朝5時に、ピンポン鳴ったら、妻できた。 (えっちバージョン)

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫

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第1章 朝5時にピンポン連打する異世界押しかけ妻

第16話 異世界転移比例の原則

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「では次に、わたしたちがこの地球世界へと行う『逆行異世界転移』に関して、もう少しだけ突っこんだ説明をしておこうかなと思うんですけど」

 ものの数分、お茶を飲んでゆっくりしただけですっかり元気を取り戻したエリカが言った。

「えっと、できれば文系でも分かりやすく頼むな?」

「では結論から先に申しますと、この世界へのわたしの転移は、世界間のパワーバランスを安定させるためのある種の儀式なんです」

「世界間のパワーバランス? なんだそりゃ?」

「この地球世界というところは、やたらと異世界に転生・転移する人が多いんですよ」

「えーと、そういうのは漫画や小説の中の話じゃないのか?」

「実際に多いからこそ、それに比例してそういった書物や文献も多くなるんです。これを『異世界転移比例の原則』と言います。まぁ異世界転移学の初歩の初歩ですね」

「はぁ、そんなのがあるんだな」
 さすがエリカは異世界転移・転生の専門学校で学んでいるだけはあるなぁ。

 ぶっちゃけ専門家って肩書を持った人にそれらしい専門用語を使って説明されると、一般庶民はそれだけで強烈な説得力を感じちゃうよね。
 説明される前から既に、専門家の持つ「なんか凄そうな雰囲気」に飲まれちゃうっていうか。

「そしてこの世界から異世界への流出が圧倒的に多いことにより、この世界は本来あるべきはずのエネルギー総量を大いに減らしてしまい、他の世界と比べて非常にアンバランスな状態になっているんです」

「なるほどな、なんとなく言いたいことは分かったよ。この世界からだけどんどん人が流出するから、本来釣り合っていたはずの世界間の天秤が傾いちゃってるわけだ」

「はい、そういうことです。そして最近では異世界への流出があまりに多すぎて、世界の仕組みに大きな負荷がかかるようにまでなってしまったんです」

「そうだよな、この世界からだけどんどん出て行ったらそうなっちゃうよな」

「そしてその負荷は全ての世界の中心たる基幹世界『ディ・マリア』がまとめて全部負担しており、巫女であるわたしのような高い世界エネルギーを持った人間をこの地球世界に逆に異世界転移させることで、世界間のバランスを回復し負荷を軽減する――それがわたしの役割だったんです」

「だからこの世界に来た時点で、エリカの役目は終わってたわけなのか。世界間のバランスが回復したから」

「はい。そしてそれと同時に、わたしを召喚した時点でトールも世界を救った勇者様になったわけです」

「そういうことだったのか、納得した」
「ご納得いただけたようでなによりです」

「納得はしたけど、でもそれなら他にもエリカみたいな巫女がこの世界にやってきているのか? 出て行ったのと同じ人数を引っ張ってこないと、世界の間のバランスは戻らないよな?」

「10年ほど前に1人いたそうですが、直近10年ではわたしだけですね」

「じゃあまだ世界間のバランスは完全には戻ってないってことなんだな?」

「いいえ、巫女として極めて特別な修練を積んだエリートであるわたしの世界パワーは、一般転移・転生者12000人分くらいあるので、わたし1人が来ただけでかなりのエネルギーをこの世界に戻せるんです」

「なるほどね、それが修行をした巫女の力ってわけだ」

「そういうことになります。さすがトールはこの世界の人間ですね、異世界への理解が異様に早くて助かります」

 エリカがにっこり笑顔で満足そうにうなずいた。
 けれどそんな風に笑顔を見せるエリカを見ながら、俺は少しだけ気がかりを感じていた。

「ところでさ」
「なんでしょう?」

「そんな風に世界の都合って理由で単身、異世界に行かなきゃいけなかったエリカは辛くなかったのか?」

 ここまで話を聞いた俺はまず何よりも、家族や友人と別れてたった1人で異世界に放り出されたエリカが寂しくないか、悲しくないのか。
 そのことが気になっていた。

 つい先日、勤め先が倒産したと告げられ、それまでの人間関係や積み上げてきた人生がいきなり喪失して無職になった時の、『ヤバイ、これから一体どうしたらいいんだろう?』ってものすごく不安になった気持ちを思い出してしまったからだ。

 だから同じようにそれまでの繋がりを絶たれて1人でやってきたエリカは、無職になったとはいえ実家や両親と繋がっていられる俺と比べてはるかに悲しいはずだと思ったんだけど――、

「どうしてわたしが辛いんでしょうか? 女神様に選ばれて、この栄えある大役を授かったというのに」

 エリカはキョトンとした顔を俺へと向けてくるのだ。
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