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普段笑ってる人が怒ると怖いです

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 豆を鞘から出す作業は昔から嫌いじゃない。
 このプチプチとした感触、そして出てきた豆が貯まることで得られる達成感。
 薪割り然り、俺は無心で一つの作業に没頭するのが性に合っているのかもしれない。

「ふんふん、でぇ?現実逃避しながら豆を剝いてる、とぉ?」

「現実逃避言うな」

 ミルさんは無心で豆に向かう俺を手伝うでもなく、頬杖をついてテーブルの反対側の丸太……もとい椅子に座っている。

「いやだってさぁ、結局陛下に絆されてお試し交際?同棲?みたいなの始めたって言うしさぁ。もう今夜からここで一緒に暮らすんでしょぉ?
 そこまですんならもうサッサと番っちゃえばぁ?」

「いや……絆されたとかじゃなくてさ……。何ていうかホラ、あんなに誠実に口説かれると、グッと来るものがあるんだよ……。
 でもそれと、番いになるって言うのはハードルの高さが違うというか……。
 俺も陛下も男で、俺今まで女の子しか興味なかったから……」

 我ながらグズグズとした言い訳である。
 竜王と話をしていたら、自分でもうまく説明できない色んな気持ちが体にグルグルと渦巻いたんだ。
 認めよう、嬉しい気持ちは確かにあった。

 でもそれは、何が理由なのかまでは分からない。
 俺があの人を好きなのか。ただ単に告白されて嬉しかっただけなのか。それとも圧倒的上位に求愛された、ただの優越感なのか。

 でも、告白はとても勇気がいることだと思う。
 一度も告白せずに玉砕していた身としては、いくら番いといえども明らかに自分に興味のない相手を口説くのは尊敬に値する。
 それに俺、捨て犬に弱いんだよなぁ……。あのキュンキュンすがるような顔、なーんか庇護欲をそそると言うか。
 まさか竜王を犬扱いなんて、恐れ多くて誰にも言えないけどさ。

 なお、今は夕飯に向けて豆を剥いている。竜王は山に魔獣狩りへ行っております。
 竜王の家事スキルがちょっとアレなので、暫くは一緒に作る予定だ。

「まぁ番い殿の優しーい気持ちは分かるんだけどさぁ?
 それって前向きに考えてるからのお付き合いなのぉ?可哀相だからで相手に期待させてさぁ、試してやっぱ無理でしたは陛下相手に通じるかなぁ?」

 うぐ……。
 出会ってほんの数日なのに、この人は意外と周りをよく見ている。
 俺は確かに八方美人な所があって、周りによく思われたい、傷つけたくないし傷つきたくないって思ってる。
 でも確かにそれは、俺の軽はずみなお試し交際の提案によって、竜王を却って傷つける事になるのかもしれない。

「言っとくけどねぇ?竜人て番いに対する執着滅茶苦茶強いからねぇ?
 一緒に暮してますけど何もアリマセンは結構酷よぉ?」

 ううう、何かグイグイ責められている気分。ミルさん……なんか機嫌悪い……?
 それって……俺が軽い気持ちで竜王と暮らすから?

 あ……!
 も、もしかして…!?

「ミルさん、ひょっとして……陛下の事……?」

「何それ笑えない」

 スッと顔の表情を無くしたミルさん。目が……目が笑ってないよ!?

「ご、ごめんなさい!?違った!?なんかミルさん怒ってるみたいだし、陛下が好きだったのかなぁって……」

「やめて番い殿。二度とそんな気持ち悪い想像しないで」

「あっ、ハイ。スミマセン!二度と申しません!」

 ミルさんはガチなため息を一つつくと(怖いよぉぉぉ)、話しだした。

「あのねぇ、そんな気持ち悪い想像二度として欲しくないから言うんだけど、陛下は俺の甥でぇ、生まれた時からあいつの事知ってるしぃ、君が生まれた時からはずっとウザい位番い殿を想ってたのを真横で見てたのよ、俺ぇ。
 もーホントウザくてウザくて、何度蹴り倒そうかと思ったかぁ」

 なんか、俺のせいですみません……。

 って?ん?甥?

「甥、とは?」

「俺の姉が、陛下の母親なんだよねぇ」

 んんんんん???

 あっ、そうか、人間の寿命と全く違うんだ!外見年齢が人間とは全く違うって事か!!
 見た目殆ど変わらないのに!

「てか、えっ、叔父さん!?てことはミルさん王族!?あっ嫁取りだったら違うのか!」

「いやいやぁ、俺の母親が前竜王妃だし、確かに血筋だけでいえば確かに王族なんだけどさぁ。
 あっ、俺の母親、ルンルンちゃんねぇ、言ったっけ?」

 情 報 が 多 い !

 えーと?  

 ミルさん、前竜王の息子で、今の竜王の叔父さん。
 ルンルンちゃん、ミルさんの母親で竜王の祖母。前竜王妃。

「あんな可愛いばーちゃんいる!?あと全員全然似てないからね!?」

 怒ったら真顔になる所は似てるかもしれないけど!

「あ、やっぱり言ってなかったぁ?ま~竜人て髪の毛なんかは属性に左右されるしねぇ?ぱっと見分かんないかもねぇ」

 聞いてねぇよぉ!!!

 あっ、だからルンルンちゃん、あんなにバカスカとミルさんを〆てたのか!親としての躾か!
 そしてやっぱりルンルンちゃん、やっぱり只者じゃなかったぁ……。なんでメイドなんてしてんのさ。

「まーだからさぁ。俺は一応公的にはあいつの護衛みたいなもんだけどぉ、兄みたいなもんだからねぇ?やっぱり幸せになって欲しいと思うわけよぉ。
 いくら運命的な番いだろうがさぁ、番えなければ意味が無いでしょぉ?」

 うっ……!
 ミルさんがちょっと怒ってた理由はそこかぁ。
 ……そうだよな、身内には幸せになって欲しいよな。お試しだなんて曖昧に期待を持たせるような事されたら腹立つよな。
 そう思うと、どっちつかずの俺なんかじゃなくて、他にいい人をさっさと探して貰ったほうが良いんじゃ……。

「おいミル、余計なことを言うな」

 スッと横に影が差し、気づくと竜王が立っていた。
 いつの間に?ぜんぜん気づかなかった。

「ホシ、ただいま帰った」

「お、おかえりなさい?」

 竜王がフワッと笑った。うわわ……、背後に花が……っ花が舞い散る……!

「番いに迎えて貰えるのは良いものだな……」

 ぐぅぅぅぅ!!わかるぅぅぅ!俺も奥さんには出迎えられたいもん!
 って、今迎えてるの俺だけどね!?
 
 竜王は俺の足元に膝をつくと手を取った。

「この阿呆の言うことは気にしなくていい。ゆっくり考えてくれたらいい」

 竜王……優しい……。

「100年でも200年でも500年でも、ゆっくり待とう。なに、我々には時間が多くあるのだ。ホシの心を待つこの時間も、いつか二人で思い出話にできるだろう」

 ん゛っ?

 そ……そういえばアレのせいで竜王の寿命と同じだけ生きるとか言ってた な?

「番い殿は陛下の竜塊飲んでるもんねぇ。俺らは2、300年が平均寿命だけどぉ、黒竜ならあと二千年は生きるんじゃないのぉ?
 は~、まあそんだけあればいつかは口説き落とせるかぁ?実際お前に囲いこまれたら逃げられないもんねぇ~。
 あ~いや、番い殿ごめんねぇ、この番い馬鹿に執着されてお気の毒な立場だったのにぃ、圧掛けちゃったねぇメンゴメンゴ☆」

 にせんねん……だと……?

 うちの王国、確かこないだ建国800年のお祭りしてたんだけど……。えっ、どんだけ長生き決定してんの、俺?
 まてまて落ち着こう。
 ひっひっふー、ひっひっふー。

「私の残りの人生は既に全てホシに捧げている。共に幸せな家庭を築こう。」

「………」


 とりあえず思考回路はショート寸前だったので、考えるのをやめてちゃっちゃと飯作って竜王と食べた。豆ごはんと肉は美味かった。



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