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第四章 リフシュタイン侯爵の陰謀
第50話 リフシュタイン侯爵の陰謀(2)
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「もちろん私どもはミリーナ様のお人柄をよく存じておりますし、ミリーナ様こそが王太子妃に相応しいと皆が皆、思っております。もちろんこの私もです。そこに異論などありはいたしません」
「え、ええ……」
「しかし他国の人間はミリーナ様の素晴らしいお人柄を知らぬがゆえに、下級貴族の娘と軽んじておるのです」
「そしてジェフリー王太子は、そんな私を妻に迎え入れようとしているとして、他国から軽んじられてしまっているのですね?」
「はい、大変口惜しいことながら、そのように見られてしまっているのです」
「そうだったのですね……」
伝えられた内容にミリーナは愕然としていた。
愛するジェフリー王太子の足をミリーナ自身が引っ張っているという事実に、めまいがして倒れてしまいそうだった。
そんなミリーナに、リフシュタイン侯爵は畳みかけるように言葉を並べる。
「我々がいけなかったのです。我々がもっとしっかりとミリーナ様の素晴らしさを他国にも知らしめておきさえすれば、このような事態にはなっておりませんでした。私どもの無能のせいでミリーナ様にこのような深いご心痛を与えてしまい、誠に申し訳ありません。お望みとあらばこのリフシュタイン、今この場にて腹を切ってミリーナ様にお詫びいたしましょう」
「いいえ、あなたがたは本当によくやってくれておりますわ。ですのでそのようなことは決してなされませんように」
「なんとありがたいお言葉でしょうか……!」
リフシュタイン侯爵は涙を浮かべながらミリーナに頭を垂れた。
「それでリフシュタイン侯爵、話の続きをお願いしますわ」
「はい。おそらくこのままでは我が同盟諸国にほころびが生じ、グランデ帝国はそれを好機と見て周辺諸国に――おそらくはハンナブル王国に攻め込んでくることでしょう。なんとしてもそれだけは避けねばなりませぬ」
「それは私も同じ意見ですわ。戦争だけは決して行ってはなりません。戦争が生むのは多くの悲しみだけですから」
「まったくもってミリーナ様のお言葉の通りです」
言葉ではそう言いながらも、もちろんリフシュタイン侯爵はそんなことは微塵も思ってはいない。
戦争になったらなったで国が揺るぎ、そこに更なる権力拡大のチャンスが生まれると考えるのが、このリフシュタイン侯爵という人間だった。
表では国と民と王家を愛してやまない真の忠臣を演じながら。
その本当の性格は、人を人とも思わぬ自己中心的な悪辣な人間――それがリフシュタイン侯爵なのだから。
「それでつまりリフシュタイン侯爵。あなたは私に何をせよとおっしゃりたいのでしょうか? ここまでの話はあくまで前置きですわよね? であれば本題――他人には聞かれたくはないお話とは、つまり何なのでしょうか?」
「ご明察の通りです。不敬を承知で申し上げますが――」
「構いませんわ」
そして万全の準備を整えて、リフシュタイン侯爵は悪魔の一言を放った。
「では申し上げます。ミリーナ様、このローエングリン王国のため、ローエングリン王国に生きる無辜の民のため。なによりジェフリー王太子殿下のために。どうかその身を引いてはいただけませんでしょうか」
「ジェフリー王太子殿下との結婚を辞退せよと仰りたいのですか?」
「僭越ながら、左様にございます」
「――――」
その言葉に、その言葉の持つ意味に。ミリーナは絶句するしかなかった。
「え、ええ……」
「しかし他国の人間はミリーナ様の素晴らしいお人柄を知らぬがゆえに、下級貴族の娘と軽んじておるのです」
「そしてジェフリー王太子は、そんな私を妻に迎え入れようとしているとして、他国から軽んじられてしまっているのですね?」
「はい、大変口惜しいことながら、そのように見られてしまっているのです」
「そうだったのですね……」
伝えられた内容にミリーナは愕然としていた。
愛するジェフリー王太子の足をミリーナ自身が引っ張っているという事実に、めまいがして倒れてしまいそうだった。
そんなミリーナに、リフシュタイン侯爵は畳みかけるように言葉を並べる。
「我々がいけなかったのです。我々がもっとしっかりとミリーナ様の素晴らしさを他国にも知らしめておきさえすれば、このような事態にはなっておりませんでした。私どもの無能のせいでミリーナ様にこのような深いご心痛を与えてしまい、誠に申し訳ありません。お望みとあらばこのリフシュタイン、今この場にて腹を切ってミリーナ様にお詫びいたしましょう」
「いいえ、あなたがたは本当によくやってくれておりますわ。ですのでそのようなことは決してなされませんように」
「なんとありがたいお言葉でしょうか……!」
リフシュタイン侯爵は涙を浮かべながらミリーナに頭を垂れた。
「それでリフシュタイン侯爵、話の続きをお願いしますわ」
「はい。おそらくこのままでは我が同盟諸国にほころびが生じ、グランデ帝国はそれを好機と見て周辺諸国に――おそらくはハンナブル王国に攻め込んでくることでしょう。なんとしてもそれだけは避けねばなりませぬ」
「それは私も同じ意見ですわ。戦争だけは決して行ってはなりません。戦争が生むのは多くの悲しみだけですから」
「まったくもってミリーナ様のお言葉の通りです」
言葉ではそう言いながらも、もちろんリフシュタイン侯爵はそんなことは微塵も思ってはいない。
戦争になったらなったで国が揺るぎ、そこに更なる権力拡大のチャンスが生まれると考えるのが、このリフシュタイン侯爵という人間だった。
表では国と民と王家を愛してやまない真の忠臣を演じながら。
その本当の性格は、人を人とも思わぬ自己中心的な悪辣な人間――それがリフシュタイン侯爵なのだから。
「それでつまりリフシュタイン侯爵。あなたは私に何をせよとおっしゃりたいのでしょうか? ここまでの話はあくまで前置きですわよね? であれば本題――他人には聞かれたくはないお話とは、つまり何なのでしょうか?」
「ご明察の通りです。不敬を承知で申し上げますが――」
「構いませんわ」
そして万全の準備を整えて、リフシュタイン侯爵は悪魔の一言を放った。
「では申し上げます。ミリーナ様、このローエングリン王国のため、ローエングリン王国に生きる無辜の民のため。なによりジェフリー王太子殿下のために。どうかその身を引いてはいただけませんでしょうか」
「ジェフリー王太子殿下との結婚を辞退せよと仰りたいのですか?」
「僭越ながら、左様にございます」
「――――」
その言葉に、その言葉の持つ意味に。ミリーナは絶句するしかなかった。
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