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第2章 朝5時にピンポン連打する金髪ネコ耳公務員さん

第44話 プランB

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 その後、脅威が完全になくなったと判断し、環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』の人たちの拘束を解いてあげた。

 全員いると手狭なのでリーダーの男と中野さんだけに残ってもらって、その他のメンバーには帰宅してもらう。

 そして引っ越しをするのはやっぱり面倒だなぁと難色を示した俺を見たヒナギクさんは。
 少々お待ち下さいと断りを入れてから、どこぞの偉い人に電話をかけ始めた。

「……ではそういうことで、はい、はい、よろしくお願い致しますわ」

「偉い人への話はついたの?」

 面倒だからってだけの超軽い気持ちで引っ越ししたくないって言っちゃったんだけど。
 そのせいでヒナギクさんに迷惑かけちゃったら申し訳なかったなと、俺がおずおずと尋ねると、

「はい。このアパートを土地建物ごと全て日本政府が買い取ることにしました」

 ヒナギクさんは突拍子もない言葉を返してきた。

「えっ!? アパートごと買い取るの!? っていうかそんなことを電話一本で簡単に決めちゃっていいの?」

「ふふっ、ご安心くださいませ。これはあらかじめ用意していたプランB、次善の策ですわ」
「あ、そうだったんだ……」

 さすが国家公務員だよ。
 準備に万事ぬかりなしですごいなぁ。

 俺なんか基本目の前のことばっかりで、最終的には出たとこ勝負でなんとか生きてきたっていうのに、上下えらい違いだ。
 プランBどころかプランAすらないのが俺だから……。

「トールさんとエリカさん、そして中野さんを除いた現在の住人には速やかに退去していただきますわ。緊急の耐震補強の必要があるという建前で」

「筋書きまでバッチリ考えられてる……国家権力マジしゅごい……」

 国家権力に楯突くことだけは絶対にやめようと、俺は今、心に誓いました。
(でも昼間の公演でお弁当を食べてだけで職質するのはやめて欲しいな……)

「そして警視庁から精鋭のセキュリティポリスを選抜して24時間体制で警備するとともに、耐震補強工事を隠れ蓑に、簡単には侵入できないようアパート全体を要塞化します。セコムもつけます」

「あ、セコムもつけるんだ」

 アパート丸ごと買い取って要塞化とかいう想像を絶する話から、最後に急に庶民レベルに話が落ちてきた気がする今日この頃。
 セコム、入ってます。

「調べたところ、この辺りは警報から5分以内でセコムが到着できる優良立地ですの。想定している当方の防衛能力を考えればまず必要はありませんが、万が一の時の保険として民間の力も用意しておくのは、悪くない手ですわ」

「な、なるほど」

 ふへぇ。
 そんなことまで調べてるのかぁ。
 さすが国家公務員(以下略

「もちろん相手が英国秘密諜報部MI6や米軍特殊部隊ですと、セコムのような民間警備会社では完全にお手上げですけど」

「俺もさすがにそれがセコムじゃ無理なのは分かる。え? っていうか俺、これからそんなのを相手にしないといけないの?」

「世界でただ一人の異世界召喚者の価値を考えれば、その可能性は決してゼロではありませんわね。既に同盟国のアメリカ政府とは交渉して、首脳レベルで手出しをしないという言質を取っておりますけど」

「うそぉ……」
 俺はMI6とかに狙われてしまう人間になってしまったのか……。
 っていうかアメリカの首脳ってつまり大統領ってことだよね?

「ちなみに最終的には周囲の土地・建物も全て押さえる予定です」

「うえええっ!? そこまでする!?」

「それはもちろん、異世界召喚者とその召喚主ですもの。もしお二人に万が一のことがあって、異世界転移・転生の女神様から日本政府は信ずるに値しないと思われてしまっては困りますわ」

「ミス・ヒナギク。それでしたらこの地域に絶大な影響力を持つ、地元選出議員の草加くさか国土交通大臣がうちのメンバーですので、こちらからも話を通しておきましょう」

 黒づくめのリーダー=エクスシア山田さんがこともなげに言って、

「あら、草加《くさか》大臣がですか? 公安の資料にはそのようなことは記載されておりませんでしたけど」

「本人は秘密にしたがっているのですが、このような時にお役に立てるのでしたら彼も本望でしょう」

「ありがたいお申し出、心より感謝いたしますわ。是非ともお願いいたします」

 ヒナギクさんもこれまた特に気負った様子もなく平然と答えていた。

 俺はというと、英国秘密諜報部MI6やら米軍特殊部隊やら国土交通大臣といった超上級ワードにただただ圧倒されてしまっていた。

 なんていうか、ハローワークの受付のおっちゃんに、

『あなたのお気持ちはよく分かります。実は僕も急に会社をリストラされて、ここは派遣でやってるんですよ……』

 と告白されて、慰め合うように悲しく笑い合うしかなかった俺には、あまりに縁のない世界過ぎた。
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