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異世界転生 8日目

第142.5話 S級チート『閉校の危機』

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 しばらく、そうした肉体的にも精神的にもギリギリの、一進一退の攻防が続いてから、

「間違いない――」
 俺は《シュプリームウルフ》の動きが、少しずつ鈍くなりはじめているのを感じ取っていた。

 ――迷いはわずかだった。
「勝負をかける! ここで一気にケリを付ける――!」

 わずかに逡巡しゅんじゅんする慎重な自分を蹴り飛ばして見ないふり。
 俺はここで勝負に出ることを決断した――!

「スポコン系S級チート『閉校の危機』発動!」
 
 このチートは、スポコン系A級チート『火事場の馬鹿力』の系列最上級チートだ。

 戦車道をたしなむ乙女やスクールアイドルたちが、全国大会で優勝して閉校の危機を乗り越えたように、ピンチや窮地で爆発的な底力を引き出してくれるチートなのだ。

 具体的には体力・気力を全回復、かつ使用後わずかな時間は全ステータス150%向上というバケモノみたいな反則チートだった。

「24時間に1度しか使えない制限チートだが……その切り札を、ここで俺は切る!」

 発動と同時に、俺の身体には溢れんばかりの気力と体力がみなぎってきた。
「さぁ、これでこっちはゼロから仕切り直しだ。まだまだ行けるぜ?」

 言って、俺は今までの回避優先から一転、回避系A級チート『闘牛士マタドール』を解除すると、攻撃一辺倒へと舵を切った――!

「おぉぉぉぉおおおおおおおおっっっ――っ、世界よ、真白ましろまたたけ――、紫電一閃しでんいっせん!」
 切れ味鋭い渾身の一撃が巨大化した《シュプリームウルフ》の鼻っ柱を見事にとらえると、

「キャゥンッッ……ッ!」
 《シュプリームウルフ》はその巨体を大きくのけぞらせた。

 顏の周りはやっかいな銀毛に守られていない、巨大な天狼の数少ないウィークポイントだ。
 もちろん狙うのは至難の技である。

 2階建ての屋根の高さほどにある顔を狙うには、その巨大な身体を一瞬で駆けあがるか、または噛みついてくる牙をかわしてカウンターを叩き込むか、その2つくらいしか方法がないからだ。

 加えて、
「っとと……!」

 俺は慌てて回避行動に入ると、距離を取りにかかった。
 そんな俺の動きを追いかけるようにして、牙が、爪が、突進が、次々と肉薄して襲いかかってくる。

 とまぁ、お互い正面でもろに向き合うせいで、危険度が段違いってわけなのだ。

 それでもこの状況は、俺の圧倒的な有利盤面。

「少々無理をしてでも、このまま押し込む――!」
 その判断は間違ってはいない――はずだった。

 ニィッ――
 俺を見下ろす巨狼の口元が、動いたように見えた。

 それが、
嘲笑わらっている……?」
 ようだと俺には思えて――。

 直後――、
「ワオオオォォォォーーーーーーーーーーーーンンンッッッッッツツツツ!!」
 今までで一番の大咆哮が周囲にとどろいた!

「なん……だと……!?」

 《天狼咆哮ライラプス・オーバーロード》によって巨大化していた白銀の巨体が、輪郭がブンと一瞬ブレたかと思うと、1つが2つに、2つが4つに。
 そっくりそのまま分裂したのだった――!

「なっ――、まさかこれって《群体分身ミラージュファング》!? 巨大化した状態でも使えるとか嘘だろ、おい……」

 ……いや、そうか。
 そういうことか。

 巨大化した状態でも使えるんじゃない。
「逆なんだ……本来は、巨大化した状態で使うものなんだ……」

 つまりこれが、これこそが――、
「《シュプリームウルフ》の本当の『固有神聖』――!」

 言うなればそう、
「《天狼咆哮・群体分身》――ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング!」

「「「「ワオオオォォォォーーーーーーーーーーーーンンンッッッッッツツツツ!」」」」

 穏やかな月だけが見守る一望千里いちぼうせんりの草原に、不吉を予感させる遠吠えの四重奏カルテットが響き渡った――。
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