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第3章 世界滅亡の日
第56話 最後のお別れ
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「トールさん、エリカさんに最後のお別れをしてくださいまし」
「ヒナギクさん、なにを言ってるんだ? 最後ってどういう意味だよ?」
俺はその言葉の意味がさっぱり分からずに問い返す。
だけどそんな俺に向かって、ヒナギクさんは感情を殺したような声で言ったんだ、
「『H4X-105おおとり』はまだ試作段階ですの。打ち上げに関してはH2ロケットやイプシロンロケットからの技術転用が可能でしたが、肝心のコクピットユニットの帰還システムはまだ未完成だったのですわ」
って。
そんなことを言いやがったんだ――!
「帰還システムが未完成って……はあっ!? ってことはじゃあエリカはもう帰ってこれないってことなのかよ!?」
「そういうことに……なりますわね」
「そういうことになりますってなんだよ、おい! 俺はそんなこと一言も聞いちゃいないぞ!」
「……」
「エリカだって、これじゃあ完全なだまし討ちじゃないか! 自分たちが助かるためにエリカを騙して、行ったらもう帰ることができない宇宙に上げたって言うのかよ!」
言いづらそうに視線を伏せながら答えたヒナギクさんの肩を、俺は掴んで揺すって問い詰める。
感情が一瞬でドカンと爆発して、俺の口から火山が噴火したように一気にあふれ出してしまった。
だけどヒナギクさんはそんな熱くなった俺とは対照的に、極めて冷静に言ったんだ。
「あらかじめエリカさんには伝えてありましたわ。トールさんに席を外してもらった時に、詳細についてはお話ししましたから」
「エリカには話してあったって? だって俺はずっとエリカと一緒にいた――いや待て、1回だけ離れて――まさかあの時か!?」
そうだ、俺がパフェを買いに行った時だ。
~~~~
『それで話というのはなんでしょう?』
『それは――』
ヒナギクさんが何事か言いかけようとして、なぜか俺の顔をチラリと横目で見た。
『えっと、なに?』
『トール、すみませんが席を外してもらえませんか?』
するとヒナギクさんの動きに呼応するように、エリカそんなことを言ってきたのだ。
~~~~
あの時、難しい話で俺は嫌がるだろうからパフェでも買ってきてって、急にエリカに言われたんだ。
何にも考えずに生きているバカな俺は気付かなかったけど、頭のいいエリカはきっとあの時点で何か良くない話になるんだろうって直感していたんだ。
ヒナギクさんが俺を見た様子が少し変だったのをエリカは察して、俺にこの話を聞かせないようにしたんだ。
俺が話を聞いたら反対すると思ったから――!
(この大馬鹿野郎が! なんでも自分だけで解決しようとしやがって──!!)
「エリカ、エリカ! 聞こえているか? 聞こえているなら返事をしてくれ!」
俺は居ても立っても居られなくなって、モニターの真ん前まで走っていくと懸命にエリカに呼びかけた。
能力使用後の疲労から少し回復したのだろう、俺の声を聞いたエリカが顔を上げる。
「トールのその慌てぶり……その様子ですとどうやらもう話は全部聞いちゃったみたいですね」
「なに呑気なこと言ってるんだよ! だいたいこんな大事な話をなんでお前は黙ってたんだよ!」
「だって知ったら間違いなくトールは反対するじゃないですか」
「そんなの反対するに決まっているだろうが! なんでエリカが片道切符で死にに行かなきゃならないんだ! どう考えてもおかしいだろそれは!」
「だってわたし一人が犠牲になれば世界中の皆が助かるんですよ? なによりトールが助かるんですから、わたしとしてはやらない選択肢はありませんでしたもん。なにせわたしはトールの妻なんですから」
「なんでエリカは――」
「はい、なんでしょうか?」
「もうすぐ死ぬっていうのに、なんでエリカはそんないつも通りでいられるんだよ!」
いつもと変わらない口調で「妻ですから」なんて言って笑えるんだよ!
俺はもう焦りに焦って、いても立ってもいられないってのに――!
「ヒナギクさん、なにを言ってるんだ? 最後ってどういう意味だよ?」
俺はその言葉の意味がさっぱり分からずに問い返す。
だけどそんな俺に向かって、ヒナギクさんは感情を殺したような声で言ったんだ、
「『H4X-105おおとり』はまだ試作段階ですの。打ち上げに関してはH2ロケットやイプシロンロケットからの技術転用が可能でしたが、肝心のコクピットユニットの帰還システムはまだ未完成だったのですわ」
って。
そんなことを言いやがったんだ――!
「帰還システムが未完成って……はあっ!? ってことはじゃあエリカはもう帰ってこれないってことなのかよ!?」
「そういうことに……なりますわね」
「そういうことになりますってなんだよ、おい! 俺はそんなこと一言も聞いちゃいないぞ!」
「……」
「エリカだって、これじゃあ完全なだまし討ちじゃないか! 自分たちが助かるためにエリカを騙して、行ったらもう帰ることができない宇宙に上げたって言うのかよ!」
言いづらそうに視線を伏せながら答えたヒナギクさんの肩を、俺は掴んで揺すって問い詰める。
感情が一瞬でドカンと爆発して、俺の口から火山が噴火したように一気にあふれ出してしまった。
だけどヒナギクさんはそんな熱くなった俺とは対照的に、極めて冷静に言ったんだ。
「あらかじめエリカさんには伝えてありましたわ。トールさんに席を外してもらった時に、詳細についてはお話ししましたから」
「エリカには話してあったって? だって俺はずっとエリカと一緒にいた――いや待て、1回だけ離れて――まさかあの時か!?」
そうだ、俺がパフェを買いに行った時だ。
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『それで話というのはなんでしょう?』
『それは――』
ヒナギクさんが何事か言いかけようとして、なぜか俺の顔をチラリと横目で見た。
『えっと、なに?』
『トール、すみませんが席を外してもらえませんか?』
するとヒナギクさんの動きに呼応するように、エリカそんなことを言ってきたのだ。
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あの時、難しい話で俺は嫌がるだろうからパフェでも買ってきてって、急にエリカに言われたんだ。
何にも考えずに生きているバカな俺は気付かなかったけど、頭のいいエリカはきっとあの時点で何か良くない話になるんだろうって直感していたんだ。
ヒナギクさんが俺を見た様子が少し変だったのをエリカは察して、俺にこの話を聞かせないようにしたんだ。
俺が話を聞いたら反対すると思ったから――!
(この大馬鹿野郎が! なんでも自分だけで解決しようとしやがって──!!)
「エリカ、エリカ! 聞こえているか? 聞こえているなら返事をしてくれ!」
俺は居ても立っても居られなくなって、モニターの真ん前まで走っていくと懸命にエリカに呼びかけた。
能力使用後の疲労から少し回復したのだろう、俺の声を聞いたエリカが顔を上げる。
「トールのその慌てぶり……その様子ですとどうやらもう話は全部聞いちゃったみたいですね」
「なに呑気なこと言ってるんだよ! だいたいこんな大事な話をなんでお前は黙ってたんだよ!」
「だって知ったら間違いなくトールは反対するじゃないですか」
「そんなの反対するに決まっているだろうが! なんでエリカが片道切符で死にに行かなきゃならないんだ! どう考えてもおかしいだろそれは!」
「だってわたし一人が犠牲になれば世界中の皆が助かるんですよ? なによりトールが助かるんですから、わたしとしてはやらない選択肢はありませんでしたもん。なにせわたしはトールの妻なんですから」
「なんでエリカは――」
「はい、なんでしょうか?」
「もうすぐ死ぬっていうのに、なんでエリカはそんないつも通りでいられるんだよ!」
いつもと変わらない口調で「妻ですから」なんて言って笑えるんだよ!
俺はもう焦りに焦って、いても立ってもいられないってのに――!
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