上 下
19 / 566
第一部「《神滅覇王》――其の者、神をも滅する覇の道を往きて――」 異世界転生 1日目

第19話 異世界温泉~初日~

しおりを挟む
「あぁ、熱いお湯が気持ちいい……癒される……」

 あの後。
 ハヅキの回復を祝った、質素ながらも奮発したであろう晩御飯を一緒に頂いてから。

 今はウヅキの家と短い通路で繋がった温泉に、俺はまったりと浸かっていた。
 今日は歩きづめだったこともあって、湯の中に気持ちよく伸ばした両足は、極上の開放感を伝えてくる。

「あぁ~~生き返る……ちょー気持ちいい……日本人なら温泉だろ、常識的に考えて……それと晩御飯、美味しかったなぁ……」

 主食は白米で、たけのこやしいたけを使った、日本の家庭料理と似たものが多くてとても食べやすく、なによりウヅキの料理はかなりの腕前で、どれを食べても本当に美味しかったのだ。

「でも一番はやっぱ鶏の唐揚げだよな。あれは毎日でも食べたい」
 下味の加減が絶妙で、いくら食べても飽きがこなかったのだ。

 しかもウヅキときたら、
「はい、この一番大きいのをどうぞ、次はこっちの2番目に大きいのをどうぞ」
 なんて新妻みたいに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたのもあって、ついつい食べ過ぎてしまったのだった。

 いやまぁ俺の人生には新妻どころか彼女がいたことさえなかったので、完全な想像なんだけれど。

 全ての料理を作ってくれたウヅキに、特に鶏の唐揚げが美味しかったと伝えると、
「えへへ、ありがとうございます。なにせ地鶏はこの地域の名産品ですから。もっとも、これは庶民向けに安価で大量に売られているものなんです。帝都に出荷されるA5ランクの特上地鶏は、もっと美味しいそうですよ。食べたことはないので、聞いた話ですけどね」

 とのことだった。
 ウヅキの料理の腕もさることながら、庶民向けですら十二分に美味しいのは、さすが名産といったところか。

 そして温泉に入ったことで、回復系C級チート『実家は檜風呂』が発動。体力・気力がぐんぐん回復していく。
 このチートはフリーエージェントF A移籍した有名プロ野球選手が、その契約金でずっと支えてくれた母親に檜風呂を贈ったという、とても素敵なエピソードをもとにした心も温まるハートフルなチートである。

 そして、こんな小さな村に温泉があることを不思議に思ったものだが、
「このあたりは火山地帯にあるおかげで、温泉が至る所にあるんです。鉱物が混じっているので、飲むことはできないんですけど、お風呂のお湯にだけは困ることがないというのが、この地域の隠れたセールスポイントなんですよ」
 ってなことをウヅキが説明してくれた。

 さらに温水は養鶏に必要な保温設備にも利用され、この地域で養鶏が大いに発展した理由の一つでもあるらしい。

「小学校の社会の授業みたいで懐かしかったな。ウヅキも説明上手で学校の先生みたいだったし。あんな優しくて可愛くておっぱいな若い先生がいたら、学校は天国だったろうなぁ……」

 腹いっぱい、からの温泉! という極楽コンボで完全リラックスモードに入っているからか、割と最悪だなと自分でも思う独り言だ。
「まぁほら? 妄想するのは自由だからね……」

 そうそう、ウヅキの家は村の集会所も兼ねていて――だから大きかったのだ――村を代表してこの温泉を管理しているそうだ。

 つまりウヅキの家に居候している間は、毎日この天然温泉に入ることができるってわけだ。
 最悪、水浴びも覚悟していたので、お湯につかってはじめてお風呂に入った気になる日本人的には、温泉完備というのはとてもありがたい話だった。

「それにしても、異世界転生してまだ1日目だけど、色んなことがあったよなぁ」
 温泉で心身ともにのほほんとしながら、激動の一日目を思い起こす。

 はじまりはまさに寝耳に水だった。
 異世界転生官のアリッサから、いきなり「突然ですがあなたは死にました」と言われたときは、どうしようかと思ったものだ。

 その後、異世界転生できると知って小躍りして。
 うまいことアリッサを言いくるめて――じゃない、建設的な相互理解を経て、全チート付与して異世界転生させてもらって。
「でもアリッサにはちょっと悪いことしちゃったかな。経歴に大きな傷がつかなければいいんだけれど」

 そして異世界転生してからは、すぐにウヅキという理想の女の子と出会うことができた。
 そこに絡んできたゴブリンを凹ったら、ウヅキのおっぱいがたゆんたゆんで……うん、あれは凄かった。
 そんなウヅキに「セーヤさん」と名前で呼んでもらえるようになって、すごく嬉しかったんだ。

 二人で一緒に肩車をして薬草を採ったけど、それではハヅキは治らないと告げられて。
 だからS級チートで治したら、死ぬほど感謝してもらえて。あの時のウヅキのハグはすごく柔らかかったな……。
 最終的に住む場所とともに、まなしーというあだ名もゲットして。

「ほんと、ありすぎってくらいに色んなことがあったよなぁ……初めて尽くしで良いこと尽くめだったから、まったくもって文句なんてないんだけどさ」

 そんな風に、温泉で心身ともにくつろぎながら、今日という新たなはじまりの日を、しみじみと振り返っていた時だった。
 ガラッという音がして脱衣所との間の引き戸が開くと、

「お、お邪魔しますね……」

 おそるおそると言った感がにじみ出たウヅキの声が聞こえてきたのは――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...