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連れていかれるらしい
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深くフードを被せられ、俺は体感一か月振りに外の空気を吸った。実際の所多分一週間くらいだったのだと思うが、いかんせん爛れた生活をしていたもので一か月も経ったような気がしている。
この変態のせいでな!
素知らぬ顔で横を歩く美形を睨んだ。俺よりも随分背が高い癖に、中性的な美しさを誇る顔だ。さらさらと流れる白髪を今日は綺麗にまとめて後ろに流している。いかにもファンタジー然とした街並みの中でこの男を振り返る人間は少なくない。やはり顔面偏差値は振り切っているようだ。異世界は全員がこのレベルかと一瞬思ったがそうでもないらしい。
片や俺はいかにも怪しいマントを羽織り、フードを目深に被って目元を隠していた。
隣の変態魔法使い曰く、やはり金の目は奇跡の稀人まれびととして認知されているらしく、万が一目的地に着くまでは不用意に見せない方が良い、という判断だった。
「なあ、この世界では目の色どんなのがあるんだ?」
「ん?そうだね、碧や青……あとは紫や黒なんかだね。寒色が殆どだから、本当にあなたの目は美しいよ」
正直綺麗だの美しいだの、そんな形容詞は昔から言われ慣れてる。天使だの女神だの言う馬鹿がいた位だ。
それなのにコノエが俺を褒めるのが妙に気恥ずかしい。つい最近手に入れた目ものを賞賛されても本来は複雑な心境になるだろうに、この男は実に嬉しそうに俺を褒めるから困ったものだ。
ホント、顔が良いってのは得だよな!
「髪の毛は……?この赤髪は目立つのか?」
「それね……うん、大丈夫大丈夫。一般的……とは言いにくいけど、まあ隠してたら大丈夫だよ」
なんだよその絶対大丈夫じゃない大丈夫は……。
俺もそろそろコノエの事が分かってきている。へらへらといつも笑顔で感情を隠すこの男は、嘘は言わないだろうけど本当の事も隠すタイプだ。
こうやって誤魔化すこいつは何を聞いても言わないだろう。ま、いいけど!
微妙にむかむかしてくるのは、この勝手なド変態魔法使いの態度が気に入らないからだ。うん、多分きっと絶対そう。
「ほら、見えてきた。あそこが王宮だよ」
コノエの指さす先を見やれば、歴史の教科書で見たようなキンキラ眩しい宮殿が建っていた。今俺たちの歩く所謂城下町の雰囲気とは一線を画している。
「今僕たちが歩いてるココが下町。中央に向かうほど貴族が住むエリアになるんだ。ここからは転移するけど、いいかな」
「いや転移できるならあの森の中から転移したらよくね?」
「あれー?これでも僕なりにリクが異世界探検できるように気を使ったんだけどな~?」
そりゃあお気遣いありがとう!
それならそれなりに楽しませろ!店なんて一個も寄らずにここまでひたすら歩いてきたくせに。
この男の気遣いはいつだって斜め上だ。大人なのか子供なのか。そのアンバランスさも相まって、どこか掴みどころがない。
結局俺は、どうやら当分元の世界に帰れないらしい。向こうからこっちに連れてくるのはそこまで魔力を必要としないらしいが――だれでも術式がどうのこうの言っていたが――こちらの世界に染まった存在を向こうに送るのは困難、なんだと。
はーホントマジでこの男死ね。
唯一縋れるとすれば、俺が無限魔力貯蔵庫だという事。コノエの魔力をこのまま蓄積することができれば、いつかは帰還の術を編み出せるかも、という可能なのかどうなのか分からない本人の申告だけ。
はー、まあ良いけどさ。どうせ向こうの世界に未練は無いし。どこで生きても一緒だろ、位で考えている。
後は金だよ、金。生きていくには金がかかるし、このコノエの片棒を担げばまあまあ報酬が手に入るらしい。選択肢は俺にあるようで実は全くないのだ。悲しい事に。マジでコノエ死ね。
「で?俺は何したらいいわけ?いい加減言って貰わないと何もできねえよ」
そう、この男はここまで連れてきたにも関わらず、俺がここで何をするのか一切教えてくれなかった。ただ一言「王宮にいこうか」だけで連れてこられた。俺、怒っても許される。
「うーん、あのね、リクには言いたくないの。というより、知らない方が自然で良いんだ。何にも知らない異世界人です、って顔をしてくれる?出来たら言葉も通じないって感じで一つお願いします」
ようやく吐いたと思ったらこの程度。
あーもーほんと!そんな程度の情報で俺を動かすなよ!!
「お前本当に……。はあ、あとで殴るから覚えておけよ」
「もーリクは本当に直ぐに手が出るんだから~。綺麗な顔して残念すぎない?」
「うるせぇお前に言われたくねえわ」
そもそも俺がこの顔できゅるるんしてたら男がほっとかねえだろうが。処世術だよ処世術!いつの間にか板に付いちまったけど!
あと残念とか言う割には軽口を叩くこいつとの関係も、皮肉なことに悪くないと思ってる自分もいるんだよなあ。俺がアホほど叩こうがニコニコ流す大人だな、と思う部分もあるし。俺以上の美形って言うのも気を使わなくていい。
こう言うのもアレだけどさ、日本で俺位の顔面のレベルになると同レベルの同性なんてほぼいない。むしろ皆無。それなりの顔の両親の良いところ取りをして、出来上がった奇跡の顔面は、周りからマジで浮いていた。イージーな部分もあったけど、妬み嫉みに晒されることだって少なくない。勝手に幻想を抱かれて勝手に幻滅されて、なんて日常茶飯事だから。
はーマジこの顔、ありがた迷惑!
「ほら、行くよ」
身長に見合った大きな手が、俺の腰をグッと抱き寄せた。
一瞬ぐらりとしたかと思ったら、あっという間に景色が変わった。
茶色の多い下町から、急にキンキラ眩しい部屋に来た。床には赤い絨毯、両サイドには妙に着飾った偉そうな人たちが並び、正面には何段か上がった所に立派な椅子とそこに座る立派な……ていうかココ、なんか映画で見たことあるぞ、謁見の間とか言うやつじゃね?
「コノ――」
思わず話しかけようとしたら目で静かに、と制された。そうだった、俺は言葉が通じない異世界人って設定なんだっけ。思い出してフードを被ったまま、大人しくしていよう。
コノエはざわつく周囲の人間を気にも留めずに、堂々とした態度で一礼をした。
正面には、いかにも威厳にあふれる態度の恐らく国王らしき人物。
「お久しぶりですね父上」
そうして俺は、想像もしていなかったコノエの言葉を聞いた。
この変態のせいでな!
素知らぬ顔で横を歩く美形を睨んだ。俺よりも随分背が高い癖に、中性的な美しさを誇る顔だ。さらさらと流れる白髪を今日は綺麗にまとめて後ろに流している。いかにもファンタジー然とした街並みの中でこの男を振り返る人間は少なくない。やはり顔面偏差値は振り切っているようだ。異世界は全員がこのレベルかと一瞬思ったがそうでもないらしい。
片や俺はいかにも怪しいマントを羽織り、フードを目深に被って目元を隠していた。
隣の変態魔法使い曰く、やはり金の目は奇跡の稀人まれびととして認知されているらしく、万が一目的地に着くまでは不用意に見せない方が良い、という判断だった。
「なあ、この世界では目の色どんなのがあるんだ?」
「ん?そうだね、碧や青……あとは紫や黒なんかだね。寒色が殆どだから、本当にあなたの目は美しいよ」
正直綺麗だの美しいだの、そんな形容詞は昔から言われ慣れてる。天使だの女神だの言う馬鹿がいた位だ。
それなのにコノエが俺を褒めるのが妙に気恥ずかしい。つい最近手に入れた目ものを賞賛されても本来は複雑な心境になるだろうに、この男は実に嬉しそうに俺を褒めるから困ったものだ。
ホント、顔が良いってのは得だよな!
「髪の毛は……?この赤髪は目立つのか?」
「それね……うん、大丈夫大丈夫。一般的……とは言いにくいけど、まあ隠してたら大丈夫だよ」
なんだよその絶対大丈夫じゃない大丈夫は……。
俺もそろそろコノエの事が分かってきている。へらへらといつも笑顔で感情を隠すこの男は、嘘は言わないだろうけど本当の事も隠すタイプだ。
こうやって誤魔化すこいつは何を聞いても言わないだろう。ま、いいけど!
微妙にむかむかしてくるのは、この勝手なド変態魔法使いの態度が気に入らないからだ。うん、多分きっと絶対そう。
「ほら、見えてきた。あそこが王宮だよ」
コノエの指さす先を見やれば、歴史の教科書で見たようなキンキラ眩しい宮殿が建っていた。今俺たちの歩く所謂城下町の雰囲気とは一線を画している。
「今僕たちが歩いてるココが下町。中央に向かうほど貴族が住むエリアになるんだ。ここからは転移するけど、いいかな」
「いや転移できるならあの森の中から転移したらよくね?」
「あれー?これでも僕なりにリクが異世界探検できるように気を使ったんだけどな~?」
そりゃあお気遣いありがとう!
それならそれなりに楽しませろ!店なんて一個も寄らずにここまでひたすら歩いてきたくせに。
この男の気遣いはいつだって斜め上だ。大人なのか子供なのか。そのアンバランスさも相まって、どこか掴みどころがない。
結局俺は、どうやら当分元の世界に帰れないらしい。向こうからこっちに連れてくるのはそこまで魔力を必要としないらしいが――だれでも術式がどうのこうの言っていたが――こちらの世界に染まった存在を向こうに送るのは困難、なんだと。
はーホントマジでこの男死ね。
唯一縋れるとすれば、俺が無限魔力貯蔵庫だという事。コノエの魔力をこのまま蓄積することができれば、いつかは帰還の術を編み出せるかも、という可能なのかどうなのか分からない本人の申告だけ。
はー、まあ良いけどさ。どうせ向こうの世界に未練は無いし。どこで生きても一緒だろ、位で考えている。
後は金だよ、金。生きていくには金がかかるし、このコノエの片棒を担げばまあまあ報酬が手に入るらしい。選択肢は俺にあるようで実は全くないのだ。悲しい事に。マジでコノエ死ね。
「で?俺は何したらいいわけ?いい加減言って貰わないと何もできねえよ」
そう、この男はここまで連れてきたにも関わらず、俺がここで何をするのか一切教えてくれなかった。ただ一言「王宮にいこうか」だけで連れてこられた。俺、怒っても許される。
「うーん、あのね、リクには言いたくないの。というより、知らない方が自然で良いんだ。何にも知らない異世界人です、って顔をしてくれる?出来たら言葉も通じないって感じで一つお願いします」
ようやく吐いたと思ったらこの程度。
あーもーほんと!そんな程度の情報で俺を動かすなよ!!
「お前本当に……。はあ、あとで殴るから覚えておけよ」
「もーリクは本当に直ぐに手が出るんだから~。綺麗な顔して残念すぎない?」
「うるせぇお前に言われたくねえわ」
そもそも俺がこの顔できゅるるんしてたら男がほっとかねえだろうが。処世術だよ処世術!いつの間にか板に付いちまったけど!
あと残念とか言う割には軽口を叩くこいつとの関係も、皮肉なことに悪くないと思ってる自分もいるんだよなあ。俺がアホほど叩こうがニコニコ流す大人だな、と思う部分もあるし。俺以上の美形って言うのも気を使わなくていい。
こう言うのもアレだけどさ、日本で俺位の顔面のレベルになると同レベルの同性なんてほぼいない。むしろ皆無。それなりの顔の両親の良いところ取りをして、出来上がった奇跡の顔面は、周りからマジで浮いていた。イージーな部分もあったけど、妬み嫉みに晒されることだって少なくない。勝手に幻想を抱かれて勝手に幻滅されて、なんて日常茶飯事だから。
はーマジこの顔、ありがた迷惑!
「ほら、行くよ」
身長に見合った大きな手が、俺の腰をグッと抱き寄せた。
一瞬ぐらりとしたかと思ったら、あっという間に景色が変わった。
茶色の多い下町から、急にキンキラ眩しい部屋に来た。床には赤い絨毯、両サイドには妙に着飾った偉そうな人たちが並び、正面には何段か上がった所に立派な椅子とそこに座る立派な……ていうかココ、なんか映画で見たことあるぞ、謁見の間とか言うやつじゃね?
「コノ――」
思わず話しかけようとしたら目で静かに、と制された。そうだった、俺は言葉が通じない異世界人って設定なんだっけ。思い出してフードを被ったまま、大人しくしていよう。
コノエはざわつく周囲の人間を気にも留めずに、堂々とした態度で一礼をした。
正面には、いかにも威厳にあふれる態度の恐らく国王らしき人物。
「お久しぶりですね父上」
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