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魔王と僕 ~トモヒロの話⑤~
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真っ白な肌に流れるような癖の無い金髪、そして碧眼を持つその姿は、肌の色が違えど全く同じ存在を僕は知っている。僕の好きな人とそっくりなその存在、まさか、あれは。
「魔王……? アンドリューの兄弟……?」
思わず呟いてしまったその声を、どうやら拾われてしまったらしい。
「ふん、俺は別にただの人間だぜ。魔王という役割を与えられ、ただ殺されて力を奪われるだけの存在だ。待ってたよ、俺たちの神子」
声までそっくりのその男は、アンドリューよりは少し粗雑なしゃべり方をする。だけど吐き出すような声音の割には、俺を見詰める瞳が優しくもある。
「お前の神子ではない! 私だけの神子だ!」
「勇者と魔王、双子の兄と弟に与えられた一人の神子。それが何を意味するのかお前だってこの世界だって分かってるだろ? 何を足掻いてるんだ、アンドリュー。まさか、本当に俺を殺せるとでも?」
同じ顔が揉めている。なに、どういうことなんだろう。聞いていた話とは違う展開に、俺は正直慌てるしか無い。魔王は一体、何を示しているんだ?
「神子って……勇者の伴侶って意味じゃないの?」
「ははっ、なんだお前ら、そんな言葉でこいつを騙してたのか? いいぜ、教えてやろう。神子とはなんなのか――」
「やめろ! この子はお前がどうこうして良い相手じゃない! 私の――私の神子だ」
見たことが無いほど、アンドリューのその必死の姿に、かえって何が秘められているのか気になってしまう。召喚された時から今の今まで流されて、考えた事の無かった自分の存在の在り方。ただ、勇者のレベルアップの為では無かったのか?
「聞きたい、僕は教えて欲しい」
「トモヒロ――!」
「ははっ、いいぜ、こっちへこい」
手招きに応じて、アンドリューの背中から一歩足を踏み出す。本当に、魔王はアンドリューとよく似ている。だけど外見的に違うのは、肌の白さとその荒っぽい喋り方だけなのに、顔つきまで野性的に見えるのだから不思議なものだ。
伸ばされた魔王の手を取る。
その瞬間、ふわりと身体が暖かい風に包まれた。
「トモ――……」
アンドリューの声が途中で途切れた、そう思うが早いか、僕の視界に見えるものは全く別のものに変化していた。
「魔王の、部屋?」
寝室と思しき室内に、僕は魔王とまだ手を握ったまま立っていた。
他人の部屋に案内する意味は分からないから、間違いなく魔王の自室なんだと思うものの、やはり勝手な妄想で黒一色だと思っていたのでその落差に少しだけ目を見張る。
天蓋付きのベッドはキングサイズであろうかという大きさで、そのベッドに見合っただけの広さのある部屋は、落ち着いた調度品で彩られていた。黒いカーテン、黒いシーツ、紫色の照明……は僕の想像上のものだったらしい。
「お前、落ち着いてるな? 魔王の部屋に拉致られたんだが。アイツもこの城にはすぐに入れないように、結界を張ってるっつーのに」
「うん……。なんでだろ。僕、そんなに貴方のこと怖くないんだよね。角が生えてるとか、モンスターみたいな姿かなあって勝手に考えてたから」
「はははっ、なんだそりゃ。そんなやつ居たらこええわ」
アンドリューと同じ顔で、アンドリューにはない無邪気な笑顔でカラカラと笑う魔王。何故だろう、胸がドキドキするのは。好きな相手と同じ顔だからだろうか。
「魔王さんの名前は?」
「あん? 俺の名前? 変なやつだな、お前。――レオ。死んだ母親が付けた名前だが、そう俺を呼ぶやつは一人もいねえ」
聞いてはいけない話だったのだろうか、さっきまでの無垢な笑顔と打って変わり、憂いを帯びたような、切ないような表情で名前を教えてくれた。
死んだ母親というのは、つまりアンドリューと同じ人なんだろうけれど、彼からそんな話を一度も聞いたことは無かった。
「レオ……。ねえ、教えて欲しい。僕はなんなのか、貴方がなんなのか、全然僕は知らなかった。レオとアンドリューは双子なのに、どうして勇者と魔王になってるの? 仲良くできないの? 僕は……僕はどうしたらいいの」
勇者は魔王を倒すもの、現代日本で育った僕にはテンプレのようなその展開に疑問を抱いたことは無かった。だけどこうして、魔王に出会った今、自分の存在そのものの基盤が揺らいでしまう。
「なんだよ、アイツと同じ顔だから同情してくれてんのか? そんな警戒心無くってよくここまでこれたなお前」
「いや、わかんないけど……わかんないけど。レオのことも放っておけないよ、僕」
それは紛れもない本心だ。アンドリューの事は好きだ。だけどレオが一人で何かを抱えて苦しんでいる事が分かった今、少しでもその気持ちに寄り添いたいと思っている自分がいる。
これは同情なのかもしれない。なんで魔王だなんて呼ばれるのかも分からない。だけど一人だけ、家族と引き離されてこの城で育って居たのだとすれば、それは悲しい事なんじゃないだろうか。
「はあ……。思ってたよりお節介だな、神子って存在は。ほら、こっち座れ。話をしてやるよ。つまんねえ話しだけど……聞いてくれるか」
そう言って魔王は近くのベッドに腰掛けた。ポンポンとその隣を叩いて自分を呼ぶその仕草が、アンドリューに不思議とよく似ていた。
「魔王……? アンドリューの兄弟……?」
思わず呟いてしまったその声を、どうやら拾われてしまったらしい。
「ふん、俺は別にただの人間だぜ。魔王という役割を与えられ、ただ殺されて力を奪われるだけの存在だ。待ってたよ、俺たちの神子」
声までそっくりのその男は、アンドリューよりは少し粗雑なしゃべり方をする。だけど吐き出すような声音の割には、俺を見詰める瞳が優しくもある。
「お前の神子ではない! 私だけの神子だ!」
「勇者と魔王、双子の兄と弟に与えられた一人の神子。それが何を意味するのかお前だってこの世界だって分かってるだろ? 何を足掻いてるんだ、アンドリュー。まさか、本当に俺を殺せるとでも?」
同じ顔が揉めている。なに、どういうことなんだろう。聞いていた話とは違う展開に、俺は正直慌てるしか無い。魔王は一体、何を示しているんだ?
「神子って……勇者の伴侶って意味じゃないの?」
「ははっ、なんだお前ら、そんな言葉でこいつを騙してたのか? いいぜ、教えてやろう。神子とはなんなのか――」
「やめろ! この子はお前がどうこうして良い相手じゃない! 私の――私の神子だ」
見たことが無いほど、アンドリューのその必死の姿に、かえって何が秘められているのか気になってしまう。召喚された時から今の今まで流されて、考えた事の無かった自分の存在の在り方。ただ、勇者のレベルアップの為では無かったのか?
「聞きたい、僕は教えて欲しい」
「トモヒロ――!」
「ははっ、いいぜ、こっちへこい」
手招きに応じて、アンドリューの背中から一歩足を踏み出す。本当に、魔王はアンドリューとよく似ている。だけど外見的に違うのは、肌の白さとその荒っぽい喋り方だけなのに、顔つきまで野性的に見えるのだから不思議なものだ。
伸ばされた魔王の手を取る。
その瞬間、ふわりと身体が暖かい風に包まれた。
「トモ――……」
アンドリューの声が途中で途切れた、そう思うが早いか、僕の視界に見えるものは全く別のものに変化していた。
「魔王の、部屋?」
寝室と思しき室内に、僕は魔王とまだ手を握ったまま立っていた。
他人の部屋に案内する意味は分からないから、間違いなく魔王の自室なんだと思うものの、やはり勝手な妄想で黒一色だと思っていたのでその落差に少しだけ目を見張る。
天蓋付きのベッドはキングサイズであろうかという大きさで、そのベッドに見合っただけの広さのある部屋は、落ち着いた調度品で彩られていた。黒いカーテン、黒いシーツ、紫色の照明……は僕の想像上のものだったらしい。
「お前、落ち着いてるな? 魔王の部屋に拉致られたんだが。アイツもこの城にはすぐに入れないように、結界を張ってるっつーのに」
「うん……。なんでだろ。僕、そんなに貴方のこと怖くないんだよね。角が生えてるとか、モンスターみたいな姿かなあって勝手に考えてたから」
「はははっ、なんだそりゃ。そんなやつ居たらこええわ」
アンドリューと同じ顔で、アンドリューにはない無邪気な笑顔でカラカラと笑う魔王。何故だろう、胸がドキドキするのは。好きな相手と同じ顔だからだろうか。
「魔王さんの名前は?」
「あん? 俺の名前? 変なやつだな、お前。――レオ。死んだ母親が付けた名前だが、そう俺を呼ぶやつは一人もいねえ」
聞いてはいけない話だったのだろうか、さっきまでの無垢な笑顔と打って変わり、憂いを帯びたような、切ないような表情で名前を教えてくれた。
死んだ母親というのは、つまりアンドリューと同じ人なんだろうけれど、彼からそんな話を一度も聞いたことは無かった。
「レオ……。ねえ、教えて欲しい。僕はなんなのか、貴方がなんなのか、全然僕は知らなかった。レオとアンドリューは双子なのに、どうして勇者と魔王になってるの? 仲良くできないの? 僕は……僕はどうしたらいいの」
勇者は魔王を倒すもの、現代日本で育った僕にはテンプレのようなその展開に疑問を抱いたことは無かった。だけどこうして、魔王に出会った今、自分の存在そのものの基盤が揺らいでしまう。
「なんだよ、アイツと同じ顔だから同情してくれてんのか? そんな警戒心無くってよくここまでこれたなお前」
「いや、わかんないけど……わかんないけど。レオのことも放っておけないよ、僕」
それは紛れもない本心だ。アンドリューの事は好きだ。だけどレオが一人で何かを抱えて苦しんでいる事が分かった今、少しでもその気持ちに寄り添いたいと思っている自分がいる。
これは同情なのかもしれない。なんで魔王だなんて呼ばれるのかも分からない。だけど一人だけ、家族と引き離されてこの城で育って居たのだとすれば、それは悲しい事なんじゃないだろうか。
「はあ……。思ってたよりお節介だな、神子って存在は。ほら、こっち座れ。話をしてやるよ。つまんねえ話しだけど……聞いてくれるか」
そう言って魔王は近くのベッドに腰掛けた。ポンポンとその隣を叩いて自分を呼ぶその仕草が、アンドリューに不思議とよく似ていた。
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