朝5時に、ピンポン鳴ったら、妻できた。 (えっちバージョン)

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫

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第3章 世界滅亡の日

第62話「だってトールは普段から最高に格好いいんですもーん」

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「まぁ俺の究極転移呪文にかかればこれくらい楽勝さ。なにせ俺は異世界を救った勇者にして、世界でたった一人の召喚術士なんだからな」

 何度も召喚に失敗したことは隠して、俺はちょっとだけ格好をつけてみせる。

 いくら普段は情けない30過ぎの無職とはいえ。
 俺も男なので、こういう時くらいは女の子にいい格好をしたいのだ。

「その割には結構時間かかりましたよね? 30分近くかかってますよね? 声もかすれちゃってますし、察するに何度も失敗しましたよね?」

 はい、一瞬で見抜かれてしまいました。

 エリカは頭がいいもんな。
 かかった時間とか俺がやたらと疲弊していることを考えれば、すぐに分かっちゃうよな。

 でもさぁ?

「あのなぁエリカ、ちょっとは俺に格好くらいつけさせてくれよな? いや事実なんだけどな? こう、話の流れってもんがあるだろ?」

 今は俺のターンだったはずだ。
 しかも「超凄いです!」って褒めっ褒めに褒められる場面のはず。

「もう、格好つけるなんてトールには必要ありませんよ」

「ちょ、おまえ酷すぎる言いようだな、おい!? そこまで言われると、さすがの俺も泣くぞ!?」

 格好をつけるのすら痛々しから止めて欲しいってか?

 たしかに俺は格好をつけるのとは対極にいる、陰キャ気味のライトなアニオタだけどさ?
 しかも勤め先が倒産して無職になってしまった30過ぎだけどさ?

 でもこんな感動の再会の場面でくらい、格好つけたって罰は当たらないだろ!?

「だってトールは普段から最高に格好いいんですもーん。わざわざ格好なんてつける必要は、これっぽっちもないんですよーだ♪」

「おふぁっ……!?」

 お、おおお前、なんて恥ずかしいことを言いやがるんだよ!?
 ドキドキし過ぎて変な声が出ちゃったじゃん。

「おやおや? 黙り込んでしまった上に顔がやたらめったら赤いですよ? もしかして照れてますか?」

「そりゃお前、照れるだろこんなこと言われたら。そうでなくたって、今はみんなが見ている前で抱き合っちゃってるのにさ」

「だったらこんなことしちゃったら、トールはどうなっちゃうんでしょうね?」

「こんなことってなんだ――むぐ」

 俺がエリカの意図を理解する前に。
 エリカがうんしょっと可愛らしく言いながら俺の腕の中で背伸びをして――、

 チュッと。
 柔らかくて温かい『何か』が、俺の唇に優しく触れていた。

「ん――む――んん――」

 それが何か考えるまでもなく、エリカの唇が俺の唇に触れていた。

 時間にして5秒くらいだっただろうか。
 すぐにエリカの唇は離れていく。

「えへへ、みんなが見ている前でキスしちゃいました♡ これでもう皆さん公認ってことですよね♡」
 エリカがにっこり微笑んだ。

「こ、こんなみんなが見ている前で、お前はなんてことを……」

「トールが煮え切らないのがいけない――いえ、嬉しさがブワッて溢れちゃって、ついキスをしちゃいました」

「おいこら、思いっきり本音がダダ洩れしてるぞ」

「えへへ、てへぺろ」
 エリカが上目づかいで見上げな空可愛らしく舌を出す。

「まったくエリカはこんなときだっていうのにさ……ま、エリカらしいと言えば、らしいんだけど」

 チラリと周囲に視線を向けると既に黄金色の光は完全に失われており。
 浮かび上がっていた魔法陣もすっかり消えてしまっている。

 そして打ち上げスタッフの全員が全員、もちろん中野さんとヒナギクさんも俺とエリカに視線を向けていて――。

 つまり。
 俺はこんな衆人環視の中でエリカとキスをしちゃったのか!?

 っていうか今冷静になって考えてみると、俺こんなに人が多いところでオリジナルの究極召喚魔法どやぁ!って何度も何度もやってたの!?

 なにそれ超恥ずかしいんだけど!?
 もし最後まで成功しなかったら、俺は絶対に精神を病んでたよ!?

 特殊スキル・ヒキコモリが発動して、2度と日の光を浴びられない体質になっちゃってたよ!?

「実を言うと、わたしも結構恥ずかしかったりです」

「お、おう……」

 くっ、なんだこいつ可愛すぎだろ。
 知ってたけど!
 めちゃくちゃ知ってたけど!
 超今さらなんだけど!

 しかもパチパチと中野さんが拍手を始めると、総合指令室内の全員が次々と拍手を始めて、さらには歓声まで上がり始める始末だった。

「ふむ。察するに、ここはトールが皆さんに向けて、いい感じの締めのセリフを言う場面ではないかと思いますが」

 俺の腕の中からするりと抜け出たエリカが、近くにあったマイクを取るとひょいっと手渡してきた。
 俺はつい反射的にそれを受け取ってしまう。

「ちょ、やめてくれ! そんな無茶振りを元平社員で現在無職のパンピーの俺にするのはよ!?」

 しかしそんなことを言ってももはや後の祭り。
 マイクを受け取ってしまったことで、いまや期待に満ち満ちた全員の視線が俺へと集まってしまっていた。

 それを無視することができなかった小心者の俺は、

「ええっと、みんなが力を合わせた結果、世界は救われました。ありがとうございました」

 小学生並の低レペルなコメントをなんとか捻り出しつつ、社会人時代に培った愛想笑いでなんとかこの局面を乗り切ったのだった。


 こうして俺とエリカの大活躍によって。
 超巨大隕石アーク・シィズの脅威は取り除かれ、世界は元の平穏を取り戻した。

 そして宇宙から無事に帰還したエリカと、エリカを召喚び戻した俺も、再び平和な日常を再開することになったのだった。
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