5 / 24
生きて
しおりを挟む
この世界では人は簡単に死ぬ。医療レベルがまだ発展途上であり、ちょっとした熱や怪我で人は死んでしまうのだ。旅の途中、そんな人の死に何度も直面した事がある。
「俺が人を治せたらいいのに」
自分のSubとしての欲求抑制は可能だった。疲れや熱も、ヨウスケ自身なら治すことができる。だけど他人の身体に対する魔法は、過去に何度も挑戦してそして駄目だった。何度自分の無力さに、唇を噛みしめたか分からない。
「ヨウスケ」
「っ、エダール、ごめん、煩くしたな」
伸ばしてくるエダールの手を、ヨウスケはギュッと握りしめた。熱いその手のひらが、ゆっくりと握り返してくれる。
「ヨウスケ、こっち。ん」
「え、え?」
ゆるゆると手を引かれ、導かれるまま、まくりあげられた布団の中に入れられる。
小さな身体は、ヨウスケの腰に抱きついてきた。幼いとはいえ、十五歳程度だろうエダールと一緒の布団に入るのはどうなのだろうか。物心ついてからのヨウスケは、こんな距離で他人と過ごしたことがない。
「ええっと、寒いのか?」
そう問いかければ、銀色の髪がゆるゆると横に揺れた。
「ヨウスケが、寒い」
言われてみれば少し身体が冷えている。暖房を付けていたリビングとは違い、寝室は外気温とさほど差が無い。
自分の身体が辛いというのに、他人を気遣える子なのだと驚いた。それと同時にヨウスケは無性に嬉しくなり、腹の奥から湧き上がる不思議な感情に戸惑う。
「さっきは『ありがとう』ヨウスケ」
「っ」
ハサミを手放した事を褒めてくれたのだろう。
エダールはさっき教えた事を覚えていたのだろうか。
だけど少年は本能的に、Subであるヨウスケに命令をしたら褒める、という基本的なプレイの在り方を察したのかも知れない。
食事を出されたら食べる、眠くなったら目を閉じて眠る。第三の性別であるこのダイナミクスは、それと同列にできる本能なのだ。
触れ合った部分が、身体全体が、爪先まで。喜びがヨウスケの身体を通り抜ける。それは命令を達成した時の比ではなかった。
「エダール……」
「ヨウスケ、まだ寝たくない。『なにかお話、して』」
瞳はトロトロと、今にも眠りに落ちそうなのに。人恋しいのか、不安なのか。またはその両方なのか。ヨウスケはいじらしいその命令に、胸が締め付けられた。
「あ、ああ。何がいいかな。ああ、そうだ。獣人族の絵本があったな……ちょっと待て」
読み書きが出来なかった召喚されたてのあの頃に、友人が勉強用にとくれた子供向けの絵本だ。豪華な革張りのそれは、貴族の子息用だったのかもしれない。
寝室の本棚に入れていたその重い絵本とともに布団に入り直すと、赤い顔をしたエダールの隣で読み始める。
「そうして、幸せになりましたとさ。これは獣のような耳と尻尾を付けた獣人族のお話です。おしまい。……もう寝たか?」
気がつけば、エダールは小さな寝息を立てていた。ピクピクと動く耳はまるでこの絵本に出てくる獣人族そのものだ。だけどこの本をくれた友人は、獣人族は架空の生き物なのだと、ファンタジーに胸を躍らせていたヨウスケをがっかりさせたものだった。
懐かしい記憶に、ヨウスケは小さく笑った。
再び眠りに落ちた小さなDomの身体を、ヨウスケはギュッと抱きしめて祈った。少しでも良くなりますように。身体が楽になりますようにと。
エダール。俺のDom。
ダイナミクスはこんなにも感情を引きずらせるのだろうか。今日出会ったばかりの少年が、こんなにも愛おしい。
気がつけばヨウスケも眠りに落ちた。
翌朝、すっかり元気になったエダールに起こされるまで、ヨウスケは異世界に来て初めての安眠を得たのだった。
「俺が人を治せたらいいのに」
自分のSubとしての欲求抑制は可能だった。疲れや熱も、ヨウスケ自身なら治すことができる。だけど他人の身体に対する魔法は、過去に何度も挑戦してそして駄目だった。何度自分の無力さに、唇を噛みしめたか分からない。
「ヨウスケ」
「っ、エダール、ごめん、煩くしたな」
伸ばしてくるエダールの手を、ヨウスケはギュッと握りしめた。熱いその手のひらが、ゆっくりと握り返してくれる。
「ヨウスケ、こっち。ん」
「え、え?」
ゆるゆると手を引かれ、導かれるまま、まくりあげられた布団の中に入れられる。
小さな身体は、ヨウスケの腰に抱きついてきた。幼いとはいえ、十五歳程度だろうエダールと一緒の布団に入るのはどうなのだろうか。物心ついてからのヨウスケは、こんな距離で他人と過ごしたことがない。
「ええっと、寒いのか?」
そう問いかければ、銀色の髪がゆるゆると横に揺れた。
「ヨウスケが、寒い」
言われてみれば少し身体が冷えている。暖房を付けていたリビングとは違い、寝室は外気温とさほど差が無い。
自分の身体が辛いというのに、他人を気遣える子なのだと驚いた。それと同時にヨウスケは無性に嬉しくなり、腹の奥から湧き上がる不思議な感情に戸惑う。
「さっきは『ありがとう』ヨウスケ」
「っ」
ハサミを手放した事を褒めてくれたのだろう。
エダールはさっき教えた事を覚えていたのだろうか。
だけど少年は本能的に、Subであるヨウスケに命令をしたら褒める、という基本的なプレイの在り方を察したのかも知れない。
食事を出されたら食べる、眠くなったら目を閉じて眠る。第三の性別であるこのダイナミクスは、それと同列にできる本能なのだ。
触れ合った部分が、身体全体が、爪先まで。喜びがヨウスケの身体を通り抜ける。それは命令を達成した時の比ではなかった。
「エダール……」
「ヨウスケ、まだ寝たくない。『なにかお話、して』」
瞳はトロトロと、今にも眠りに落ちそうなのに。人恋しいのか、不安なのか。またはその両方なのか。ヨウスケはいじらしいその命令に、胸が締め付けられた。
「あ、ああ。何がいいかな。ああ、そうだ。獣人族の絵本があったな……ちょっと待て」
読み書きが出来なかった召喚されたてのあの頃に、友人が勉強用にとくれた子供向けの絵本だ。豪華な革張りのそれは、貴族の子息用だったのかもしれない。
寝室の本棚に入れていたその重い絵本とともに布団に入り直すと、赤い顔をしたエダールの隣で読み始める。
「そうして、幸せになりましたとさ。これは獣のような耳と尻尾を付けた獣人族のお話です。おしまい。……もう寝たか?」
気がつけば、エダールは小さな寝息を立てていた。ピクピクと動く耳はまるでこの絵本に出てくる獣人族そのものだ。だけどこの本をくれた友人は、獣人族は架空の生き物なのだと、ファンタジーに胸を躍らせていたヨウスケをがっかりさせたものだった。
懐かしい記憶に、ヨウスケは小さく笑った。
再び眠りに落ちた小さなDomの身体を、ヨウスケはギュッと抱きしめて祈った。少しでも良くなりますように。身体が楽になりますようにと。
エダール。俺のDom。
ダイナミクスはこんなにも感情を引きずらせるのだろうか。今日出会ったばかりの少年が、こんなにも愛おしい。
気がつけばヨウスケも眠りに落ちた。
翌朝、すっかり元気になったエダールに起こされるまで、ヨウスケは異世界に来て初めての安眠を得たのだった。
41
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
幽閉された魔王は王子と王様に七代かけて愛される
くろなが
BL
『不器用クールデレ王様×魔族最後の生き残り魔王』と『息子×魔王』や『父+息子×魔王』などがあります。親子3人イチャラブセックス!
12歳の誕生日に王子は王様から魔王討伐時の話を聞く。討伐時、王様は魔王の呪いによって人間と結婚できなくなり、呪いを解くためにも魔王を生かして地下に幽閉しているそうだ。王子は、魔王が自分を産んだ存在であると知る。王家存続のために、息子も魔王と子作りセックス!?
※含まれる要素※ ・男性妊娠(当たり前ではなく禁呪によって可能) ・血縁近親相姦 ・3P ・ショタ攻めの自慰 ・親のセックスを見てしまう息子 ・子×親 ・精通
完全に趣味に走った作品です。明るいハッピーエンドです。
眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。
櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。
次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!?
俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。
そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──?
【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
異世界転移した男子高校生だけど、騎士団長と王子に溺愛されて板挟みになってます
彩月野生
BL
陰キャ男子高校生のシンヤは、寝て起きたら異世界の騎士団長の寝台に寝ていた。
騎士団長ブライアンに求婚され、強制的に妻にされてしまったが、ある日王太子が訪ねて来て、秘密の交流が始まり……騎士団長と王子の執着と溺愛にシンヤは翻弄される。ダークエルフの王にまで好かれて、嫉妬に狂った二人にさらにとろとろに愛されるように。
後に男性妊娠、出産展開がありますのでご注意を。
※が性描写あり。
(誤字脱字報告には返信しておりませんご了承下さい)
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
イケメンエルフ達とのセックスライフの為に僕行きます!
霧乃ふー 短編
BL
ファンタジーな異世界に転生した僕。
そしてファンタジーの世界で定番のエルフがエロエロなエロフだなんて話を聞いた僕はエルフ達に会いに行くことにした。
森に行き出会ったエルフ達は僕を見つけると……♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる