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魔力を奪う ~トモヒロの話⑥~

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 勇者とは武術に秀でる運命にあるもの。魔王とは魔法に秀でる運命にあるもの。それは神によって告げられる、その未来を持つ者であり、魔王にはその強すぎる魔力の暴発で、世界を滅ぼす未来が待っている。そのために勇者は魔王を殺し、世界を滅びから救う。
 レオの話を纏めると、そんなふざけた神様の設定のせいだった。
「なにそれ、レオは全然悪くないじゃん。神様が勝手に勇者だの魔王だの作って……! 人の運命をなんだと思ってるわけ!?」
「まあ……そうだよな。そりゃ、そうなんだけど。この大陸ではシュダール神が絶対だからな……。俺は最低限の世話をされて、勇者に殺されるその日まで、ここで飼い殺しされてるって訳だ。俺を殺した暁には、勇者に俺の魔力が引き継がれる。世界は魔王によって滅ぼされること無く、俺の膨大な魔力は手に入れることができて、めでたしめでたし」
 皮肉るように笑うレオに、俺は全然笑えなかった。だってそれ、魔王は何も悪くない話じゃ無いか。それなのに、神様が決めたからってよってたかってレオを苦しめているって事だろう?
「神様……」
 先日出会った、神と名乗る銀髪の男の人を思い出す。だけど名前は確かテイルだったし、この世界の紙派シュダール神と聞いた。
「でもあの神様じゃなさそうだし……ああ、でも伝手とかないのかな」
 僕はこの世界に召喚されて今まで、神子としてチヤホヤされてきただけだったんだ。その背後に、こんな悲しい話があったなんて考えも及ばなかった。
 少しでもなんとかできないかと考えるけれど、結局僕にはなんの力も無い。
「ねえ、何か方法はないの? レオは魔力の暴発でも死んじゃうんでしょう? でもアンドリューに殺されるなんて……アンドリューがレオを殺すなんて、僕、嫌だよ」
「……言っただろう、お前は俺たちの神子だって。方法はあるがな、多分アイツは嫌がるし……お前も嫌かもしれない」
 強気だと思えばこんな風に弱気になったり、傍若無人な振る舞いかと思わせて気遣いをしてくれる。うう、やめて欲しい、僕、そういうギャップに弱いんだ。
「方法があるなら教えて。僕はこの世界だけじゃ無くって、貴方のことも救えたら嬉しいよ」
 そう言って、隣に座るレオの手をぎゅっと握った。驚きに見開いた瞳は、近くで見てもやっぱりアンドリューと一緒のものだ。ただ、どこまでも真っ直ぐな彼と違って、レオの瞳はどこか憂いを帯びている。
 ため息をひとつついて、レオはぽつりと話し始めた。
「魔力を、抜き取る。それが神殿に伝わる唯一の方法だ。神子は勇者の力を増強させ、魔王の魔力を奪い取る事が出来る。だが、歴代の勇者は自分の伴侶たる神子を、魔王に差し出す事が出来ずに結局いつも――殺されてきたがな。純潔を奪われれば勇者の力を増幅させることは出来なくなるし、そもそも愛する相手を俺に譲ってくれる人間なんて……いないだろう」
 アンドリューのレベルを上げる方法がアレだとすると、魔王の魔力を奪う方法は――そう思い至って、顔が一瞬で朱に染まる。
「神子はそもそもそういう運命なんだがな。結局、先に出会う勇者にいつも持って行かれているんだよ。俺とお前だって運命の相手だっていうのに……出会って間が無くても、俺はもうお前に惹かれているって言うのにな」
 運命――その言葉に僕は胸の中でバラバラになっていた考えが、カチリと嵌まる音がした。ああ、そうだ。そうだったんだ。
 頬を撫でられて、愛しげに顔を覗き込まれる。ここにたどり着くまでの旅の間、日々見たことのある表情だ。好きだと、愛してるんだと囁くときのアンドリューと、全く同じ顔をしている。
 運命は、ここにあった。
 レオは強い癖に弱くって、雑な口調の癖に繊細な心を持っている。逃げることだってできただろうに、この城で、与えられた自分の運命を受け入れようとする、優しいレオ。何も出来ない俺が、彼を守りたいと言ったら人は笑うだろうか。
「レオ、大丈夫。俺は自分の意思で、レオを守ってあげたいって思うよ」
 その首筋に腕を巻き付けて、彼の身体にしがみついた。くんと匂うその体臭は、アンドリューのものによく似ていた。
「レオの魔力、僕が貰ってあげる」
 見開かれた瞳に映る僕は、一体どんな顔をしているだろう。返事を待つこと無く、僕は彼の唇にそっと同じものを重ねた。
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