上 下
52 / 68
オペレーション『Water Side Angel』(水辺の天使作戦)

第52話 爆撃

しおりを挟む
 激しく衝撃から少し遅れて、
 ヒュウウウウゥゥゥゥ――!

 鋭い風切音が聞こえてきた時には、衝撃で車が横回りに宙を舞い、わずかな浮遊感の後に、車は屋根から地面に落下し、2回3回と横転して止まった。

「ぐっ!? げほっ、ごほっ……。これは――まさか爆撃を受けたのか!?」

 遅れてきた飛翔音と発生した結果から、すぐ間近にミサイルか榴弾砲か、その辺りの高威力長距離攻撃兵器が着弾したのだと、俺は即座に状況を推察・把握する。

 衝撃で開いたエアバッグのおかげで、俺の身体にダメージはない。
 すぐにでも動き出せる。

「ミリアリア、サファイア大丈夫か!」

 見事に役目を果たし、既にしぼみ始めたエアバッグの残骸をかき分けながら、俺が急ぎ後部座席を振り返ると、

「サファイアは、だいじょうぶ。でも、ママが……」
「ぅ……ぁ……」

 ミリアリアがサファイアを抱きしめるようにして、衝撃からその小さな身体を守っているのが目に映った。
 ミリアリアの脇の下からサファイアの不安そうな顔がのぞき見える。

 後部座席のエアバッグも開いてはいたが、空間を埋めることで衝撃を殺すエアバッグは、かなり硬くて結構痛い。
 エアバッグの圧迫で骨折するなんてこともザラにある(もちろん骨折で命が助かるなら安いものだが)。

 しかも車は跳ね飛ばされて数回横転した。
 エアバッグでも抑えきれない衝撃だ。

 だからミリアリアは攻撃を受けた瞬間に、何をするべきか瞬間的に判断して――サファイアの身の安全を最優先したのだ――サファイアを抱きしめることで、その小さな身体を守ってみせたのだ。

「ママ! ママ、ママ!」
 サファイアが必死に問いかけると、

「わたしは……だい、じょうぶ、です……少し身体を打っただけ、です……から……あぐ……」
 弱々しい声と、小さなうめき声が返ってくる。

 意識はある。
 か細いが声も返せる。
 エアバッグは正常に作動していた。
 出血もない。

 戦闘は無理でも命に別状はないと、既に戦闘モードに入っている俺の頭は、ミリアリアの容態を冷静に判断した。

「敵は俺が迎撃する。ミリアリアはサファイアと一緒に車の中にいろ。絶対に出てくるな。いいな、これは隊長命令だ」

「了解……です……。護衛部隊の、掩護は……」

「この状況でまだ無線連絡がこない。つまり護衛部隊も攻撃を受けて厳しい状況にあると推察される。援護は期待できないだろうが、なーに。誰が来ようが、何が来ようが俺一人で十分だ。すぐに片を付けて病院に連れて行ってやるから、少しだけ待っててくれ」

「はい……」

 ミリアリアの弱々しい返事を聞きつつ、今やガスが抜けて完全にしぼんだエアバッグを払いのけると、俺は運転席から車外に飛び出た。

 敵の目的はまず間違いなくサファイアの拉致だ。
 となれば長距離攻撃で先制攻撃をした後、必ず近接要員が地上戦を仕掛けてくる。

「まずは敵を探し、片っ端から殲滅せんめつする。俺の大切なミリアリアに怪我をさせやがった礼は、1000倍返しにして返してやる!」

 俺は頭を徹底して冷静にしながら、同時に激しく燃え盛る怒りの炎を心に燃やしていたのだが――。

『敵』は隠れるでもなく、堂々と車から少し離れたところに立って、堂々と俺を待ち受けていた。

 魔法具と思われる機械を身体中に装備した、中年の男性だ。
 白みがかった頭髪はオールバックに撫でつけられていて、柔和な笑みを浮かべている。

 そいつは俺を見ると、笑みを深くしながら言った。

「初めましてカケル・ムラサメ。私の名前はエンドレス・ウォーカー。治安機関イージスの誇る最強エージェントとお会いできて光栄です」

 男――エンドレス・ウォーカーは、名を名乗ると、まるでお芝居から抜け出てきたかのように仰々しくお辞儀をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...