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ちょろい神様の話 20230815

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お願いするとなんでも叶えてくれる神様は、村人たちに大切にされていた。むやみに願いを伝えることなく、本当に困った時だけお願いをするような良い関係だった。
だけど何十年何百年と経ち、神様の祠は朽ち果てた。代が変わるごとに神様は軽く扱われ人でも出来ることまで神様が使われてしまった。その割に大事にされず、人々は祈りの気持ちすらない。神様はすっかりやつれてしまって、力を失った。
力がなくなった神様の元から人々は離れていって、村は消えた。でも神様はずっとそこで1人で生きてきた。
荒れ果てた村を歩いて、はるか昔の思い出を辿る。笑顔で駆け回っていた子供たちの幻影が見えるようだ。
「神様?」
そう呼ばれて振り向くと、1人の青年が立っていた。昔村に住んでいた誰かに似てる気がした。
現代には珍しく神様が見えるその青年は大学生で、なんとかの研究で曽祖父の生まれ故郷を尋ねてきたらしい。たしかに縁がある顔つきだった。

神様がいた、と話していたという曽祖父の日記を見つけた青年が見たものは、山の中の寂しい集落跡地で暮らしている姿だった。神様、と言うとはにかむその彼の姿はたまらない気持ちにさせられた。
夏の間、青年は神様と共に過ごした。小川に入り魚を見つけ、木々の実りの場所を教えてもらった。神様はあれこれと青年を連れ出して、まるで自分の宝物を得意そうに見せるこどものようだった。
キラキラと輝く神様に、青年は次第と惹かれていった。

夏も終わろうとする頃、神様はふさぎがちになる。体調でも悪いのかと聞けばそうでは無いと言われる。
そんなある日、2人は激しい夕立に見舞われた。濡れたのは青年だけだったが、神様はそんな彼をじっと見つめる。普段とは違うその視線に「どうしたんですか神様」と問う。
神様は視線をさ迷わせ、それから押し黙り、それでも根気よく待つと重い口を開いた。
「夏が終われば、お前はいなくなるんだろう」
神様は小さな声で「寂しい」と言う。寂しさなんて忘れていたのに、青年のせいで思い出してしまった。
「でも」と神様は続けた。
「願いを叶えてやろう」そう手を差し伸べた。こうすれば人間は喜んでくれると神様は知っていた。長い時間をかけて、僅かに戻った力は青年の願いなら叶えてあげられそうだった。
神様はこの力以外、何も持たない。あげられるものがなにもないのだ。
だけど、だからと言って青年をこの地に留めようなんて思っていない。人間が住むにはあまりに不便だと、神様は知っていた。
だけど最後に、僅かでも青年を喜ばせたい。喜んだ顔を覚えておきたいと思った。
青年は少し考えて、それから口を開いた。
「神様と共に生きる方法を教えてください。それが願いです」
青年の言葉に神様はきょとんとした。それから意味を理解して目をまん丸に見開いた。
「それは私に懸想しているという事か?」
「知らなかったですか?」
神様は首を横に振って、青年は神様を抱きしめた。
「この願いさえ叶えば、あとは自分でどうにかします」
自信があるのかないのかわからない言葉に、神様は思わず吹き出した。
変な人間もいるものだと思った。だけど自分にお似合いの気もした。
神様は咳払いをひとつして、それから神妙な顔で青年に言った。
「その願い、叶えてしんぜよう」
クスクスと笑い合う2人は、どちからからともなくその手を繋ぎあったのだった。

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