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陛下にラブソングを
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どんどん近くなる地上から目が離せない。
あれは王都だ。大きな王宮がまず目に飛び込み、周りをおもちゃみたいに街が囲っている。俺の家はどこだろう、あの辺りだ。
きょろきょろしている俺を気にせず、竜王とミルさんは真っ白な建物に近づいていく。
あれは神殿だ。竜王(かみさま)に祈りを捧げ、その言葉を待つ場所。俺たちの信仰の場だ。竜王が身近になり過ぎた今となっては何とも微妙な気持ちになっているのも事実だけども……。
竜王は大きな翼をゆっくりと羽ばたかせ、神殿の巨大な中庭へと降り立った。
あの異常に大きな中庭、あそこで球技でもするのかと思ってたけど竜王(かみさま)をこうして迎え入れるためにあったのか。納得。
いやでも百年単位で来るか来ないか分からん相手を迎えるためって……なかなか執着の度合いを感じてしまうぞ。
余計な飾り気は無い代わりに、綺麗に芝生がしかれた中庭で籠から降りる。いつの間にか竜王は人間の姿に戻って俺の手を支えてくれた。
おお、俺の嫁候補……できる。美しい顔にうっすら笑顔を浮かべる姿は王子様みたいだ。いや、王様だったな。
……ミルさん、その生ぬるい顔やめてくれるか?
バタバタと遠くから白い服を来た人たちが走ってきた。あれは、神官だ。いつも楚々として竜王への感謝を説いていた姿とはほど遠い。全員走り込みしてるの?
結構ここまで遠いよ、200メートルは離れてるけどその猛スピードで走って大丈夫なの?
あっ、おじいちゃん倒れた、たおれちゃった!気付いて、周りの人気付いてあげて!!
「りゅ…っりゅうおう~へいかぁあああああ~~~!!!」
「うおおおおおお!!」
「お会い……お会いできるとはぁああああああ!!」
「我が生涯に……っ!一片の悔いなしぃぃぃ!!」
こわっ!!目が血走ってるよ!?聖職!聖職のみなさーん!?絵柄が変わってますよぉぉぉ!?世紀末覇者みたいになってるよおおお!?
あっ、おじいちゃん起き上がった!良かった…って大丈夫!?また走ってるけど大丈夫!?足引きずってますけど!?
俺は妙に覇者めいている神官たちに、知らず後ずさりをしていたらしい。無意識に竜王の服の端っこを掴んでいた。おい竜王、なに勝手に腰に手を回してんだ。
あっ、ミルさんが神官たちにドン引きしてる。ごめんなさい、いつもこんな人たちじゃないはずなんです……。
「はあっ!はあっ!!……っ、竜王陛下……っ!!この度はぁ…っ!ごっご降臨のっ!栄を賜りぃ!!まこっとに!我ら一同!恐悦至極にぃっ!存じ奉りますうぅ!!」
「「「「恐悦至極にぃっ!存じ奉りますうぅ!!」」」
「つきましてはっ!この歓びを!!後世に残したく!!」
「「「「残したくううぅぅ!!」」」
「聞いてください、『竜王陛下、ラブアゲイン』……」
聞かねえよ!?
何歌ってんの!?それ何、オリジナルソング!?作ったの?ねえ作ったの??妙に美声を発揮してコーラスしてんじゃねえよぉぉぉ!!手拍子すんな!!え、ちょっと何踊り出してんの!?
竜王、横で腕組んで頷いてるけど嬉しいの?
ミルさん、いいよ笑って。笑ってもいいよ。堪えなくて良いところだよ。
普段あんなに落ち着いている聖職者がこんな風に壊れる位には、竜王(かみさま)に会えるのは栄誉な事で誇らしいんだろうな。そうだよな、うっかり忘れちゃってたけど、結構凄い相手なんだった。
チラリと見上げると、視線に気付いた竜王が俺を見た。
「お前の故郷は賑やかだな」
「いや、普段はもっと落ち着いているんだけどね!?」
「ぷぷぷ……ラブ…ラブアゲイーン♪……愛する陛下ぁ♪…くくくっ!」
「分かるけど何かむかつくなミルさん…」
歌い終わる頃には転んでいたおじいちゃんも合流してきた。世紀末な顔してるけど。
「竜王陛下、この度はご降臨の栄を奉り、我ら神官一同、感謝の念に堪えません」
あ、このおじいちゃん一番偉い人だったみたいだ。キラキラの服が泥まみれではあるけど。
周りの神官はおじいちゃん神官長の周りで跪いている。跪く位なら何故先ほど転んだ神官長を放置していたのだろうか。恐ろしい、益々竜王の影響力の凄さを思い知った。
「堅苦しいのはよい、番いの願いとあって降りてきたまで」
「は……。恐れ多くも此度の件は当神殿の不手際で御番い様を間違えるなどとあり得ぬ失態、到底私の首では償えぬとは存じております。何卒当神殿の全ての命で……」
「いらん。だが……そうだな、ホシはどうする。お前が許せぬならこの者たちの命で償ってもらうか?いらぬだろうが」
チラリと俺に視線を向ける。それに準じて神殿の面々まで俺に注目が集まった。
「いやいやいや!いらない!いらないから大丈夫!!」
こわっ!発想がもう怖い!なんで罪を血で洗おうとしちゃうの!
そもそも俺そんなに怒ってないしね!?怒ってるとすれば、勝手に竜塊(りゅうかい)飲ませた竜王にだからね!?ふっつーに生活してただけだし、むしろナージュみたいにやれ勉強だのお茶会だのと忙しないのは絶対嫌だし。
うん、別にこの人たちは何も悪くないな。
「では先に連絡した件、準備はできているか」
連絡した件。それを聞いて襟を正す。そうだ、それが本題だ。
「勿論でございます。別室にてナージュ嬢がお待ちでございます」
竜王の番いとして18年間育てられ、花嫁になろうかとする寸前に間違いだと弟によって奪われた。俺の姉と対面しなくてはならないのだ。
俺たちは先導する神官に続き、神殿に足を進めた。
あれは王都だ。大きな王宮がまず目に飛び込み、周りをおもちゃみたいに街が囲っている。俺の家はどこだろう、あの辺りだ。
きょろきょろしている俺を気にせず、竜王とミルさんは真っ白な建物に近づいていく。
あれは神殿だ。竜王(かみさま)に祈りを捧げ、その言葉を待つ場所。俺たちの信仰の場だ。竜王が身近になり過ぎた今となっては何とも微妙な気持ちになっているのも事実だけども……。
竜王は大きな翼をゆっくりと羽ばたかせ、神殿の巨大な中庭へと降り立った。
あの異常に大きな中庭、あそこで球技でもするのかと思ってたけど竜王(かみさま)をこうして迎え入れるためにあったのか。納得。
いやでも百年単位で来るか来ないか分からん相手を迎えるためって……なかなか執着の度合いを感じてしまうぞ。
余計な飾り気は無い代わりに、綺麗に芝生がしかれた中庭で籠から降りる。いつの間にか竜王は人間の姿に戻って俺の手を支えてくれた。
おお、俺の嫁候補……できる。美しい顔にうっすら笑顔を浮かべる姿は王子様みたいだ。いや、王様だったな。
……ミルさん、その生ぬるい顔やめてくれるか?
バタバタと遠くから白い服を来た人たちが走ってきた。あれは、神官だ。いつも楚々として竜王への感謝を説いていた姿とはほど遠い。全員走り込みしてるの?
結構ここまで遠いよ、200メートルは離れてるけどその猛スピードで走って大丈夫なの?
あっ、おじいちゃん倒れた、たおれちゃった!気付いて、周りの人気付いてあげて!!
「りゅ…っりゅうおう~へいかぁあああああ~~~!!!」
「うおおおおおお!!」
「お会い……お会いできるとはぁああああああ!!」
「我が生涯に……っ!一片の悔いなしぃぃぃ!!」
こわっ!!目が血走ってるよ!?聖職!聖職のみなさーん!?絵柄が変わってますよぉぉぉ!?世紀末覇者みたいになってるよおおお!?
あっ、おじいちゃん起き上がった!良かった…って大丈夫!?また走ってるけど大丈夫!?足引きずってますけど!?
俺は妙に覇者めいている神官たちに、知らず後ずさりをしていたらしい。無意識に竜王の服の端っこを掴んでいた。おい竜王、なに勝手に腰に手を回してんだ。
あっ、ミルさんが神官たちにドン引きしてる。ごめんなさい、いつもこんな人たちじゃないはずなんです……。
「はあっ!はあっ!!……っ、竜王陛下……っ!!この度はぁ…っ!ごっご降臨のっ!栄を賜りぃ!!まこっとに!我ら一同!恐悦至極にぃっ!存じ奉りますうぅ!!」
「「「「恐悦至極にぃっ!存じ奉りますうぅ!!」」」
「つきましてはっ!この歓びを!!後世に残したく!!」
「「「「残したくううぅぅ!!」」」
「聞いてください、『竜王陛下、ラブアゲイン』……」
聞かねえよ!?
何歌ってんの!?それ何、オリジナルソング!?作ったの?ねえ作ったの??妙に美声を発揮してコーラスしてんじゃねえよぉぉぉ!!手拍子すんな!!え、ちょっと何踊り出してんの!?
竜王、横で腕組んで頷いてるけど嬉しいの?
ミルさん、いいよ笑って。笑ってもいいよ。堪えなくて良いところだよ。
普段あんなに落ち着いている聖職者がこんな風に壊れる位には、竜王(かみさま)に会えるのは栄誉な事で誇らしいんだろうな。そうだよな、うっかり忘れちゃってたけど、結構凄い相手なんだった。
チラリと見上げると、視線に気付いた竜王が俺を見た。
「お前の故郷は賑やかだな」
「いや、普段はもっと落ち着いているんだけどね!?」
「ぷぷぷ……ラブ…ラブアゲイーン♪……愛する陛下ぁ♪…くくくっ!」
「分かるけど何かむかつくなミルさん…」
歌い終わる頃には転んでいたおじいちゃんも合流してきた。世紀末な顔してるけど。
「竜王陛下、この度はご降臨の栄を奉り、我ら神官一同、感謝の念に堪えません」
あ、このおじいちゃん一番偉い人だったみたいだ。キラキラの服が泥まみれではあるけど。
周りの神官はおじいちゃん神官長の周りで跪いている。跪く位なら何故先ほど転んだ神官長を放置していたのだろうか。恐ろしい、益々竜王の影響力の凄さを思い知った。
「堅苦しいのはよい、番いの願いとあって降りてきたまで」
「は……。恐れ多くも此度の件は当神殿の不手際で御番い様を間違えるなどとあり得ぬ失態、到底私の首では償えぬとは存じております。何卒当神殿の全ての命で……」
「いらん。だが……そうだな、ホシはどうする。お前が許せぬならこの者たちの命で償ってもらうか?いらぬだろうが」
チラリと俺に視線を向ける。それに準じて神殿の面々まで俺に注目が集まった。
「いやいやいや!いらない!いらないから大丈夫!!」
こわっ!発想がもう怖い!なんで罪を血で洗おうとしちゃうの!
そもそも俺そんなに怒ってないしね!?怒ってるとすれば、勝手に竜塊(りゅうかい)飲ませた竜王にだからね!?ふっつーに生活してただけだし、むしろナージュみたいにやれ勉強だのお茶会だのと忙しないのは絶対嫌だし。
うん、別にこの人たちは何も悪くないな。
「では先に連絡した件、準備はできているか」
連絡した件。それを聞いて襟を正す。そうだ、それが本題だ。
「勿論でございます。別室にてナージュ嬢がお待ちでございます」
竜王の番いとして18年間育てられ、花嫁になろうかとする寸前に間違いだと弟によって奪われた。俺の姉と対面しなくてはならないのだ。
俺たちは先導する神官に続き、神殿に足を進めた。
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