朝5時に、ピンポン鳴ったら、妻できた。 (えっちバージョン)

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫

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第2章 朝5時にピンポン連打する金髪ネコ耳公務員さん

第32話 武蔵丸の悲劇

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「おいおい、それじゃ理由になってないだろ? 俺が聞きたいのは昨日の今日で、なんで国がもうエリカが召喚されたことをばっちり把握してるのかって事だ」

 さすがに情報が速すぎる。
 いやもう速いってレベルですらないだろ。
 事前に連絡でも行っていない限りありえない。

 事ここに至ってはもしかして俺の部屋が監視されてたりとか、そんな普通ではあり得ない可能性まで考えないといけないレベルだった。

 しかも目的はエリカ、異世界からの訪問者ときた。
 となれば最悪拘束されて人体実験、なんてこともあることもあるかもしれない。

 恐ろしい推測だが、決して無いわけじゃないだろう。

 そしてまだ会ったばかりとはいえ、異世界召喚されただけの普通の女の子――異世界召喚された時点で普通じゃないんだろうけど――とにかく、この世界に来たばかりのエリカをそんな目に合わせるわけにはいかない。

 30代で突然無職になって右往左往する惨めな俺だってそれくらいは分かるんだ。
 だったら俺のやるべきことは決まってるよな!

「法務省だかなんだか知らないけど、エリカを連れていくってんならここは通さねーぞ!」

 覚悟を決めた俺はキリッとそう強く宣言すると、再び睨みつけるようにヒナギクさんを見据えた――!

「うーん、やはり勘違いをされているようですね。わたくしは法務省外局・難民審査庁・難民審査局・異世界召喚課・特命担当官です」

「さっきも聞いたよ。でもそれがどうしたってんだ?」

「つまりわたくしは異世界召喚が起こった時に、その召喚された方をサポートするお仕事をしているんですのよ」

 …………え?
 今なんて?

「え、異世界召喚された人のサポートをするお仕事……?」

「はい、そうですわ」

「日本政府の指示を受けて、異世界から来たエリカを拉致しようとしてるんじゃなくて?」

「拉致はれっきとした犯罪ですわ。こう見えてわたくしは法律を扱う法務省の人間です。カードキャプターさくらの最終回を録画したら何故か武蔵丸が映っていてムシャクシャしたとしても、犯罪だけは致しません」

 ヒナギクさんは、男が見たら100人が100人全員胸キュンするような素敵な笑顔で言った。

 なんとなくだけど、どうも嘘は言っていないようだ。

「っていうか通称『武蔵丸の悲劇』を知っているとか、あんたもエリカに負けず劣らず日本文化について詳しいね?」

 そもそも金髪碧眼の外見からは想像もつかない程に日本語が堪能だし。
 まあそれは今はいいや。

「もちろんしっかりと勉強しておりますので」

 俺のツッコミに対して、優雅にほほ笑んで返すヒナギクさん。
 実に絵になっている。
 こんな状況じゃなかったら一目惚れすること間違いなしだ。

 もちろん熟練かつ狡猾な詐欺師は人間心理のスペシャリストであり、素人がその嘘を見抜くのはほぼ不可能と言われている。

 でも法務省のなんとかっていう漢字ばっかりのいかにもな部署だったり。
 昨日の今日でもう異世界召喚のことを知っているということを加味すれば。

 とりあえず信じてみる価値はあるじゃないかという気にはなっている俺だった。

 しかしそれは同時にもう一つの疑問を生じさせる。

「じゃあどうやって異世界召喚されたってことを知ったんだよ?」

 そうだ。

 昨日起こったばかりのことを、完全に知り得た上でこんなに早くコンタクトを取ってくるなんて、さすがに手際が良すぎるからな。

 どんな裏があるのやら、分かったもんじゃない。
 さて、これにどう答えるか。

 「禁則事項です♪」とテンプレ返答をするのか。
 それとも腹を割ってその秘密を俺に話してくれるのか。

 悪いがどんな態度を取るかで最終判断をさせてもらうぞ。
 本心を明かせないというのなら悪いがここで帰ってもらう。

 仮に本心じゃなくても、少なくとも俺が納得のできる回答を得られなければ、信頼関係なんてものは成り立たないからな。

 さあ、どう出る?
 俺を納得させてみせろ――!

 アニメによくいる「お前の実力を見極めさせてもらうぞ!」系ライバルキャラのごとく、内心そんなことを考えていた俺にヒナギクさんは──、

「知った理由はもちろん連絡があったからですわ」
 特に気負った様子もなくさらっと答えた。

「連絡って……誰からだよ?」
「当然エリカさんご本人からですわよ?」

「…………はい?」

 返ってきた余りに想定外すぎる回答に、俺はぽかーんと口を開けて固まってしまった。

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