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第四章 リフシュタイン侯爵の陰謀
第36話 大バザール
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爽やかな風が吹く初夏の頃。
ローエングリン王国王都では年に一度の、半月に渡る大バザールが行われていた。
実に1か月近くかけて開催されるこの大バザールは、大陸各地から多種多様な物品とそれを扱う商人たち、さらには大道芸人などが一手に集結するお祭りのような大売出し市である。
今年も開幕から例年以上の熱気と盛り上がりを見せていた。
そのちょうど真ん中、折り返しの日に、
「大丈夫なのですか? いくら国を挙げての大イベントとはいえ、ジェフリー王太子殿下自らバザールに出てきてしまっては危険ではありませんか? ものすごい人出ですわよ?」
「見て回るのは王都の特に治安がいい場所だけだし、通常の警護以外にも見えないところでの護衛もちゃんとつけてもらっている。俺だって剣の腕にはそれなりに自信があるしな。なにも心配はいらないさ」
ミリーナとジェフリー王太子は、連れ立って市中を見物に出かけていたのだった。
周囲には近衛兵を示す真紅の制服を来た衛兵が多数目を光らせており、人込みに紛れながら私服衛兵も怪しい人物がいないかを鋭く警戒をしている。
2人で見回っているためデートのように見えなくはないものの。
そういった警護の兵士の目もあるため、ミリーナは「ジェフリー」とは呼ばずに「ジェフリー王太子殿下」とかしこまって名前を呼んでいた。
「確かにこれだけの警備網をすり抜けるのは極めて難しいですわね」
(それこそ警備の穴を的確に知ってでもいない限り無理な話だわ)
ミリーナは大いに納得したのだが、
「おいおい、ミリーナ。それはないだろう」
ジェフリー王太子が突然、不満そうに言ったのだ。
「はい? なにがでしょうか?」
ミリーナはその意図が掴みきれずに小首を傾げる。
「俺の剣の腕についてスルーするなんて酷いじゃないか」
ジェフリー王太子は腰に差した剣の柄頭を、これ見よがしに叩いてアピールする。
「はいはい、そうですわね。ジェフリー王太子殿下がいらっしゃるおかげで、とても安心できますわ――ってどうされたのですか?」
「なんだか投げやりな言い方だな」
「そのようなことは……ありませんわ」
「なぜそこで一瞬口籠ったのだ? もしかして俺になにか思うところがあるのか? 言いたいことがあるのなら下手に隠そうとせず正直に言ってくれ」
ジェフリー王太子が真剣な表情でミリーナにズイッと迫った。
捨てられた子犬のようなちょっと泣きそうな顔にも見えたので、ミリーナは正直に理由を説明することにした。
「では申しますが」
「うむ、心して聞こう」
「最近のジェフリー王太子殿下は妙に私に甘えたがっておりませんか? 時々子供っぽいところがあるように見受けられますわ」
ミリーナとジェフリー王太子の、信頼で繋がった関係性が故に言えるその正直すぎる直言に、ジェフリー王太子は思い当たることがあるようだった。
ハッとした顔になるとすぐに謝罪の言葉を口にする。
「許してくれミリーナ。君の前でだけは、俺はローエングリン王国王太子ジェフリー=アインス=フォン=ローエングリンではなく、ジェフリーというただの一人の男としていられるのだ。しかしそれを理由に君に弱さや甘えを見せてしまったことは心から詫びよう」
「あ、いえ。甘えられるのは決して嫌ではないのです。むしろ嬉しいくらいでして」
「そうなのか? 男らしくないと呆れられると思ったのだが」
ミリーナのその言葉に、ジェフリー王太子は意外そうに目を見開いた。
ローエングリン王国王都では年に一度の、半月に渡る大バザールが行われていた。
実に1か月近くかけて開催されるこの大バザールは、大陸各地から多種多様な物品とそれを扱う商人たち、さらには大道芸人などが一手に集結するお祭りのような大売出し市である。
今年も開幕から例年以上の熱気と盛り上がりを見せていた。
そのちょうど真ん中、折り返しの日に、
「大丈夫なのですか? いくら国を挙げての大イベントとはいえ、ジェフリー王太子殿下自らバザールに出てきてしまっては危険ではありませんか? ものすごい人出ですわよ?」
「見て回るのは王都の特に治安がいい場所だけだし、通常の警護以外にも見えないところでの護衛もちゃんとつけてもらっている。俺だって剣の腕にはそれなりに自信があるしな。なにも心配はいらないさ」
ミリーナとジェフリー王太子は、連れ立って市中を見物に出かけていたのだった。
周囲には近衛兵を示す真紅の制服を来た衛兵が多数目を光らせており、人込みに紛れながら私服衛兵も怪しい人物がいないかを鋭く警戒をしている。
2人で見回っているためデートのように見えなくはないものの。
そういった警護の兵士の目もあるため、ミリーナは「ジェフリー」とは呼ばずに「ジェフリー王太子殿下」とかしこまって名前を呼んでいた。
「確かにこれだけの警備網をすり抜けるのは極めて難しいですわね」
(それこそ警備の穴を的確に知ってでもいない限り無理な話だわ)
ミリーナは大いに納得したのだが、
「おいおい、ミリーナ。それはないだろう」
ジェフリー王太子が突然、不満そうに言ったのだ。
「はい? なにがでしょうか?」
ミリーナはその意図が掴みきれずに小首を傾げる。
「俺の剣の腕についてスルーするなんて酷いじゃないか」
ジェフリー王太子は腰に差した剣の柄頭を、これ見よがしに叩いてアピールする。
「はいはい、そうですわね。ジェフリー王太子殿下がいらっしゃるおかげで、とても安心できますわ――ってどうされたのですか?」
「なんだか投げやりな言い方だな」
「そのようなことは……ありませんわ」
「なぜそこで一瞬口籠ったのだ? もしかして俺になにか思うところがあるのか? 言いたいことがあるのなら下手に隠そうとせず正直に言ってくれ」
ジェフリー王太子が真剣な表情でミリーナにズイッと迫った。
捨てられた子犬のようなちょっと泣きそうな顔にも見えたので、ミリーナは正直に理由を説明することにした。
「では申しますが」
「うむ、心して聞こう」
「最近のジェフリー王太子殿下は妙に私に甘えたがっておりませんか? 時々子供っぽいところがあるように見受けられますわ」
ミリーナとジェフリー王太子の、信頼で繋がった関係性が故に言えるその正直すぎる直言に、ジェフリー王太子は思い当たることがあるようだった。
ハッとした顔になるとすぐに謝罪の言葉を口にする。
「許してくれミリーナ。君の前でだけは、俺はローエングリン王国王太子ジェフリー=アインス=フォン=ローエングリンではなく、ジェフリーというただの一人の男としていられるのだ。しかしそれを理由に君に弱さや甘えを見せてしまったことは心から詫びよう」
「あ、いえ。甘えられるのは決して嫌ではないのです。むしろ嬉しいくらいでして」
「そうなのか? 男らしくないと呆れられると思ったのだが」
ミリーナのその言葉に、ジェフリー王太子は意外そうに目を見開いた。
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