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恋バナかぁ……

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 なんというか、この光景をつい先刻体験した気がする。
 俺が座って、隣に竜王。そしてさっきと違うのがそこに一緒に座るのがピッピくんだという事。

「なんだよこれ、丸太じゃん。僕に座らせるつもりならせめて椅子にしろよ椅子に」

 うんそれは確かに俺もそう思う。丸太でしかないもんね?ピッピくんに完全同意。
 でもなんだろ?なーんかムカムカしちゃうんだよな。

「はぁ……ピッピくんさぁ、呼ばれてもないこの家に押しかけてきたって自覚あるのぉ?無理矢理押しかけて文句とは偉くなったもんだねぇ?」

 俺たちの横に立ったミルさんは呆れ顔だ。この二人、一体どんな関係だ?
 そもそもミルさんも先代竜王の息子なんだし、立場だけなら凄い人なんだよな。
 俺の周りの竜人はそれなりの立場のひとばかりで感覚がおかしくなってきている気がする。

「はぁー?そりゃ僕は現竜王の婚約者サマだからな?前竜王の息子とどっちが偉いかなんてちょっと考えりゃ分かるだろーが」

 ほら、これ。

 こ、れ!
 婚約者!
 
ピッピくんは竜王の婚約者だと、そう言った。そしてそれを竜王もミルさんも……否定していないんだよね?

「お前ねぇ~さっきから言ってるけどぉ―――」

「とにかく!!番いがいようがいまいが!僕がクロウの正式な婚約者なのは事実なんだからな!……おい、番いサマ」

 キッと銀の瞳が俺を睨むと、可愛すぎる顔を意地悪げに歪めて嘲笑った。

「そーゆー訳で。僕もしばらくここで暮らすから!」

「………はぁぁぁぁ――!?」

 にやにやと笑うピッピくんは、そりゃもう憎たらしい程に可愛かったけど!




 とは言うもの。
 そんな突拍子もない話をルンルンちゃんが認める訳も無かった。

 扉をぶち開けて入ってきたルンルンちゃんがピッピくんを連れ出した。
 なんか美少年が一人ギャイギャイ暴れてたけど、最終的にルンルンちゃんがピッピくんの手足を凍らせて引き摺って行きました。

 あーこれミルさん相手だったら王宮裏に呼び出されるやつぅ…。
 ルンルンちゃんの目、あれ完全に羽虫を見るがごとくだったよ?結局一言も口を聞かずに連れていくもんだから、恐ろしさだけが残ってしまった。逆にあのルンルンちゃんに立ち向かえるピッピくん、マジ尊敬します。

 ピッピくんが好き勝手暴れまわった割に何一つ変わっていない室内をぐるりと見渡せば、気まずそうなミルさんといつも通りの竜王が座っていた。

「さぁて、説明してくれるよな?」

 嵐のように去っていったピッピくんについて、俺はちゃんと!聞かせてもらうからな!


――――――――



「じゃ~、俺はこれでぇ。あとはお若いお二人でぇ……」

 そう言って逃げようとするミルさんを捕まえて椅子に座らせる。
 竜王一人では聞き出しにくいので、このおしゃべりな男にも洗いざらい吐いてもらおう。

「うう、番い殿遠慮ないねぇ……」

「では、第一回ホシ会議を始めます!はい、拍手!」

 ぱちぱちぱち!
 拍手を強要すれば律儀に全員拍手してくれた。お、おう……やるじゃん。

「で、さっきの……ピ、ピり?ピア?……えーと、ピッピくんについてですが」

「ホシ、それは私から話そう」

 ずっと黙っていた竜王がようやく口を開いた。いや、話すのに俺の手を握る必要はないんだけどね?綺麗な瞳が俺を見つめた。

「ピリアーツァピナッツェについてだが――アレは確かに私の婚約者だ」

 ズガーンと。雷に打たれたような衝撃に一瞬目の前が真っ暗になる。え、本当にあいつが婚約者?
 俺はどこかで「違う」と言って貰えるのを期待していたのかもしれない。指先から一気に温度が無くなり、背中に嫌な汗が滲むのが分かった。
 ぎゅ、と手を握り込む竜王の力が強くなる。

「聞いてくれホシ。確かにピリアーツァピナッツェは婚約者に違いない。ただし議会が定めた政治上の婚約者だ。私の番いはホシ、お前ただ一人」

「……どういうこと?」

「えっとねぇ、うちも一枚岩じゃないって事。本来の番い以外と『結婚』って形をとる竜人も少なくないんだけどさぁ、番いが確認されるまでの婚約扱いの事も多くって。
 今回のピッピくんはきみが生まれる前までの婚約者だったはずなんだけどぉ、きみの存在をきちんと確認できるまで認めん!っておじいちゃんたちが煩くてねぇ……」

 うーん?俺が竜王の番い、って事を認めない人たちもいるってことか。
 まあそりゃそうだよな。人間の男が番いなんて、えらい竜人たちには認めがたいのかも。

「だから番い殿が『一生クロウを離さない』って言うから、すわ番うか!って急ぎルンルンちゃんとこに行ったんだけどぉ」

 いやいや!俺そんなこと一言も言ってないからね!?
 さっきの!?あのナージュの所で啖呵きったやつ、そんな愛の言葉だと受け止められてたの!?
 という事は、ミルさんは俺のそれをプロポーズだと勘違いして?で、ルンルンちゃんの所に飛び立って行ったのか。なるほどねーってそんな所で納得している場合じゃない。

「ちょうど議会の招集かけておじいちゃんたちが集まったらねえ、タイミング悪くピッピくんの耳に入っちゃって、その……あんな感じで来ちゃったんだよねえ……」

 ああ、あんな感じで、ね。
 先ほどのピッピくんの剣幕を思い出して、俺は苦笑いを零すしかない。

「おじいちゃんたちも番い第一主義!って人たちからイマドキ自由恋愛だろ!って人たちまで色々でさあ。ピッピくんを担ぎあげてやんややんや最終的には過去の恋バナまで持ち出してきての大暴露大会に発展して大変で大変でぇ……。まあそれで急いで地上に君たちを迎えに行ったって経緯なんだけどねぇ」

 ……楽しそうだけどな?おじいちゃんたちの恋バナ、逆に興味出たけどな?
 いかにもやれやれ苦労しましたって表情のミルさんが鼻につくぞ。
 竜王はいつまで俺の手を握るんだろうか。解くタイミングを逃してしまった。

「恋バナが嫌でわざわざ地上に迎えにきたの、ミルさん」

「え~番い殿酷くない~?いかにも俺無能みたいに言うのやめてよぉ。大変だったんだからね?番いと婚約者を共に結婚させろ、みたいな暴案が承認されかけたんだからぁ」

「は……え?共に……?え?」

「だからねぇ、番い殿はニンゲンで、竜界ではなーんの後ろ盾もないし実績もない訳ぇ。そんなの18年も前から分かりきってた事じゃなあい?
 それを今になって血統のいいピッピくんも一緒に交わらせたら次代の黒竜が生まれるんじゃいか~なんてアホな案が通り掛けたのぉ」

 突然の話にバクバクと心臓の音がうるさい。
 ミルさんやルンルンちゃん、それに竜王と、周りの竜人があまりに俺に親切で優しかったから勘違いしてしまったのかもしれない。竜人にとってニンゲンは吹けば飛ぶような存在で、竜人の頂点たる存在の番いとしては認められないのだろう。

「私はホシが生まれた時点で婚約破棄の手続きは行っている」

「そそ、それをなんやかんやと承認しない一部のおじいちゃんが今回ゴネてゴネてゴネまくってるんだよねぇ。ほんと、厄介。あっ、殆どの竜人は番い殿を受け入れてるからねぇ?やっぱり竜人にとって番いが一番って絶対的多数派だからぁ、そこは大丈夫ぅ」

 そうミルさんは励ますけど、俺の心は重しが乗ったみたいにズンと重くなる。
 沢山の人に受け入れられている事実よりも、一部の人に嫌われているって部分に感情が引っ張られてしまう。
 いやいや!俺、別に番うってまだ完全に決めた訳じゃないからね!?
 前提にお付き合いをしているだけで!

 それだけのはず、なんだけど……。
 
 ズドーンと気持ちは落ち込んでしまって、なんだか無性に悲しくなった。
 知らない誰かに嫌われてるってことに?
 竜王が俺以外とも結婚するかもってことに?
 それとも……。




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