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攻めくんは努力が嫌いだ。 20230624
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攻めくんは努力が嫌いだ。それでいて並以上の賞賛が欲しいし周りに認めて欲しい。平たく言えば色々拗らせていた。
そんな攻めくん、見た目は雰囲気イケメンだった。年の離れた姉に小洒落た感じに整えて貰っていて、田舎町ではイケメンに分類されていた。
そんな彼に熱視線を送るのが受けくんだった。垢抜けない小柄な男で野暮ったい眼鏡をかけている。成績は攻めくんより少し良いくらいの陰キャ。攻めくんは「キモ」と見下してたけど、ある日たまたまメガネを外した受けくんの顔がめちゃくちゃ綺麗な事を知ってしまった。
顔が良くても男だし好意なんてなかったけど、「この顔のいい男を自分の言いなりにできたら」と薄暗く笑う。
そこから攻めくんは受けくんに近づく。それとなく肩を組んだり顔を近づけたり。最初は戸惑う受けくんだけど次第に笑顔を向けてくるようになる。それとなく仕向けられてとうとう受けくんは攻めくんに告白した。「俺もだよ」なんて心にもない言葉を吐いて、受けくんを自分のものにした。
自分のために甲斐甲斐しく動く受けくんを見るのは気持ちよかった。メガネを外せば美少女に見えなくもない。田舎町ではきっと受けくん以上の美形はいないだろうが、そんな存在が攻めくんに全てを捧げているのだ。攻めくんは支配欲も承認欲求も満たされてご機嫌だ。少しダルそうな態度をとれば、受けくんはすぐに不安げに機嫌をとってくるのも愉快だった。そんな関係がしばらく続く。
大学受験、攻めくんは第一志望の東京の大学に受かった。でも受けくんは攻めくんと同じ大学を落ちてしまって、地元の大学に進むことになった。
攻めくんはほくそ笑む。「浮気するなよ」なんてキスをして自分は東京で彼女を作るつもりだった。不安そうな受けくんはキープしたまま攻めくんは上京した。
だけど結果は惨敗。都会は雰囲気イケメンでは太刀打ちできなくて、ガチのイケメンや遊び慣れてる男たち、勉強もできて話上手がゴロゴロいて、攻めくんは相手にされない。カースト上位だったのは過去の栄光で大学では小さくなって過ごしていた。
惨めな気持ちだったけど受けくんの事を思い出す。攻めくんがいないと何もできないような男の事を。頻繁にくるラインを適当にあしらっていたけれどあいつなら俺を必要としてると電車を乗り継ぎ地元に帰る。
久しぶりに会った受けくんは突然来た攻めくんに驚いて、でも凄く喜んだ。だけど攻めくんは受けくん以上に驚く。
野暮ったいだけの受けくんがピカピカに磨かれて綺麗になっていたからだ。おしゃれメガネが似合ってて髪型もファッションも全然違う。チラチラとこちらを見る周囲の視線は、攻めくんじゃなく受けくんにばかり向いていた。
「その格好どうしたんだ」焦りを隠しながらそう聞くと受けくんがはにかむ。「大学の友達に好きにされちゃった。でもこっちの方が攻めくん好みかなって」綺麗で優しい受けくん、それを知ってるのは自分だけだという優越感が崩れた気がした。
自分は大学で失敗したのに、受けくんは楽しそうだ。いつの間にか立場が逆転している気がして、攻めくんは不安から受けくんを手酷く抱いた。それでも健気に受け入れようとしてくれる受けくんの事が、愛しいような憎らしいようなそんな相反する感情が渦巻いてよく分からない。
好きじゃない。支配欲を満たすための存在だったはずだ。それなのにまだ攻めくんを好きでいてくれて必要としてくれて、手酷く抱いても大丈夫だと手を伸ばしてくれるのだ。
攻めくんは泣いた。受けくんに謝りながら情けなく泣いた。東京で上手くいかないこと、付き合った本当の理由も全部話した。受けくんは話を聞いて、それでも「いいよ」と笑った。
受けくんは攻めくんに憧れていた。クラスの中心グループにいてひねくれてるようでたまに子供みたいに笑う笑顔が好きだった。あの当時別のグループにいじめられていた受けくん。攻めくんが関わってきたことでいじめが止んだのは事実だし、たとえ攻めくんに下心があったとしても彼を好きだったのは受けくん自身だ。攻めくんについては、時々おかしな強がりを言ったり素直じゃないなあと思っていたけど、そんな所もひっくるめて好きなのだ。
受けくんがそう伝えると攻めくんはさらに泣いた。泣いて、泣いて、これからはもっと受けくんを大事にすると言った。
その後、攻めくんは宣言通り受けくんを大切にしてくれた。まめに返信もくれるようになったし、長期連休にもお互いの家を行き来するようになる。
攻めくんは気持ちを入れ替えて、将来を見据え学業に専念したり受けくんの隣に立てるように自分磨きもした。外見も内面も釣り合うようになりたくて。
そんな攻めくんを受けくんは何も言わずに見守ってくれていた。
頑張る攻めくんが輝き出して、大学の子にモテ始めた話を聞いた時は少し不安だったけれど。だけど昔と違って攻めくんは自分しか見てないことを知ってるから、受けくんは受けくんで日々の生活を頑張ることができた。
そうは言っても喧嘩しなかった訳じゃないし、たまに攻めくんの悪い癖で受けくんを支配したがるそぶりが出ることもあった。だけどすっかり対等になった受けくんが「そういう所よくないよ」と窘めると、攻めくんはハッとして、それからごめんと謝るのだった。
始まりは決して綺麗な感情じゃなかった。紆余曲折あったし沢山揉めた。それでも2人は一緒にいたしこれからも一緒にいるつもりだ。
「ただいま」そういって受けくんは真新しい扉を開ける。「おかえり」出迎える攻めくん。
2人の生活はまだ始まったばかりだ。
終
そんな攻めくん、見た目は雰囲気イケメンだった。年の離れた姉に小洒落た感じに整えて貰っていて、田舎町ではイケメンに分類されていた。
そんな彼に熱視線を送るのが受けくんだった。垢抜けない小柄な男で野暮ったい眼鏡をかけている。成績は攻めくんより少し良いくらいの陰キャ。攻めくんは「キモ」と見下してたけど、ある日たまたまメガネを外した受けくんの顔がめちゃくちゃ綺麗な事を知ってしまった。
顔が良くても男だし好意なんてなかったけど、「この顔のいい男を自分の言いなりにできたら」と薄暗く笑う。
そこから攻めくんは受けくんに近づく。それとなく肩を組んだり顔を近づけたり。最初は戸惑う受けくんだけど次第に笑顔を向けてくるようになる。それとなく仕向けられてとうとう受けくんは攻めくんに告白した。「俺もだよ」なんて心にもない言葉を吐いて、受けくんを自分のものにした。
自分のために甲斐甲斐しく動く受けくんを見るのは気持ちよかった。メガネを外せば美少女に見えなくもない。田舎町ではきっと受けくん以上の美形はいないだろうが、そんな存在が攻めくんに全てを捧げているのだ。攻めくんは支配欲も承認欲求も満たされてご機嫌だ。少しダルそうな態度をとれば、受けくんはすぐに不安げに機嫌をとってくるのも愉快だった。そんな関係がしばらく続く。
大学受験、攻めくんは第一志望の東京の大学に受かった。でも受けくんは攻めくんと同じ大学を落ちてしまって、地元の大学に進むことになった。
攻めくんはほくそ笑む。「浮気するなよ」なんてキスをして自分は東京で彼女を作るつもりだった。不安そうな受けくんはキープしたまま攻めくんは上京した。
だけど結果は惨敗。都会は雰囲気イケメンでは太刀打ちできなくて、ガチのイケメンや遊び慣れてる男たち、勉強もできて話上手がゴロゴロいて、攻めくんは相手にされない。カースト上位だったのは過去の栄光で大学では小さくなって過ごしていた。
惨めな気持ちだったけど受けくんの事を思い出す。攻めくんがいないと何もできないような男の事を。頻繁にくるラインを適当にあしらっていたけれどあいつなら俺を必要としてると電車を乗り継ぎ地元に帰る。
久しぶりに会った受けくんは突然来た攻めくんに驚いて、でも凄く喜んだ。だけど攻めくんは受けくん以上に驚く。
野暮ったいだけの受けくんがピカピカに磨かれて綺麗になっていたからだ。おしゃれメガネが似合ってて髪型もファッションも全然違う。チラチラとこちらを見る周囲の視線は、攻めくんじゃなく受けくんにばかり向いていた。
「その格好どうしたんだ」焦りを隠しながらそう聞くと受けくんがはにかむ。「大学の友達に好きにされちゃった。でもこっちの方が攻めくん好みかなって」綺麗で優しい受けくん、それを知ってるのは自分だけだという優越感が崩れた気がした。
自分は大学で失敗したのに、受けくんは楽しそうだ。いつの間にか立場が逆転している気がして、攻めくんは不安から受けくんを手酷く抱いた。それでも健気に受け入れようとしてくれる受けくんの事が、愛しいような憎らしいようなそんな相反する感情が渦巻いてよく分からない。
好きじゃない。支配欲を満たすための存在だったはずだ。それなのにまだ攻めくんを好きでいてくれて必要としてくれて、手酷く抱いても大丈夫だと手を伸ばしてくれるのだ。
攻めくんは泣いた。受けくんに謝りながら情けなく泣いた。東京で上手くいかないこと、付き合った本当の理由も全部話した。受けくんは話を聞いて、それでも「いいよ」と笑った。
受けくんは攻めくんに憧れていた。クラスの中心グループにいてひねくれてるようでたまに子供みたいに笑う笑顔が好きだった。あの当時別のグループにいじめられていた受けくん。攻めくんが関わってきたことでいじめが止んだのは事実だし、たとえ攻めくんに下心があったとしても彼を好きだったのは受けくん自身だ。攻めくんについては、時々おかしな強がりを言ったり素直じゃないなあと思っていたけど、そんな所もひっくるめて好きなのだ。
受けくんがそう伝えると攻めくんはさらに泣いた。泣いて、泣いて、これからはもっと受けくんを大事にすると言った。
その後、攻めくんは宣言通り受けくんを大切にしてくれた。まめに返信もくれるようになったし、長期連休にもお互いの家を行き来するようになる。
攻めくんは気持ちを入れ替えて、将来を見据え学業に専念したり受けくんの隣に立てるように自分磨きもした。外見も内面も釣り合うようになりたくて。
そんな攻めくんを受けくんは何も言わずに見守ってくれていた。
頑張る攻めくんが輝き出して、大学の子にモテ始めた話を聞いた時は少し不安だったけれど。だけど昔と違って攻めくんは自分しか見てないことを知ってるから、受けくんは受けくんで日々の生活を頑張ることができた。
そうは言っても喧嘩しなかった訳じゃないし、たまに攻めくんの悪い癖で受けくんを支配したがるそぶりが出ることもあった。だけどすっかり対等になった受けくんが「そういう所よくないよ」と窘めると、攻めくんはハッとして、それからごめんと謝るのだった。
始まりは決して綺麗な感情じゃなかった。紆余曲折あったし沢山揉めた。それでも2人は一緒にいたしこれからも一緒にいるつもりだ。
「ただいま」そういって受けくんは真新しい扉を開ける。「おかえり」出迎える攻めくん。
2人の生活はまだ始まったばかりだ。
終
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