上 下
11 / 27

陛下にラブソングを

しおりを挟む
 どんどん近くなる地上から目が離せない。
 あれは王都だ。大きな王宮がまず目に飛び込み、周りをおもちゃみたいに街が囲っている。俺の家はどこだろう、あの辺りだ。
 きょろきょろしている俺を気にせず、竜王とミルさんは真っ白な建物に近づいていく。

 あれは神殿だ。竜王(かみさま)に祈りを捧げ、その言葉を待つ場所。俺たちの信仰の場だ。竜王が身近になり過ぎた今となっては何とも微妙な気持ちになっているのも事実だけども……。

 竜王は大きな翼をゆっくりと羽ばたかせ、神殿の巨大な中庭へと降り立った。
 あの異常に大きな中庭、あそこで球技でもするのかと思ってたけど竜王(かみさま)をこうして迎え入れるためにあったのか。納得。
 いやでも百年単位で来るか来ないか分からん相手を迎えるためって……なかなか執着の度合いを感じてしまうぞ。

 余計な飾り気は無い代わりに、綺麗に芝生がしかれた中庭で籠から降りる。いつの間にか竜王は人間の姿に戻って俺の手を支えてくれた。
 おお、俺の嫁候補……できる。美しい顔にうっすら笑顔を浮かべる姿は王子様みたいだ。いや、王様だったな。
 ……ミルさん、その生ぬるい顔やめてくれるか?

 バタバタと遠くから白い服を来た人たちが走ってきた。あれは、神官だ。いつも楚々として竜王への感謝を説いていた姿とはほど遠い。全員走り込みしてるの?
 結構ここまで遠いよ、200メートルは離れてるけどその猛スピードで走って大丈夫なの?
 あっ、おじいちゃん倒れた、たおれちゃった!気付いて、周りの人気付いてあげて!!

「りゅ…っりゅうおう~へいかぁあああああ~~~!!!」
「うおおおおおお!!」
「お会い……お会いできるとはぁああああああ!!」
「我が生涯に……っ!一片の悔いなしぃぃぃ!!」

 こわっ!!目が血走ってるよ!?聖職!聖職のみなさーん!?絵柄が変わってますよぉぉぉ!?世紀末覇者みたいになってるよおおお!?
 あっ、おじいちゃん起き上がった!良かった…って大丈夫!?また走ってるけど大丈夫!?足引きずってますけど!?

 俺は妙に覇者めいている神官たちに、知らず後ずさりをしていたらしい。無意識に竜王の服の端っこを掴んでいた。おい竜王、なに勝手に腰に手を回してんだ。
 あっ、ミルさんが神官たちにドン引きしてる。ごめんなさい、いつもこんな人たちじゃないはずなんです……。

「はあっ!はあっ!!……っ、竜王陛下……っ!!この度はぁ…っ!ごっご降臨のっ!栄を賜りぃ!!まこっとに!我ら一同!恐悦至極にぃっ!存じ奉りますうぅ!!」

「「「「恐悦至極にぃっ!存じ奉りますうぅ!!」」」

「つきましてはっ!この歓びを!!後世に残したく!!」

「「「「残したくううぅぅ!!」」」

「聞いてください、『竜王陛下、ラブアゲイン』……」


 聞かねえよ!?


 何歌ってんの!?それ何、オリジナルソング!?作ったの?ねえ作ったの??妙に美声を発揮してコーラスしてんじゃねえよぉぉぉ!!手拍子すんな!!え、ちょっと何踊り出してんの!?

 竜王、横で腕組んで頷いてるけど嬉しいの?
 ミルさん、いいよ笑って。笑ってもいいよ。堪えなくて良いところだよ。

 普段あんなに落ち着いている聖職者がこんな風に壊れる位には、竜王(かみさま)に会えるのは栄誉な事で誇らしいんだろうな。そうだよな、うっかり忘れちゃってたけど、結構凄い相手なんだった。
 チラリと見上げると、視線に気付いた竜王が俺を見た。

「お前の故郷は賑やかだな」

「いや、普段はもっと落ち着いているんだけどね!?」

「ぷぷぷ……ラブ…ラブアゲイーン♪……愛する陛下ぁ♪…くくくっ!」

「分かるけど何かむかつくなミルさん…」

 歌い終わる頃には転んでいたおじいちゃんも合流してきた。世紀末な顔してるけど。

「竜王陛下、この度はご降臨の栄を奉り、我ら神官一同、感謝の念に堪えません」

 あ、このおじいちゃん一番偉い人だったみたいだ。キラキラの服が泥まみれではあるけど。
 周りの神官はおじいちゃん神官長の周りで跪いている。跪く位なら何故先ほど転んだ神官長を放置していたのだろうか。恐ろしい、益々竜王の影響力の凄さを思い知った。

「堅苦しいのはよい、番いの願いとあって降りてきたまで」

「は……。恐れ多くも此度の件は当神殿の不手際で御番い様を間違えるなどとあり得ぬ失態、到底私の首では償えぬとは存じております。何卒当神殿の全ての命で……」

「いらん。だが……そうだな、ホシはどうする。お前が許せぬならこの者たちの命で償ってもらうか?いらぬだろうが」

 チラリと俺に視線を向ける。それに準じて神殿の面々まで俺に注目が集まった。

「いやいやいや!いらない!いらないから大丈夫!!」

 こわっ!発想がもう怖い!なんで罪を血で洗おうとしちゃうの!
 そもそも俺そんなに怒ってないしね!?怒ってるとすれば、勝手に竜塊(りゅうかい)飲ませた竜王にだからね!?ふっつーに生活してただけだし、むしろナージュみたいにやれ勉強だのお茶会だのと忙しないのは絶対嫌だし。
 うん、別にこの人たちは何も悪くないな。


「では先に連絡した件、準備はできているか」

 連絡した件。それを聞いて襟を正す。そうだ、それが本題だ。

「勿論でございます。別室にてナージュ嬢がお待ちでございます」

 竜王の番いとして18年間育てられ、花嫁になろうかとする寸前に間違いだと弟によって奪われた。俺の姉と対面しなくてはならないのだ。

 俺たちは先導する神官に続き、神殿に足を進めた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼はオレを推しているらしい

まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。 どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...? きっかけは突然の雨。 ほのぼのした世界観が書きたくて。 4話で完結です(執筆済み) 需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*) もし良ければコメントお待ちしております。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

処理中です...