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時は遡り、中学時代の2人。
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形の良い唇を必死に噛み締めながら、必死に涙をこらえる男。
その横顔を、ただただ俺は見ていた。
――――――――
森永が入学と同時に夢中になっていた吹奏楽は、地区大会が終わり県大会へと進んだ。
部長でありトランペット奏者の森永は、いつだって真剣に部活と向き合ってきたのを俺はずっと見ていた。
今年の課題曲はどうだ、自由曲はどうだの、正直俺には分からない。
だがそうやって自分の好きな事を語る森永を見るのが好きで、よく知りもしない話を飽きずにずっと聞いていたんだ。
「……森永。おつかれ」
中学最後の県大会で、森永率いるうちの中学のブラバンは銀賞――つまり予選敗退だった。
去年は金賞を貰って関東大会まで進んだ。そこまではいかなければと必死になって練習していた森永。
そのためにこいつは頑張ってきたし、後輩たちの指導に頭を悩ませているのずっと。見ていた。
「江崎……」
いつもアホみたいに元気な森永は、可哀想なくらいしょげ返っていた。
本当にこいつは純粋で、そして傷つきやすい。
いくらお前が部長だからってこの結果はお前だけのせいじゃないのに。そういって慰めるのは簡単だったけど、森永はきっと否定するだろう。
自分で自分を責めるその気持ちを、他人である俺が出来る事は少ない。
楽器も片づけ部員も帰った部室は、もう俺と森永しかいない。
窓から入る夕日が整った森永の横顔を照らして、それはとてもきれいだった。
「江崎、俺。がんばったよな」
いつもみたいにアホっぽく笑おうとして、失敗している森永。
無理に笑おうとしないでくれ。
傷ついた気持ちを隠そうとして笑顔で取り繕わないで欲しい。
俺の幼馴染は本当に傷つきやすい、そしてそれを誰かに知られるのが本当に苦手な、弱い男だ。
「ああ、森永は頑張ってたよ」
行儀悪く机に腰かける江崎の横に同じように腰かけ、その頭を撫でてやる。
つるつるとした感触のその髪の毛は、汗をかいたのかほんの少しだけしっとりとしていた。
「江崎、負けちゃった。俺、頑張ってたのにな」
「ああ、がんばってた」
「結構、俺、いけるって思ってたんだけど」
話す度にその瞳には膜が張り、口元がひくひくと動く。
涙をこらえるその横顔はとても綺麗で。
「ああ、惜しかったな。ちゃんと見てたよ」
「……っ、許して、くれるかな」
誰に許しを願っているのか、森永。俺なら許すよ。お前の全てを、俺は許すよ。
誰が許さなくても、お前が許さなくても、その弱い心も強い気持ちも全部まとめて受け入れてやる。
だから。
声を殺してぽたぽたと流す涙を眺めながら、この純粋な男へ気持ちが幼馴染から別のものに変わった瞬間を実感した。
なあ森永、そんな顔されたら我慢できなくなるだろ。
沈む夕日はただただ綺麗だ。俺は窓から吹き込む風に夏の終わりと、この恋の始まりを感じたのだ。
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