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プロローグ
第5話 全チート、フル装備――。
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「え――っ?」
ビシィ――ッ!
いきなり指差す俺を見て、腰を浮かせたまま戸惑いを見せるアリッサ。
そんなアリッサに対して、俺はここぞとばかりにたたみかけた。
「人というのは、総じて感情的な生き物なんだよ」
「感情的――ですか?」
「ああ。だから人と人との関係性において、最も大切なのもの――それは感情、つまり心だ」
「それは、はい、わかります。やはり何事も気持ちが一番です!」
「で、あれば、だ――」
俺はここで一旦、間を取った。
これから重要なことを言うんだぞ、というちょっとした演出である。
セコいと侮ることなかれ。
こういう一見どうでもよく見えるちょっとしたことで、得てして勝敗の行方というのは決まるものなのだ。
「俺は今、異世界転生したくてしたくてたまらないんだ。異世界転生の激情に突き動かされていると言っても過言じゃない。だがしかしだ! この情熱たるや今がピーク! このタイミングを逸したら、転生する気がなくなっちゃうかもしれない。いやむしろなくなるのは確定的に明らか!」
「そ、それは困ります! 新人には特に異世界転生したがってる候補者が優先的に割り当てられるんです! それなのに転生してもらえなかったら……私は適正なしとみなされて、歴史編纂室電子入力係とかの閑職に追いやられてしまうかもしません! せっかく憧れのお仕事につけたのに! お給料だって1.5倍は違うんですよ!」
「だよね? 困るよね? じゃあさ、答えはもう決まってるよね?」
「で、でも……前例がないですし……」
言葉が弱くなっている……明らかに迷っている証拠だ……あと一押し、ここで一気に押し切るんだ……!
「やる気・元気・根気ってさっき言ってたよね。それって君だけじゃなくて、俺にも言えることなんじゃないかな? やる気が満ち満ちている今この瞬間こそが、最良のタイミングでないことがありえようか、いや、ない!」
「そ、それは確かに……そうですが……」
「前例がない? ちがうな。それはただの逃げだ!」
「――!」
「前例は、今この瞬間に君が作るんだ! 君が前例になるんだ! 君が選んだ誇り高き転生官という職業は、ただ前例を踏襲するだけのつまらない仕事なのか!」
「――――!!」
「違うだろう、アリッサ・コーエン? そう、これは真摯な想いをもった君にしかできない――君だからこそできる、未来への輝かしい第一歩なんだよ!」
「私にしかできない、未来への第一歩――」
「そうだ。君にしかできない――君ならできる! 問おう、君の仕事はなんだ!」
「い、異世界への転生をサポートすることです!」
「そしてここに異世界転生を渇望してやまない一人の男がいる! なら、君がすることはなんだ!」
「もちろん、その人の手助けをすることです!」
「いつやるの? 今でしょ!」
「――――――!!!」
ど、どうだ……!
チラッ。
押し切った、押し切れたはずだ……!
もちろん明らかに詭弁である。
しかし詭弁といえど、論理は論理。
グレーではあってもギリギリブラックではないはずだ……!
もう一度チラッとアリッサの顔色をうかがうと、
「うっ、ぐすっ……」
泣いてしまっていた。
ど、どどどどゆこと!?
こんなかわいい子を泣かせるなんて、いったいどこのクズ野郎だ!
泣かせた奴は出てこい!
ぼくがでていってやっつけてやる!
って俺だよね、うん。
俺が悪いんだよね。
「ご、ごめん、今のはさすがにちょっと無理があったよね。ごめん、俺が悪かった。そんなね、泣かせるつもりはなかったんだ、ほんとだよ?」
あたふた言い訳するヘタレ麻奈志漏誠也32歳、だからお前は童貞なのだ……
「うん、全面的に俺が悪かったよ。言いすぎたし、ちゃんとルールは守らないとね。前例は大事だ、偉大な先達が残した遺産は、しっかり受け継いでいくべきだよね。チートはやっぱり一つじゃないとダメだ、うん」
「ぐすっ……私、麻奈志漏《まなしろ》さんのことを誤解していました」
「…………はい?」
いきなりどうした?
「ごめんなさい。私、ずっとあなたのことを、異世界転生して美少女に囲まれてモテモテハーレムをエンジョイしたいだけの、心が曇った童貞クズ野郎だと思っていたんです」
「…………」
確かに、確かにそうなんだけどね?
一分の隙もないくらいに、完全無欠にその通りだったんだけどね?
でもたとえ事実でも、アリッサみたいな美少女に面と向かってそんなこと言われたら、リアルに泣きたくなっちゃうよ?
「でも曇っていたのは私の心のほうでした。先入観に囚われ、異世界転生に恋い焦がれるあなたという人間の、澄みわたる青空のように、雲一つなく晴れ渡った美しい心を、私は少しも見ていなかったんです……そんな愚かで盲目な自分を、私は心の底から恥じたい!」
目をキラキラさせて語るアリッサ。
しかし俺の方はというと、本音をずばり言い当てられて、いたたまれない気持ちでいっぱいだった。
思わず目を逸らしてしまう。
アリッサ、決して君の目は曇ってなんかいなかったよ……むしろ今の方が曇っているまである……
「麻奈志漏誠也さん、あなたは何よりも誰よりも熱い情熱で異世界転生を欲するスーパー・グレート・異世界・転生者、SGITだったんですね!」
痛い……純真無垢な想いの丈をぶつけられて、心が痛い……
「……分かりました。全チートを付与しましょう」
「なん……だと……? ……いやいや、それはないよな。えっと聞き間違えかな? なんか今さ、全チート付与って、聞こえたような気がしたんだけど?」
「聞き間違いではありません。麻奈志漏誠也さん、今からあなたに全てのチートを付与します!」
「……え? ……うそ? ……マジで!?」
「マジです、マジ、マジ卍です。迷いが晴れたアリッサ・コーエンの辞書に『二言』という文字はありません!」
「よ、よ、よ――よっしゃーーーーーーっ!!」
こうして。
本日3度目のガッツポーズとともに。
麻奈志漏誠也、32歳。
どこにでもいる平凡なだけの男は、全チートを付与されて異世界転生することになったのだった。
【プロローグ「突然ですがあなたは死にました」 了】
ビシィ――ッ!
いきなり指差す俺を見て、腰を浮かせたまま戸惑いを見せるアリッサ。
そんなアリッサに対して、俺はここぞとばかりにたたみかけた。
「人というのは、総じて感情的な生き物なんだよ」
「感情的――ですか?」
「ああ。だから人と人との関係性において、最も大切なのもの――それは感情、つまり心だ」
「それは、はい、わかります。やはり何事も気持ちが一番です!」
「で、あれば、だ――」
俺はここで一旦、間を取った。
これから重要なことを言うんだぞ、というちょっとした演出である。
セコいと侮ることなかれ。
こういう一見どうでもよく見えるちょっとしたことで、得てして勝敗の行方というのは決まるものなのだ。
「俺は今、異世界転生したくてしたくてたまらないんだ。異世界転生の激情に突き動かされていると言っても過言じゃない。だがしかしだ! この情熱たるや今がピーク! このタイミングを逸したら、転生する気がなくなっちゃうかもしれない。いやむしろなくなるのは確定的に明らか!」
「そ、それは困ります! 新人には特に異世界転生したがってる候補者が優先的に割り当てられるんです! それなのに転生してもらえなかったら……私は適正なしとみなされて、歴史編纂室電子入力係とかの閑職に追いやられてしまうかもしません! せっかく憧れのお仕事につけたのに! お給料だって1.5倍は違うんですよ!」
「だよね? 困るよね? じゃあさ、答えはもう決まってるよね?」
「で、でも……前例がないですし……」
言葉が弱くなっている……明らかに迷っている証拠だ……あと一押し、ここで一気に押し切るんだ……!
「やる気・元気・根気ってさっき言ってたよね。それって君だけじゃなくて、俺にも言えることなんじゃないかな? やる気が満ち満ちている今この瞬間こそが、最良のタイミングでないことがありえようか、いや、ない!」
「そ、それは確かに……そうですが……」
「前例がない? ちがうな。それはただの逃げだ!」
「――!」
「前例は、今この瞬間に君が作るんだ! 君が前例になるんだ! 君が選んだ誇り高き転生官という職業は、ただ前例を踏襲するだけのつまらない仕事なのか!」
「――――!!」
「違うだろう、アリッサ・コーエン? そう、これは真摯な想いをもった君にしかできない――君だからこそできる、未来への輝かしい第一歩なんだよ!」
「私にしかできない、未来への第一歩――」
「そうだ。君にしかできない――君ならできる! 問おう、君の仕事はなんだ!」
「い、異世界への転生をサポートすることです!」
「そしてここに異世界転生を渇望してやまない一人の男がいる! なら、君がすることはなんだ!」
「もちろん、その人の手助けをすることです!」
「いつやるの? 今でしょ!」
「――――――!!!」
ど、どうだ……!
チラッ。
押し切った、押し切れたはずだ……!
もちろん明らかに詭弁である。
しかし詭弁といえど、論理は論理。
グレーではあってもギリギリブラックではないはずだ……!
もう一度チラッとアリッサの顔色をうかがうと、
「うっ、ぐすっ……」
泣いてしまっていた。
ど、どどどどゆこと!?
こんなかわいい子を泣かせるなんて、いったいどこのクズ野郎だ!
泣かせた奴は出てこい!
ぼくがでていってやっつけてやる!
って俺だよね、うん。
俺が悪いんだよね。
「ご、ごめん、今のはさすがにちょっと無理があったよね。ごめん、俺が悪かった。そんなね、泣かせるつもりはなかったんだ、ほんとだよ?」
あたふた言い訳するヘタレ麻奈志漏誠也32歳、だからお前は童貞なのだ……
「うん、全面的に俺が悪かったよ。言いすぎたし、ちゃんとルールは守らないとね。前例は大事だ、偉大な先達が残した遺産は、しっかり受け継いでいくべきだよね。チートはやっぱり一つじゃないとダメだ、うん」
「ぐすっ……私、麻奈志漏《まなしろ》さんのことを誤解していました」
「…………はい?」
いきなりどうした?
「ごめんなさい。私、ずっとあなたのことを、異世界転生して美少女に囲まれてモテモテハーレムをエンジョイしたいだけの、心が曇った童貞クズ野郎だと思っていたんです」
「…………」
確かに、確かにそうなんだけどね?
一分の隙もないくらいに、完全無欠にその通りだったんだけどね?
でもたとえ事実でも、アリッサみたいな美少女に面と向かってそんなこと言われたら、リアルに泣きたくなっちゃうよ?
「でも曇っていたのは私の心のほうでした。先入観に囚われ、異世界転生に恋い焦がれるあなたという人間の、澄みわたる青空のように、雲一つなく晴れ渡った美しい心を、私は少しも見ていなかったんです……そんな愚かで盲目な自分を、私は心の底から恥じたい!」
目をキラキラさせて語るアリッサ。
しかし俺の方はというと、本音をずばり言い当てられて、いたたまれない気持ちでいっぱいだった。
思わず目を逸らしてしまう。
アリッサ、決して君の目は曇ってなんかいなかったよ……むしろ今の方が曇っているまである……
「麻奈志漏誠也さん、あなたは何よりも誰よりも熱い情熱で異世界転生を欲するスーパー・グレート・異世界・転生者、SGITだったんですね!」
痛い……純真無垢な想いの丈をぶつけられて、心が痛い……
「……分かりました。全チートを付与しましょう」
「なん……だと……? ……いやいや、それはないよな。えっと聞き間違えかな? なんか今さ、全チート付与って、聞こえたような気がしたんだけど?」
「聞き間違いではありません。麻奈志漏誠也さん、今からあなたに全てのチートを付与します!」
「……え? ……うそ? ……マジで!?」
「マジです、マジ、マジ卍です。迷いが晴れたアリッサ・コーエンの辞書に『二言』という文字はありません!」
「よ、よ、よ――よっしゃーーーーーーっ!!」
こうして。
本日3度目のガッツポーズとともに。
麻奈志漏誠也、32歳。
どこにでもいる平凡なだけの男は、全チートを付与されて異世界転生することになったのだった。
【プロローグ「突然ですがあなたは死にました」 了】
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