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ひとりきりのSub
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ヨウスケは、窓から見えるいつもの森を、何をするでもなくただ眺めた。
「エダール、元気かな」
今この家に暮らすのは、ヨウスケただ一人だった。
いつもと同じ食事、いつもと同じ日々の繰り返し。だがその中にたった一人がいない。
小さな椅子の上で膝を抱える。城から戻ってきて二ヶ月が経とうとするものの、ぼうっとする事が多くなった。
何をしても落ち着かないような、不安定な気持ちになる。
それがDomを失ったSubとしての欠乏症状なのか、それとも愛しい相手を失ったただの恋をする男の心情なのか。
「そういえば、好きだって言えなかったな」
ただの家族として愛していたと思っていた。Subとして、手放したくないと思っていた。だけど言ってみればそれだけで、そこに特別な感情が湧くなんて思ってもなかったのだ。
プレイと恋愛は違う。だけど恋愛関係に発展する確率は七割以上あると、ヨウスケは以前テレビで見たことがあった。心をさらけ出す性は、どうしてもそういった関係になりやすいのだと。
だからこそ自分がSubだと知った時は、Domという存在が怖かったものだ。
「エダール」
彼にとっての自分は、どういうものだったのだろうか。Dom性を自覚する前に命令させることを教えてしまった。酷い親代わりだったなと自嘲した。
「……今更か」
嫌な事を言って突き放した。嫌な人間だったと思って貰ったほうがいい、そう判断しての事だったが、だけど今も自分の中にいるエダールは変わらない無表情で、それでも尻尾を揺らしている。
顔を押しつけていた膝が、水滴に濡れて冷たくなる。
誰も見てないというのに鼻を啜って誤魔化した。
「……あれ……?」
涙が止まって、袖で雑に拭った所で違和感を感じた。窓の外がすっかり薄暗くなっている。曇り空ではない、むしろ晴れている。それなのに空の太陽は霞んで見えて、明りが薄呆けてよく見えない。
この天気に、ヨウスケは痛い程覚えがあった。
「……瘴気が……?」
数年前、ヴィーと一緒に封じた瘴気とよく似ていた。国全体を覆い隠すその災厄は、日光を奪い土地を痩せさせた。吹きだまりから溢れた瘴気により病が流行り、国力が著しく低下させる。
だが魔力で探ってみても、この森に封じた瘴気に変化はない。
「一体どこから……。あ、でも」
元・大魔法使いとしてあれこれ考えてしまったが、今は正しく封印できる神子――エダールがいるのだ。神殿に大切にされる彼の近くには、前回瘴気を封じたヴィーもいる。何も問題無い。自分の出る幕はないのだと、ヨウスケは再び膝に顔を埋めた。
だがそんなヨウスケの周りに、突然輝く光の塊が現われる。
「は……? ヴィーからの手紙……?」
鳥を象ったその光は、あの双子の魔法使いが寄越したもの。つまりはその主であるヴィーからだ。ヨウスケはあまりのタイミングの良さに、嫌な予感がした。
この瘴気の気配とヴィーからの手紙。関係無いことを祈りながら封筒を開いた。
「……は? エダールの魔力が暴走した……?」
時候の挨拶もなく、乱雑に書き綴られているヴィーの言葉は酷く端的だ。
――エダールの魔力が暴走し、王都で瘴気が発生した。図々しい頼みだとは分かっているが、力を貸して欲しい。
一緒に現われた転移の魔法陣。これを使って直ぐに来い、という事だ。ヴィーの言っている事は分かる、だが理解出来ない。何故魔力の暴走が瘴気となるのか。そもそも、魔力が瘴気へと変わるなんてあり得るのか。
自分と関わる事はエダールの益にならないと、距離を置いたはずなのに。
ヨウスケは髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「~~っ、くそ……!」
放っておける訳が無い。
「エダール、元気かな」
今この家に暮らすのは、ヨウスケただ一人だった。
いつもと同じ食事、いつもと同じ日々の繰り返し。だがその中にたった一人がいない。
小さな椅子の上で膝を抱える。城から戻ってきて二ヶ月が経とうとするものの、ぼうっとする事が多くなった。
何をしても落ち着かないような、不安定な気持ちになる。
それがDomを失ったSubとしての欠乏症状なのか、それとも愛しい相手を失ったただの恋をする男の心情なのか。
「そういえば、好きだって言えなかったな」
ただの家族として愛していたと思っていた。Subとして、手放したくないと思っていた。だけど言ってみればそれだけで、そこに特別な感情が湧くなんて思ってもなかったのだ。
プレイと恋愛は違う。だけど恋愛関係に発展する確率は七割以上あると、ヨウスケは以前テレビで見たことがあった。心をさらけ出す性は、どうしてもそういった関係になりやすいのだと。
だからこそ自分がSubだと知った時は、Domという存在が怖かったものだ。
「エダール」
彼にとっての自分は、どういうものだったのだろうか。Dom性を自覚する前に命令させることを教えてしまった。酷い親代わりだったなと自嘲した。
「……今更か」
嫌な事を言って突き放した。嫌な人間だったと思って貰ったほうがいい、そう判断しての事だったが、だけど今も自分の中にいるエダールは変わらない無表情で、それでも尻尾を揺らしている。
顔を押しつけていた膝が、水滴に濡れて冷たくなる。
誰も見てないというのに鼻を啜って誤魔化した。
「……あれ……?」
涙が止まって、袖で雑に拭った所で違和感を感じた。窓の外がすっかり薄暗くなっている。曇り空ではない、むしろ晴れている。それなのに空の太陽は霞んで見えて、明りが薄呆けてよく見えない。
この天気に、ヨウスケは痛い程覚えがあった。
「……瘴気が……?」
数年前、ヴィーと一緒に封じた瘴気とよく似ていた。国全体を覆い隠すその災厄は、日光を奪い土地を痩せさせた。吹きだまりから溢れた瘴気により病が流行り、国力が著しく低下させる。
だが魔力で探ってみても、この森に封じた瘴気に変化はない。
「一体どこから……。あ、でも」
元・大魔法使いとしてあれこれ考えてしまったが、今は正しく封印できる神子――エダールがいるのだ。神殿に大切にされる彼の近くには、前回瘴気を封じたヴィーもいる。何も問題無い。自分の出る幕はないのだと、ヨウスケは再び膝に顔を埋めた。
だがそんなヨウスケの周りに、突然輝く光の塊が現われる。
「は……? ヴィーからの手紙……?」
鳥を象ったその光は、あの双子の魔法使いが寄越したもの。つまりはその主であるヴィーからだ。ヨウスケはあまりのタイミングの良さに、嫌な予感がした。
この瘴気の気配とヴィーからの手紙。関係無いことを祈りながら封筒を開いた。
「……は? エダールの魔力が暴走した……?」
時候の挨拶もなく、乱雑に書き綴られているヴィーの言葉は酷く端的だ。
――エダールの魔力が暴走し、王都で瘴気が発生した。図々しい頼みだとは分かっているが、力を貸して欲しい。
一緒に現われた転移の魔法陣。これを使って直ぐに来い、という事だ。ヴィーの言っている事は分かる、だが理解出来ない。何故魔力の暴走が瘴気となるのか。そもそも、魔力が瘴気へと変わるなんてあり得るのか。
自分と関わる事はエダールの益にならないと、距離を置いたはずなのに。
ヨウスケは髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「~~っ、くそ……!」
放っておける訳が無い。
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