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異世界転生 4日目(後編)

第71話 更なる高みを強欲する愚かなる強者よ――

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「長々と手持無沙汰で待たせて悪かったな、《神焉竜しんえんりゅう》。今度こそ、最後の決戦だ」

 それもこれも、戦闘力ゼロにもかかわらず、しゃもじとおたまで突拍子もない乱入を敢行したウヅキのおかげだ。

「伝説の《神焉竜しんえんりゅう》ですら反応に困って様子見するとか、ほんとすごい女の子だよ、ウヅキは」

 《神焉竜しんえんりゅう》にしても、よもや「しゃもじ」と「おたま」で挑まれるとは、思ってもみなかったことだろう。
 そんな果敢なチャレンジをするのは、後にも先にもきっとウヅキだけだ。
 そんなの最強S級チート『剣聖』がある俺にだって無理な話だろう。

「さて、と」
 折れた日本刀クサナギを構える。

「だったら――、ウヅキがそんなに頑張ったんなら――、最強チート『剣聖』と日本刀クサナギをもった俺が、諦めていいわけがないよな――!」

「おおおおおおおおお―――っ!」
 俺は雄たけびを上げると、真っ向勝負で《神焉竜しんえんりゅう》に戦いを挑んでいく。

 鋼鉄をはるかに凌駕する竜鱗りゅうりんの硬さに阻まれながらも、時に弱点である逆鱗げきりんも狙いつつ、隙を見ては強烈な一撃を黒き巨体に撃ち込んでゆく。

 一撃一撃がまるで艦砲射撃が着弾したかのような威力を誇る、《神焉竜しんえんりゅう》の猛烈な攻撃をかいくぐり、回避系や防御系のチートを駆使して、折れた日本刀クサナギで超接近戦を挑んでゆく。

 もちろん完璧には攻撃を抑えきることはできない。 
 既に身体中、痛くない所はないってくらいに全身が痛いし、口の中は血の味でいっぱいだ。
 わずかだが目もかすみ始めた。

 ――だが、それがなんだ?
「ああそうだ――それがどうした!」

 巨大な爪の振り下ろしを、額をかすめながらギリギリですり抜ける。
 額の真中から出血するが気にやしない。

 逆に懐へと一足飛びに飛び込んだ俺は、瞬時に日本刀クサナギを納刀する。

「世界よ、真白ましろまたたけ――!」
 膨大な剣気を溜めこんで放たれるその鮮烈なる一撃は――、

「剣気解放――、《紫電一閃》!!」

 既に何度目かもわからない、『剣聖』最強の奥義をぶちかました。
 爆発的に解放された剣気が一筋の光となって瞬いて――。

 しかし、またしても逆鱗げきりんの前に弾き返される。

「こなくそ――! こんなに硬くてなにが弱点だ! いっぺん辞書でも引いとけよ、こんちくしょう!」
 だがもう、俺は諦めはしない。

「諦めたらそこでモテモテハーレム異世界転生終了なんだよ! ほんとマジな話な!」
 グッと日本刀クサナギを握りしめると、これでもかと力の限りに振るい続ける。

「だいたい《神焉竜しんえんりゅう》がどれほどのもんだってんだ? たかが羽の生えたでかい爬虫類の分際ぶんざいで! 俺の崇高なるモテモテハーレム異世界転生の邪魔をしようなんざ、百年――、いや一億万年ははええんだよ! お前をぶちのめして、モテモテハーレムのいしずえにしてやるから、とっととおねんねしろやっ!」

 こんどこそはと根性を込めて、

「剣気解放――《紫電一閃》!!」」
 渾身の力でぶち込むも、

「くぅ――!」
 またしても弾き返される『剣聖』最大の奥義。
 必殺技とも呼ぶべきそれが、相も変わらず効いた様子は見受けられない。

「ったく、逆鱗これ本当に弱点なのかよ?」
 思わず笑いたくなるようなほどの防御力の高さだ。

 ったく、ほんと笑っちまう。
 なんだよこの異世界、たった4日でこんなのと遭遇するとかハードモードすぎるだろ。
 心の底から笑っちまうぜ。

 でもさ。
 俺はこの異世界に転生してきたんだ。
 そしてウヅキと、みんなと出会ったんだ。

 女の子と――ウヅキと、ハヅキと、ナイアと話すのはすごく楽しかった。
 名前を呼ばれて、名前を呼んで、あだ名で呼ばれてとっても嬉しかった。

 温泉に一緒に入って死ぬほどドキドキした。
 お散歩デートもしたし、夜デートの約束だってした。

 楽しい思い出がいっぱいなんだ。
 この世界の思い出で、俺はもういっぱいなんだ。

 だから俺は、もうこの異世界の人間なんだ――!

 俺はこの世界で生きていく、女の子にモテモテになってこの異世界で生きていくんだ。
 だから俺は戦うんだ――、そして勝つ!!

 激戦の疲労から、次第に朦朧もうろうとし始めた意識の中。
 最強S級チート『剣聖』に導かれるようにして、俺はただ、俺の理想のモテモテハーレムを想って日本刀クサナギを振るい続ける――、戦い続ける――。

 だから――。

『更なる高みを強欲ほっする愚かなる強者つわものよ――』

 その声は天の福音だったのかもしれないし、単に俺の空耳だったのかもしれない。

なんじの願い、愚者の王たる我が聞き届けようぞ――』

 ただ、その声が聞こえたと思った瞬間。
 俺の中に、灼熱に燃え盛る黄金の小恒星たいよう降臨りてきたのだった――。
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