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ハロウィン

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 幼なじみ、腐れ縁、クラスメイト、俺たちふたりの関係性を現す言葉なら沢山ある。だけど森永に対して感じている俺の気持ちを表現できる言葉なんて、世界中にひとつしかない。
 俺に比べたら背が低いと嘆く背丈に、さらさらと揺れる髪の毛と、クルクルと表情を変えるよく見れば整った顔立ちはいつも明るく皆を惹き付ける。それでいて本当は誰より繊細な――それが俺の好きなやつ。

 高校生にもなって運動会なんて楽しめないと思っていたが、うちの学校は割と生徒会が頑張っているのか文化祭を混ぜたような大掛かりなものだ。ダンスあり、寸劇あり、何故か売店まで作るのだが全く俺には楽しさがよく分からない。面倒だろう、という意識が先にたつ。
 だが俺の幼なじみでクラスの中心に居る森永は違ったようだ。お祭り騒ぎが大好きで、クラスメイトとワイワイ何をしようか積極的に相談をしていたようだ。俺は別にそれに混じらなくてもいい、その輪の中で楽しそうに笑う森永を見ているのが幸せなのだから。

「江崎ー!Trick or Treat!」

 輪の中から抜け出してきた幼なじみは、黒いマントを羽織りながら近づいてきた。なるほど、これは体育祭の仮装マラソンの準備か?確かに秋晴れのこの時期、もう街中はハロウィン一色だったな。
 猫耳フードの付いた真っ黒なマントに、明るい森永の笑顔が眩しい。誰だ、こいつにこんなの着せたのは。可愛すぎるじゃないか。

「お菓子はない」
「えー?俺お腹すいたのになあ~」

 甘いものを食べない俺が持ってるわけ無いだろうに。知ってるはずなのになんで来たんだこいつは。唇を突き出して分かりやすく不満を訴える森永は愛らしい。わしゃわしゃと頭を撫でてやれば、嬉しそうに笑いかけてくる俺たちの距離感。

「ほら森永」

 両腕を広げれば、森永は首をこてんと傾げる。パサリと落ちた猫耳フードから、覗く首筋は俺にだけ艶めかしく見えてしまう。

「お菓子くれなきゃイタズラ、するんだろ?していいぜ?」

 意趣返しにそう言ってやれば、森永はパアッと顔を明るくしてオレの腕の中に飛び込んできた。
「やったー!おりゃー江崎~!どうだ!」

 楽しそうに叫ぶ森永が一生懸命俺の体のあちこちをくすぐる。くすぐったくない訳では無いが、許せる範囲だからいつも通りの態度で頑張る森永を見ていた。

「……今回も?」
「今回も。残念森永。大してくすぐったくない」

 昔から何度もくすぐりに挑戦しては敗退している森永は、笑い転げる俺がみたいなんて奇特な目標を掲げてたまにこうして仕掛けてくる。俺にしたら嬉しい触れ合いでしかないけれど。
 大袈裟にがっかりする森永の頭を撫でると、その身体を抱きしめて気合を入れて縦抱っこしてやる。少し背の低いこいつが割と喜ぶ、子供の頃から続く遊びだ。

「おおっ、見晴らしサイコー!」

 無邪気にはしゃぐ幼なじみは、教室のの端の同じグループの奴らに手を振り始めた。

「おーい森永~江崎も!運動会の種目決めるぜー。お前らホント真逆なのに仲良いよなぁ」
「幼なじみだっけ?ほら、江崎、そのまま森永連れてきてくれよ!すーぐ逃げるわこいつ」

 声をかけてくるクラスメイト相手に、逃げねえし!とブツブツ言う森永を抱えたまま、俺も輪の中に入っていった。
 何も悩むことなく俺の首に腕を回してくれる森永との信頼関係を、今はまだ、崩すことはできない。
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