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第二章 王宮女官ミリーナ
第20話 酷い裏切り
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「今日の午後は急に外せない用事が入ってね。せっかくのオフだというのに君といることができないんだ」
ジェフリー王太子の私室で、ミリーナはジェフリー王太子から申し訳なさそうに伝えられた。
「いいえ、私の方はどうぞお気遣いなく。むしろジェフリー王太子殿下のほうが、せっかくのお休みが潰れてしまって大変でしょう」
「たしかに君と一緒にいられなくて、俺はまるで千尋の谷の底に突き落とされた気分だよ」
ジェフリー王太子はそう言うとミリーナを強く抱きしめ、情熱的な口づけをする。
「ん……ぁ……んん……もう、強引なんですから」
口ではそう言うものの、まるでジェフリー王太子の愛がそのまま自分の中に流れ込んでくるように感じてしまい、ミリーナの口からは切ない吐息が漏れ出でてしまった。
「今日堪能するはずだった君との時間を、まとめて前借りしないといけないからね。それに離れている間に君が俺のことを忘れてしまっては困る」
「もう、またそんなことを仰って……ん……ぁ……」
「言っただろう、俺は君が見ている誰かのことを考えると嫉妬で気が狂いそうになるのだと。離れている間も俺のことを忘れないように、君の唇に俺の存在を刻みつけておかないと気が気じゃないんだ」
実際のところ、毎日のようにジェフリー王太子に熱烈に愛を注がれ、その王族としての誇り高き姿を見せられているミリーナとしては、すっかりジェフリー王太子に好意を抱いてしまっているのだが。
ジェフリー王太子としてはミリーナの意識にわずかにでも残っている男の存在――実は幼い頃の自分なのだが――に否応なく嫉妬してしまうのだった。
二人の濃密な口づけは10分ほど続き、今日もミリーナはすっかり身も心も蕩けさせられてしまったのだった。
とまぁそういうことがあってから。
ミリーナは急に空いた時間を利用して、王宮の庭園にある「大温室」へとやってきた。
ここは王族と侯爵以上の貴族、あとは上級女官のごくごく一部だけしか入れない特別な場所で、たとえ真冬であっても花を愛でることができる特別な場所だ。
外交接待などでも使われることがあるらしい。
広さはかなりのもので、そこそこの貴族の庭付きのお屋敷であってもすっぽりと収まってしまうほどだ。
もちろんミリーナの実家のエクリシア男爵家程度であればいくつも入ってしまう。
王太子付きという最上級女官になったミリーナはここに入る権利を得たので、せっかくだからと足を運んでみたのだった。
「綺麗……」
様々に咲き誇る花々を見てミリーナは幸せな気分になる。
ミリーナがうっとりとしながらいろんな花を愛でていると、
「――――」
「あら、女の人の声? 他にも誰かいるのかしら?」
大温室の奥の方から声が聞こえてくることに気が付いた。
「気付いた以上は挨拶しておかないといけないわよね。それにここのことを色々と教えてもらえるかもしれないし」
大温室はかなりの広さのため、パッと全部を見ては回れないのだ。
ミリーナは声の聞こえてきた方へと向かった。
美しく咲く真紅の薔薇の陰から顔を出そうとして――しかしそこにいる男女の姿を見たミリーナは思わず身を隠してしまった。
というのも。
そこにいたのはなんと、
「ジェフリー王太子殿下とリフシュタイン侯爵家令嬢アンナローゼ様……?」
だったからだ。
しかも2人は愛を確かめ合うように抱き合っていて――。
「嘘……。ジェフリー王太子殿下がアンナローゼ様と……。急な用事と言っておられたのに……」
ほとんど人が来ない大温室という隠れ家で、他人の目を忍んで真の想い人と逢瀬を重ねるジェフリー王太子。
「私への愛の言葉も全部嘘だったのね……。私のことを弄んで、裏では2人で笑っていたのね……。なんて酷い裏切りなのかしら……」
その姿をこれ以上見てはいられず。
ミリーナは居ても立っても居られなくなって、逃げるように大温室を後にした。
冷たい杭を打ち付けられたかのように鋭く痛む胸を抑え、こみ上げる涙を必死に堪えながら――。
ジェフリー王太子の私室で、ミリーナはジェフリー王太子から申し訳なさそうに伝えられた。
「いいえ、私の方はどうぞお気遣いなく。むしろジェフリー王太子殿下のほうが、せっかくのお休みが潰れてしまって大変でしょう」
「たしかに君と一緒にいられなくて、俺はまるで千尋の谷の底に突き落とされた気分だよ」
ジェフリー王太子はそう言うとミリーナを強く抱きしめ、情熱的な口づけをする。
「ん……ぁ……んん……もう、強引なんですから」
口ではそう言うものの、まるでジェフリー王太子の愛がそのまま自分の中に流れ込んでくるように感じてしまい、ミリーナの口からは切ない吐息が漏れ出でてしまった。
「今日堪能するはずだった君との時間を、まとめて前借りしないといけないからね。それに離れている間に君が俺のことを忘れてしまっては困る」
「もう、またそんなことを仰って……ん……ぁ……」
「言っただろう、俺は君が見ている誰かのことを考えると嫉妬で気が狂いそうになるのだと。離れている間も俺のことを忘れないように、君の唇に俺の存在を刻みつけておかないと気が気じゃないんだ」
実際のところ、毎日のようにジェフリー王太子に熱烈に愛を注がれ、その王族としての誇り高き姿を見せられているミリーナとしては、すっかりジェフリー王太子に好意を抱いてしまっているのだが。
ジェフリー王太子としてはミリーナの意識にわずかにでも残っている男の存在――実は幼い頃の自分なのだが――に否応なく嫉妬してしまうのだった。
二人の濃密な口づけは10分ほど続き、今日もミリーナはすっかり身も心も蕩けさせられてしまったのだった。
とまぁそういうことがあってから。
ミリーナは急に空いた時間を利用して、王宮の庭園にある「大温室」へとやってきた。
ここは王族と侯爵以上の貴族、あとは上級女官のごくごく一部だけしか入れない特別な場所で、たとえ真冬であっても花を愛でることができる特別な場所だ。
外交接待などでも使われることがあるらしい。
広さはかなりのもので、そこそこの貴族の庭付きのお屋敷であってもすっぽりと収まってしまうほどだ。
もちろんミリーナの実家のエクリシア男爵家程度であればいくつも入ってしまう。
王太子付きという最上級女官になったミリーナはここに入る権利を得たので、せっかくだからと足を運んでみたのだった。
「綺麗……」
様々に咲き誇る花々を見てミリーナは幸せな気分になる。
ミリーナがうっとりとしながらいろんな花を愛でていると、
「――――」
「あら、女の人の声? 他にも誰かいるのかしら?」
大温室の奥の方から声が聞こえてくることに気が付いた。
「気付いた以上は挨拶しておかないといけないわよね。それにここのことを色々と教えてもらえるかもしれないし」
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ミリーナは声の聞こえてきた方へと向かった。
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というのも。
そこにいたのはなんと、
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「嘘……。ジェフリー王太子殿下がアンナローゼ様と……。急な用事と言っておられたのに……」
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「私への愛の言葉も全部嘘だったのね……。私のことを弄んで、裏では2人で笑っていたのね……。なんて酷い裏切りなのかしら……」
その姿をこれ以上見てはいられず。
ミリーナは居ても立っても居られなくなって、逃げるように大温室を後にした。
冷たい杭を打ち付けられたかのように鋭く痛む胸を抑え、こみ上げる涙を必死に堪えながら――。
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