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最終章
第57話 『約束』
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「そ、そんなこと……ありえませんわ! ジェフリー王太子殿下がジェンだなんて、そんなの嘘に決まっております!」
「嘘なものか。俺は君に嘘を言ったりはしないよ。あの日、王宮を抜け出して右も左も分からぬ俺がいじめっ子たちに囲まれていたのを、君は助けてくれたよな。そして街を案内して、焼き鳥の食べ方を教えてくれんだ」
ジェフリー王太子が昔を懐かしむように楽しそうに言った。
「ぁ……どうして、知って……だってあれはジェンで……だって、だって……」
「大バザールを一緒に視察した時に、焼き鳥を食べたことを覚えているか? あの時それとなく昔の話を振ってみたんだが、残念ながら君は気付いてくれなかった。俺はあの時それはもう落胆したんだぞ?」
優しい笑顔で2人の思い出を語るジェフリー王太子。
その笑顔を見たミリーナの中で、思い出のジェンの笑顔とジェフリー王太子の笑顔が驚くほどピタリと一致した。
そして一度1つになった2つの笑顔は、もう2度と分かたれることはないのだった。
(私の心の一番奥の大事な部分が、ジェフリーが思い出のジェンだって言っている……。本当にそうなのね。ジェフリーはジェンだったのね)
「し……」
「ん?」
「信じませんわ! そんな言葉を私は信じたりしませんもの! 騙されませんもの! そのようなことをいったい誰から聞いたのですか! お父さまですか! 焼鳥屋の主人ですか! 当時の私の友人からですか!」
しかしミリーナはこう言ったのだ。
喜びに満たされゆく己が心を無理やり押さえつけて、強い口調で否定することで自分自身を叱咤激励する。
(何があっても私は絶対に認めちゃいけないの。あの日のことを、身を引くと決めた日の覚悟を思い出すのよミリーナ=エクリシア!)
「まだそんなことを言うのか。いい加減自分の心に素直になるんだ。ミリーナ、俺はあの時の約束だってまだ覚えているんだぞ?」
「約束って――ぁ……」
ジェフリー王太子が出した右手を見て、ミリーナはついに目を見開いて固まってしまった。
ジェフリー王太子の差し出した手は、小指だけが立てられていたのだ。
それが意味することはただ一つ。
「あの時、俺たちは夕暮れに染まった街で指切りをして、そしてまた会おうと約束をしたんだ。世の中のことを何も知らなかった俺は、君の言葉の後に続いて儀式の言葉を言った。ゆーびきりげんまん、ってね」
優しい笑顔とともに投げかけられたその言葉に、ついにミリーナの心の堤防は決壊した。
溢れ出したジェフリー王太子への想いが、ミリーナの両の目から涙となって零れ落ち頬を濡らす。
「そ、そんな……ジェフリー王太子殿下があの時のジェンだったなんて……そんなことって……そんな……そんな……」
事ここに至って、ミリーナはついにジェフリー王太子こそが思い出のジェンであると認めた。認めざるを得なかった。
「どうやらやっと信じてもらえたようだな。そしてその子がジェンではなく俺の子だと言うことも、同時に証明されたと言うわけだ。いや待て、ジェンは俺なのだから、ジェンの子であるという君の言い分も、ある意味間違いではないのかな?」
「ぁ……ぅぁ……」
「もはや言い訳は不要だ。俺の元に戻ってこいミリーナ。俺には君が必要なんだ。君なしの人生は考えられない」
ジェフリー王太子は真剣な声と表情で、けれどとても優しい目をしながらミリーナに語りかけた。
「嘘なものか。俺は君に嘘を言ったりはしないよ。あの日、王宮を抜け出して右も左も分からぬ俺がいじめっ子たちに囲まれていたのを、君は助けてくれたよな。そして街を案内して、焼き鳥の食べ方を教えてくれんだ」
ジェフリー王太子が昔を懐かしむように楽しそうに言った。
「ぁ……どうして、知って……だってあれはジェンで……だって、だって……」
「大バザールを一緒に視察した時に、焼き鳥を食べたことを覚えているか? あの時それとなく昔の話を振ってみたんだが、残念ながら君は気付いてくれなかった。俺はあの時それはもう落胆したんだぞ?」
優しい笑顔で2人の思い出を語るジェフリー王太子。
その笑顔を見たミリーナの中で、思い出のジェンの笑顔とジェフリー王太子の笑顔が驚くほどピタリと一致した。
そして一度1つになった2つの笑顔は、もう2度と分かたれることはないのだった。
(私の心の一番奥の大事な部分が、ジェフリーが思い出のジェンだって言っている……。本当にそうなのね。ジェフリーはジェンだったのね)
「し……」
「ん?」
「信じませんわ! そんな言葉を私は信じたりしませんもの! 騙されませんもの! そのようなことをいったい誰から聞いたのですか! お父さまですか! 焼鳥屋の主人ですか! 当時の私の友人からですか!」
しかしミリーナはこう言ったのだ。
喜びに満たされゆく己が心を無理やり押さえつけて、強い口調で否定することで自分自身を叱咤激励する。
(何があっても私は絶対に認めちゃいけないの。あの日のことを、身を引くと決めた日の覚悟を思い出すのよミリーナ=エクリシア!)
「まだそんなことを言うのか。いい加減自分の心に素直になるんだ。ミリーナ、俺はあの時の約束だってまだ覚えているんだぞ?」
「約束って――ぁ……」
ジェフリー王太子が出した右手を見て、ミリーナはついに目を見開いて固まってしまった。
ジェフリー王太子の差し出した手は、小指だけが立てられていたのだ。
それが意味することはただ一つ。
「あの時、俺たちは夕暮れに染まった街で指切りをして、そしてまた会おうと約束をしたんだ。世の中のことを何も知らなかった俺は、君の言葉の後に続いて儀式の言葉を言った。ゆーびきりげんまん、ってね」
優しい笑顔とともに投げかけられたその言葉に、ついにミリーナの心の堤防は決壊した。
溢れ出したジェフリー王太子への想いが、ミリーナの両の目から涙となって零れ落ち頬を濡らす。
「そ、そんな……ジェフリー王太子殿下があの時のジェンだったなんて……そんなことって……そんな……そんな……」
事ここに至って、ミリーナはついにジェフリー王太子こそが思い出のジェンであると認めた。認めざるを得なかった。
「どうやらやっと信じてもらえたようだな。そしてその子がジェンではなく俺の子だと言うことも、同時に証明されたと言うわけだ。いや待て、ジェンは俺なのだから、ジェンの子であるという君の言い分も、ある意味間違いではないのかな?」
「ぁ……ぅぁ……」
「もはや言い訳は不要だ。俺の元に戻ってこいミリーナ。俺には君が必要なんだ。君なしの人生は考えられない」
ジェフリー王太子は真剣な声と表情で、けれどとても優しい目をしながらミリーナに語りかけた。
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