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最終章

第60話 御前裁判(1)

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「それで誰をどのような罪で御前裁判にかけようというのですかな、ジェフリー王太子殿下。まずはそこを明らかにしていただきましょう」

「被告人はあなたですよリフシュタイン侯爵。あなたには国家簒奪の嫌疑がある」

「国家簒奪とはまた随分な言いようですな。しかしながら私にはまったくもって身に覚えがございませぬ。なにか大きな勘違いをしておられるのではありませんかな?」

「いいや勘違いなどではないさ」

「ではそう仰る根拠をお聞きしましょう。なにぶん私には思い当たる節はございませんので」

 始まって早々、舌鋒鋭く追及するジェフリー王太子と、泰然自若で知らぬ存ぜずと受け流すリフシュタイン侯爵。
 しかし柔和な言葉とは裏腹に、リフシュタイン侯爵の目は鋭い眼光を帯びていた。
 2人の視線がローエングリン国王の御前で激しくぶつかり合う。

「では根拠の1つとして証人を呼ばせてもらいたい。問題はないな?」

「証人ですとな? それはもちろん構いませんが、いったい誰なのですかな?」

「あなたもよく知る人物さ──ミリーナ、入って」
「はい」

 その言葉で、既に入り口付近で待機していたミリーナが王の間へと入室した。

「な、ミリーナ様ではないか……!」
「ミリーナ様はこの3年間所在不明だったのでは?」
「いったい今までどこにおられたのか」
「それよりもミリーナ様がどうしてこの場におられるのだ?」

 突然の事態にざわめく貴族たちを尻目に、ジェフリー王太子は寄り添うように隣へとやってきたミリーナに問うた。

「3年前、俺がハンナブル王国に同盟交渉で出向いて、この国を留守にしていた時のことを尋ねたい」
「どうぞなんなりとお聞きくださいませ」

「リフシュタイン侯爵は俺の居ぬ間に、ミリーナの家柄が劣ることで俺に迷惑がかかると虚言を弄し、ミリーナを騙して辺境の地にかくまった。そうだね、ミリーナ?」

「はい、全てジェフリー王太子殿下の言ったとおりにございます」

「な、なんと!」
「リフシュタイン侯爵はそのようなことを言っていたのか!」
「ミリーナ様が失踪なされたのはそれが原因なのか!」

 再びざわめき始める貴族たち。
 しかしジェフリー王太子は両手を上下させて静かに、というジェスチャーをすると、リフシュタイン侯爵に向かって鋭く告げた。

「当時ミリーナは王太子妃の最有力候補だった。それを騙して失踪させたのだ。これは紛れもない国家への反逆ではないかなリフシュタイン侯爵?」

(ふん、何を言ってくるかと思えばそのことか。それに対する言い訳なんぞは3年前もからとうに用意しておるわ。辺境の地に匿っていたはずのミリーナがこの場に出てきたことには驚いたが、それがどうした。あまりこのワシを舐めるでないぞ)

「いいえ、あれは国を思ってのことにございます」

「なんだと?」

「事実そのおかげで我が方の同盟はおおいに強化され、グランデ帝国とも向こう10年の平和条約を結ぶことができたではありませんか。この結果こそが、私の正しさをこれ以上なく証明しているのではありませんかな?」

 図星を指されても顔色一つ変えずに、平然とした態度で言葉を返すリフシュタイン侯爵。

「あくまでシラを切るつもりかい?」

「シラを切るもなにも、私はただただこの国のためを思ってやったのですから。平和な世が続いたことが国家への反逆というのでしたら、それは仕方ありません。そのそしりは甘んじて受け入れましょう」

「この国のためを思って、ね」

「左様にございます」

「将来この国を手に入れることを思って、の間違いじゃないのかな?」

「申し訳ありませんが、ジェフリー王太子殿下が一体全体何を仰りたいのか、いまいち意味が分かりかねますな」

「あくまで分からないと言い張るか。ならば分かるようにはっきりと言ってやろう」

 ジェフリー王太子はそこでいったん言葉を切ると、宣戦布告するように高らかに宣言した。

「リフシュタイン侯爵、あなたは自分の娘アンナローゼに俺の子を産ませた後に俺を暗殺し、その子供を王に据えようとした。そして幼い王を外戚として裏から操ろうとした――全てはそのための陰謀だったのではないのかと問うているのだ!」

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