも傷つけないように頼むぞ」
「ははっ、当たり前だろ? ほら、来いよ……トモヒロ。絶対気持ちよくしてやるから」
 落ち着いていたはずの欲望が、ズクリと熱を持ち直した。
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