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異世界転生 4日目(後編)

第80話 ナイアさん23歳

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「……えっと? ナイア……?」
 想定外の展開に、俺は思わずぽかんとしてしまう。
 
「な、なんだい……セーヤ?」
 緊張しているのか、ナイアの声はわずかに裏返っていた。

「いや多分、俺の聞き間違いだと思うんだけどさ? なんか今ナイアが俺に惚れた、みたいなことを言われたような……?」

「聞き間違いなんかじゃないさ、アタイはセーヤに惚れちまったんだ!」

「……えっと、ドッキリ?」

 あまりの急展開。
 俺が何の面白味もないそんな答えを返してしまったのも、致し方のないことだろう。

「いやでも、ええぇぇぇぇっっ!?」
 いきなり急に何言ってんの!?

「だって今まで微塵もそんな素振りなかったよな!?」
 それがどうして急にこんな展開に!?

「アタイはさ、添い遂げるなら自分よりも強い男って決めてたんだけど、なかなかいい出会いがなくてね」
「うんまぁ、それはそうだろうね……?」

 現役最強にして、過去に5人しかいないS級騎士に最も近いと言われているナイアだ。
 そんなナイアより強いお相手となると、もはや現存人類の中には存在していない可能性まである。

「その点、セーヤの強さときたら折り紙つきだ。なんせこうやってドラゴンを退治してみせたんだからね。あんな格好いいところを目の前で見せられたら、好きにならない方が無理ってなもんさ」

「そ、そうか……マジな感じか……」

 ん?
 えらく反応が薄いって?

 薄いって言うかさ?
 ナイアみたいな魅力的な美人のお姉さんからいきなり、こんなまっすぐな告白をされて、俺は一体どう反応すれば正解なんだろうか?
 ぶっちゃけ驚きすぎて一周回って落ち着いたまである。

「ほんと、さっきのセーヤには抜群に胸の奥がキュンと来たよ。絶体絶命のピンチにも決して諦めず、未来に向かってあがき続ける凛とした姿――。最後は伝説の《神滅覇王しんめつはおう》の力まで行使して、これで惚れるなってほうが無理な話じゃないかい?」

「あ、うん……」

 ふと気づくとラブコメ系A級チート『大仕事をやってのけた同僚に胸キュン』が発動していた。
 タイトルで説明するのが流行りのラノベのごとく、ど真ん中ストレートにすぎるネーミングである。

「アタイはその、がさつだからさ。女としての魅力は低いかも、だし。聖処女様の加護を得るのに必要な聖性が落ちるから、えっちなこともできないし。もう23だから若くもないし。……だけど、ま、まぁ想うだけなら自由だもんな!」

「いや、ナイアは十分すぎるほどに女の子として魅力的だとは思うけど……」

 面倒見が良い姉御肌あねごはだで、色んな人に慕われていて。
 現役最強の騎士にして、実は爵位を持った貴族だったりもして。
 スタイル抜群の綺麗系美人の上に、えっちなビキニアーマーを標準装備しているときたもんだ。

 それもう要素盛り過ぎだろ、ってくらいに魅力的な女の子だ。

「そんなナイアが、俺を……好き?」
 いまだに実感がわかない俺だった。

 ……そしてナイアは23歳なんだな。
 日本で言うと大卒1年目。

 「年上のお姉さん」好きには理想的ともいえる年齢である。
 割と知りたかったナイアの個人情報を期せずしてゲットした俺は、よしっ、と心のメモ帳に書きこんだのだった。

 そして突然のライバル出現に、

「ナイアさんがまさかの参戦です……! でもでも、セーヤさんはすごいですから仕方ないですよね……! わたし、ナイアさんに負けないように精いっぱい、頑張りますから!」

 ウヅキも負けてはいられない――!

「うーん、別に勝負しなくてもいいんじゃないかい? そもそもアタイが女として、ウヅキの魅力に勝てるなんて、とても思えないというか」
「ふぇ?」
 と思ったら、話が妙な方向に転がり始めた。

「ほら、英雄色を好む、って言うだろう? 《神滅覇王しんめつはおう》で《王竜を退けし者ドラゴンスレイヤー》ともなれば、英雄なんて言葉すらかすんでしまうだろうし」

「……言われてみれば、それもそうですね! 争いは不毛ですし、ナイアさんと競争するより、一緒にゴールした方が楽しそうです!」

「だよね! 実際、創世神話でも《神滅覇王しんめつはおう》は女の尻ばっかり追いかけてるしさ」
「そのたびに、いっつもピンチになるんですよね。最強なのに茶目っ気があって、なんだかセーヤさんみたいです!」

「まったくだ!」
「えへへ、さすがです、セーヤさん!」

 俺の話でいたく盛り上がっているウヅキとナイア。
 ついに、何もしてないのに「さすがです、セーヤさん」と言われてしまったよ。
 うん、さすがだな、俺。

 二人は初めて会った時も速攻で打ち解けていたし、まぁ仲良きことは美しきかな。
 
 そうさ、ドラゴンとだって分かり合えたんだ。
 人間同士でむやみに争う必要はないだろう。

「ふぅ、可愛い女の子にモテモテで今、俺は最高に幸せだぜ……!」

 ……べ、別に、俺の話題のはずなのに、完全に蚊帳の外にされて混ざれなくて、ちょっとさみしい……、なんて思ってないんだからねっ!

「……え? ……っていうか、マジで……? ナイアが、俺を……?」
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