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オペレーション『New Family』(新しい家族作戦)
第23話 はじめてのドライブ
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「すみません、お待たせしました」
「ぜんぜん待ってないっての」
「むらさめ! どう? にあってる?」
サファイアが可愛らしいピンクのワンピースのスカートを翻しながら、くるりと回る。
その頭には花飾りのついたのカチューシャ。
足元はお花の模様があしらわれたサンダル。
年相応の可愛らしい服装の中、ワンピースの腰元に巻かれた白いベルトが、少しだけ大人っぽさを演出している。
「可愛いじゃないか。それにちょっと大人っぽい。よく似合ってるぞ」
「ママが、こ、こ、コーティング? してくれたの」
「惜しい。コーティングではなく、コーディネートですね」
「そう、それ! それを、してくれたの。とっても、かわいいよね! ママ、ありがとっ!」
「いえいえ、どういたしまして」
そう答えながら、ふんわりと優しく笑ったミリアリアは、膝丈のスカートと薄手のニットセーターという、シンプルかつスタイリッシュで、可愛さも兼ね備えた服装をしていた。
「ミリアリアも良く似合ってるぞ」
「ママ!」
「ああうん、ミリアリアママも良く似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうございます」
ミリアリアがかすかに頬を染めながら嬉しそうに笑った。
「じゃ、行くか」
「はい」
「くるま、わくわく!」
「運転は俺がするな」
「いえ、運転ならわたしが――」
「いや、運転は俺がやるから、ミリアリアママはサファイアの面倒をみてやって欲しい」
「……そうですか。ではお願いしますね」
ミリアリアは少し残念そうにうなずいたが、俺は内心でホッとしていた。
やれやれ、事なきを得たか。
というのもだ。
美人で可愛くて性格も良い、まさに非の打ち所のないパーフェクト・レディなミリアリアだが、1つだけやらせてはいけないことがある。
車の運転だ。
ミリアリアはハンドルを持つと、なんていうかその……人が変わる( ← 最大級のオブラートに包んだ婉曲表現)。
まず普段の穏やかな性格からは考えられないほどにスピード狂だ。
しかもアクセルを奥の奥までベタ踏みする。
さらに必要もないのに発車時にタイヤを空転させたり、ドリフトとかレイトブレーキとかをしだすのだ。
ミリアリアはたしかに運転が上手い。
イージスでもトップクラスのドライビングテクニックを持っている。
運転訓練で片手でハンドルを操作しながら、鼻歌交じりにコーナーをドリフトで走り抜けるのを助手席で見せられた時には、本物の天才だと思ったものだ。
事実、指導役として呼ばれていた元世界王者ラリーストのフジワラ氏は、ミリアリアのすご技ドラテクを見るや否や、
『この才能を世に出さないのはモータースポーツ界の損失だ! 今すぐにでもぜひプロ転向を! 俺がラリー協会に掛け合ってもいい! 彼女の才能なら世界王者も夢じゃないぞ!』
と、大絶賛したほどだ。
だがミリアリア本人はプロには特には興味はないようで、どれだけ熱心な言葉で誘われても、
『わたしはイージスで、カケルの副官として働くことに誇りを持っていますから』
と言って聞く耳を持たなかった。
そういうアレもあり。
イージスの人間で、普通の街乗りでミリアリアにハンドルを持たせようとする者はいなかった。
それはさておき。
俺たち3人は車に乗り込む。
「カケルパパは運転も上手なんですよ? カーチェイスもお手の物なんですから」
「ふんふん!」
「イヨンモールに行くだけだからな? 上手も何もないからな? そもそもミリアリアの方がはるかにカーチェイスも得意だよな?」
「またまたご謙遜《けんそん》を」
「サファイア、くるま、はじめてだから。たのしみ!」
「……そっか。そうだよな」
「サファイア……」
サファイアの何気ない一言に、俺とミリアリアは思わず言葉に詰まってしまう。
サファイアは研究所の檻の中に閉じ込められていた。
車に乗るのが初めてなのも当然だ。
「よし、だったら俺が最高のドライブを見せてやる」
「むらさめ、ほんと?」
「おうよ。車に乗るのが楽しみで楽しみで仕方ないようにしてやるから、覚悟しとけよ?」
「うん!」
とは言うものの公務員たる者、安全運転はマストなので、俺は少し遠回りしながら、信号が少なく景色のいいドライブ向きのルートを通って、イヨンモールまで車を走らせた。
◇
「はやくて、たのしかった! ひととか、きが、ビューって、うしろに、ながれていくの! ビュー、ビューって!」
イヨンモールの駐車場で車を降りて早々、サファイアが俺に初ドライブの感想を報告をしてくれる。
「ははっ、初めてのドライブは楽しんでもらえたみたいだな」
「それでねそれでね! しんごうで、とまってるとき、わんわんが、いたの!」
「大きなわんちゃんをお散歩途中のご婦人がいたんですよね」
「サファイア、わんわんに、バイバイしたの! わんわんも、しっぽを、ふってた!」
「そりゃ良かったじゃないか。サファイアはわんわんが好きなんだな」
「うん、すき! つよくて、かっこいいから!」
「そっか。じゃあ早くわんわんのぬいぐるみを買いに行かないとな」
「うん!」
「それでは立ち話もなんですし、早速行きましょう。ぬいぐるみ売り場は3階です」
俺たち3人はイヨンモールの中にあるぬいぐるみ屋さんへと向かった。
「ぜんぜん待ってないっての」
「むらさめ! どう? にあってる?」
サファイアが可愛らしいピンクのワンピースのスカートを翻しながら、くるりと回る。
その頭には花飾りのついたのカチューシャ。
足元はお花の模様があしらわれたサンダル。
年相応の可愛らしい服装の中、ワンピースの腰元に巻かれた白いベルトが、少しだけ大人っぽさを演出している。
「可愛いじゃないか。それにちょっと大人っぽい。よく似合ってるぞ」
「ママが、こ、こ、コーティング? してくれたの」
「惜しい。コーティングではなく、コーディネートですね」
「そう、それ! それを、してくれたの。とっても、かわいいよね! ママ、ありがとっ!」
「いえいえ、どういたしまして」
そう答えながら、ふんわりと優しく笑ったミリアリアは、膝丈のスカートと薄手のニットセーターという、シンプルかつスタイリッシュで、可愛さも兼ね備えた服装をしていた。
「ミリアリアも良く似合ってるぞ」
「ママ!」
「ああうん、ミリアリアママも良く似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうございます」
ミリアリアがかすかに頬を染めながら嬉しそうに笑った。
「じゃ、行くか」
「はい」
「くるま、わくわく!」
「運転は俺がするな」
「いえ、運転ならわたしが――」
「いや、運転は俺がやるから、ミリアリアママはサファイアの面倒をみてやって欲しい」
「……そうですか。ではお願いしますね」
ミリアリアは少し残念そうにうなずいたが、俺は内心でホッとしていた。
やれやれ、事なきを得たか。
というのもだ。
美人で可愛くて性格も良い、まさに非の打ち所のないパーフェクト・レディなミリアリアだが、1つだけやらせてはいけないことがある。
車の運転だ。
ミリアリアはハンドルを持つと、なんていうかその……人が変わる( ← 最大級のオブラートに包んだ婉曲表現)。
まず普段の穏やかな性格からは考えられないほどにスピード狂だ。
しかもアクセルを奥の奥までベタ踏みする。
さらに必要もないのに発車時にタイヤを空転させたり、ドリフトとかレイトブレーキとかをしだすのだ。
ミリアリアはたしかに運転が上手い。
イージスでもトップクラスのドライビングテクニックを持っている。
運転訓練で片手でハンドルを操作しながら、鼻歌交じりにコーナーをドリフトで走り抜けるのを助手席で見せられた時には、本物の天才だと思ったものだ。
事実、指導役として呼ばれていた元世界王者ラリーストのフジワラ氏は、ミリアリアのすご技ドラテクを見るや否や、
『この才能を世に出さないのはモータースポーツ界の損失だ! 今すぐにでもぜひプロ転向を! 俺がラリー協会に掛け合ってもいい! 彼女の才能なら世界王者も夢じゃないぞ!』
と、大絶賛したほどだ。
だがミリアリア本人はプロには特には興味はないようで、どれだけ熱心な言葉で誘われても、
『わたしはイージスで、カケルの副官として働くことに誇りを持っていますから』
と言って聞く耳を持たなかった。
そういうアレもあり。
イージスの人間で、普通の街乗りでミリアリアにハンドルを持たせようとする者はいなかった。
それはさておき。
俺たち3人は車に乗り込む。
「カケルパパは運転も上手なんですよ? カーチェイスもお手の物なんですから」
「ふんふん!」
「イヨンモールに行くだけだからな? 上手も何もないからな? そもそもミリアリアの方がはるかにカーチェイスも得意だよな?」
「またまたご謙遜《けんそん》を」
「サファイア、くるま、はじめてだから。たのしみ!」
「……そっか。そうだよな」
「サファイア……」
サファイアの何気ない一言に、俺とミリアリアは思わず言葉に詰まってしまう。
サファイアは研究所の檻の中に閉じ込められていた。
車に乗るのが初めてなのも当然だ。
「よし、だったら俺が最高のドライブを見せてやる」
「むらさめ、ほんと?」
「おうよ。車に乗るのが楽しみで楽しみで仕方ないようにしてやるから、覚悟しとけよ?」
「うん!」
とは言うものの公務員たる者、安全運転はマストなので、俺は少し遠回りしながら、信号が少なく景色のいいドライブ向きのルートを通って、イヨンモールまで車を走らせた。
◇
「はやくて、たのしかった! ひととか、きが、ビューって、うしろに、ながれていくの! ビュー、ビューって!」
イヨンモールの駐車場で車を降りて早々、サファイアが俺に初ドライブの感想を報告をしてくれる。
「ははっ、初めてのドライブは楽しんでもらえたみたいだな」
「それでねそれでね! しんごうで、とまってるとき、わんわんが、いたの!」
「大きなわんちゃんをお散歩途中のご婦人がいたんですよね」
「サファイア、わんわんに、バイバイしたの! わんわんも、しっぽを、ふってた!」
「そりゃ良かったじゃないか。サファイアはわんわんが好きなんだな」
「うん、すき! つよくて、かっこいいから!」
「そっか。じゃあ早くわんわんのぬいぐるみを買いに行かないとな」
「うん!」
「それでは立ち話もなんですし、早速行きましょう。ぬいぐるみ売り場は3階です」
俺たち3人はイヨンモールの中にあるぬいぐるみ屋さんへと向かった。
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