15 / 67
第二章 王宮女官ミリーナ
第14話 外交使節団(1)
しおりを挟む
ジェフリー王太子によるパッショネイトな口づけによって、強引に距離が縮められてから。
2人は隣国であるハンナブル王国からやってきた外交使節団の歓迎セレモニーに参加していた。
「あの、ジェフリー王太子殿下、一つよろしいでしょうか?」
「なんだいミリーナ?」
「今日の朝いきなりジェフリー王太子付き女官を拝命したといいますのに、その最初の仕事がジェフリー王太子殿下の随伴として外交使節団をお出迎え──いわゆる外交デビューというのはさすがに心の準備が整いませんわ!」
ミリーナはジェフリー王太子にだけに聞こえるように小声で、けれど若干キレ気味に抗議した。
さすがにこれはないだろう、と心は半泣きで訴える。
「ははっ、なんだそんなことか。気負う必要はないさ、普通に挨拶をすればいい」
しかしジェフリー王太子は軽く微笑みながら、さらっとそんな言葉を返してくるのだ。
「この状況で気負わずにいられる人間がどこいましょうか!」
「ハンナブル王国は我がローエングリン王国の最も親密な友好国だし、今日の外交団使節団代表は俺も個人的に友誼を深めている気のおけない相手だ。緊張する必要は猫の額ほどもありはしないさ。おっ、どうやら外交使節団を乗せた馬車が見えてきたようだな」
ジェフリー王太子が居住まいを正したのを見て、事ここに至ってはもう引くにも引けないとミリーナは覚悟を決めた。
よもやよもよや、王太子付き女官になって最初の仕事が最友好国との大事な外交デビューになってしまったミリーナである。
今朝起きた時はこんなことになるなんて思ってもみなかったし、正直泣いて逃げ出したかったのだが、ミリーナも誇り高きローエングリン王国貴族の子女である。
覚悟を決めた以上は弱音などもってのほか、その目は既に貫き通す意志の強さを秘めていた。
もちろん王太子付きの特別な地位とはいえ、ミリーナは立場上は女官に過ぎないので、ジェフリー王太子より一歩下がった位置で背筋を伸ばした美しい姿勢で静かに立って待つ。
そんなミリーナの前で、
「ジェフリー殿下、久しぶりだな! 元気そうで何よりだ!」
馬車から降りた30過ぎの精悍な男が、子供のように目を輝かせながら右手を差し出し、
「タイナス王子、こちらこそ元気そうでなによりだ。遠路はるばるよく来てくれた、ローエングリン王国を代表して歓迎するよ」
ジェフリー王太子もその手を力強く握り返した。
(ハンナブル王国のタイナス王子! 10年前のハンナブル王国との大戦で大活躍した、一騎打ちでは当世で敵う者なし、軍を率いては百戦して危うからずと謳われるハンナブル王国の大英雄だわ――!)
10歳以上も年の離れている2人がガシっと固い握手を交わし、親しげに言葉を交わす姿を見て、ミリーナは改めてジェフリー王太子が他国にも名を知られている一角の人物なのだと納得した。
しかもジェフリー王太子ときたら普段の嘘っぽい笑顔とは違って、子供のように目を輝かせているのだ。
それだけこのタイナス王子を信頼しているということが、ミリーナには見て取れたのだった。
(それにこの笑顔、ジェンが笑った時の目にとても似ている気がするわ。もしもジェフリー王太子殿下がジェンだったらとても素敵な運命の出会いでしたのに――ってなにを2人の男性を偉そうに比較した上に、2人が同一人物だったらとか思ってしまっているのよ私は! いったい何様のつもりなのよ、失礼極まりないでしょう!)
ミリーナは心の中でシャキッとなさいと自分に発破をかけると、2人が旧交を温めている間に、ハンナブル王国の外交使節団を失礼がない程度にそれとなく見渡してみた。
(タイナス王子と同じ馬車から出てきた、晴れた夏空のような鮮やかな青色のドレスを抜群のスタイルで着こなしている女性は、タイナス王子の妻でしょうね。それにしても綺麗な人。思わず見とれてしまうわ……)
惚れ惚れするほどに美しい銀髪がさらりと風に揺れる様子は、まるで神話に出てくる女神のようであり、ミリーナは思わず息を飲んで見惚れてしまう。
同時に、そこまで容姿が優れていない自分がジェフリー王太子のすぐ傍にいることに、少なからず気後れを感じてしまっていた。
――と、
「それでジェフリー殿下、これ見よがしに連れているそちらの可愛いらしい女官について尋ねてもいいかな?」
タイナス王子が興味深そうにミリーナを見つめながら言った。
2人は隣国であるハンナブル王国からやってきた外交使節団の歓迎セレモニーに参加していた。
「あの、ジェフリー王太子殿下、一つよろしいでしょうか?」
「なんだいミリーナ?」
「今日の朝いきなりジェフリー王太子付き女官を拝命したといいますのに、その最初の仕事がジェフリー王太子殿下の随伴として外交使節団をお出迎え──いわゆる外交デビューというのはさすがに心の準備が整いませんわ!」
ミリーナはジェフリー王太子にだけに聞こえるように小声で、けれど若干キレ気味に抗議した。
さすがにこれはないだろう、と心は半泣きで訴える。
「ははっ、なんだそんなことか。気負う必要はないさ、普通に挨拶をすればいい」
しかしジェフリー王太子は軽く微笑みながら、さらっとそんな言葉を返してくるのだ。
「この状況で気負わずにいられる人間がどこいましょうか!」
「ハンナブル王国は我がローエングリン王国の最も親密な友好国だし、今日の外交団使節団代表は俺も個人的に友誼を深めている気のおけない相手だ。緊張する必要は猫の額ほどもありはしないさ。おっ、どうやら外交使節団を乗せた馬車が見えてきたようだな」
ジェフリー王太子が居住まいを正したのを見て、事ここに至ってはもう引くにも引けないとミリーナは覚悟を決めた。
よもやよもよや、王太子付き女官になって最初の仕事が最友好国との大事な外交デビューになってしまったミリーナである。
今朝起きた時はこんなことになるなんて思ってもみなかったし、正直泣いて逃げ出したかったのだが、ミリーナも誇り高きローエングリン王国貴族の子女である。
覚悟を決めた以上は弱音などもってのほか、その目は既に貫き通す意志の強さを秘めていた。
もちろん王太子付きの特別な地位とはいえ、ミリーナは立場上は女官に過ぎないので、ジェフリー王太子より一歩下がった位置で背筋を伸ばした美しい姿勢で静かに立って待つ。
そんなミリーナの前で、
「ジェフリー殿下、久しぶりだな! 元気そうで何よりだ!」
馬車から降りた30過ぎの精悍な男が、子供のように目を輝かせながら右手を差し出し、
「タイナス王子、こちらこそ元気そうでなによりだ。遠路はるばるよく来てくれた、ローエングリン王国を代表して歓迎するよ」
ジェフリー王太子もその手を力強く握り返した。
(ハンナブル王国のタイナス王子! 10年前のハンナブル王国との大戦で大活躍した、一騎打ちでは当世で敵う者なし、軍を率いては百戦して危うからずと謳われるハンナブル王国の大英雄だわ――!)
10歳以上も年の離れている2人がガシっと固い握手を交わし、親しげに言葉を交わす姿を見て、ミリーナは改めてジェフリー王太子が他国にも名を知られている一角の人物なのだと納得した。
しかもジェフリー王太子ときたら普段の嘘っぽい笑顔とは違って、子供のように目を輝かせているのだ。
それだけこのタイナス王子を信頼しているということが、ミリーナには見て取れたのだった。
(それにこの笑顔、ジェンが笑った時の目にとても似ている気がするわ。もしもジェフリー王太子殿下がジェンだったらとても素敵な運命の出会いでしたのに――ってなにを2人の男性を偉そうに比較した上に、2人が同一人物だったらとか思ってしまっているのよ私は! いったい何様のつもりなのよ、失礼極まりないでしょう!)
ミリーナは心の中でシャキッとなさいと自分に発破をかけると、2人が旧交を温めている間に、ハンナブル王国の外交使節団を失礼がない程度にそれとなく見渡してみた。
(タイナス王子と同じ馬車から出てきた、晴れた夏空のような鮮やかな青色のドレスを抜群のスタイルで着こなしている女性は、タイナス王子の妻でしょうね。それにしても綺麗な人。思わず見とれてしまうわ……)
惚れ惚れするほどに美しい銀髪がさらりと風に揺れる様子は、まるで神話に出てくる女神のようであり、ミリーナは思わず息を飲んで見惚れてしまう。
同時に、そこまで容姿が優れていない自分がジェフリー王太子のすぐ傍にいることに、少なからず気後れを感じてしまっていた。
――と、
「それでジェフリー殿下、これ見よがしに連れているそちらの可愛いらしい女官について尋ねてもいいかな?」
タイナス王子が興味深そうにミリーナを見つめながら言った。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
天然王妃は国王陛下に溺愛される~甘く淫らに啼く様~
一ノ瀬 彩音
恋愛
クレイアは天然の王妃であった。
無邪気な笑顔で、その豊満過ぎる胸を押し付けてくるクレイアが可愛くて仕方がない国王。
そんな二人の間に二人の側室が邪魔をする!
果たして国王と王妃は結ばれることが出来るのか!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。
だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。
そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
貧乳の魔法が切れて元の巨乳に戻ったら、男性好きと噂の上司に美味しく食べられて好きな人がいるのに種付けされてしまった。
シェルビビ
恋愛
胸が大きければ大きいほど美人という定義の国に異世界転移した結。自分の胸が大きいことがコンプレックスで、貧乳になりたいと思っていたのでお金と引き換えに小さな胸を手に入れた。
小さな胸でも優しく接してくれる騎士ギルフォードに恋心を抱いていたが、片思いのまま3年が経とうとしていた。ギルフォードの前に好きだった人は彼の上司エーベルハルトだったが、ギルフォードが好きと噂を聞いて諦めてしまった。
このまま一生独身だと老後の事を考えていたところ、おっぱいが戻ってきてしまった。元の状態で戻ってくることが条件のおっぱいだが、訳が分からず蹲っていると助けてくれたのはエーベルハルトだった。
ずっと片思いしていたと告白をされ、告白を受け入れたユイ。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています
一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、
現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。
当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、
彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、
それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、
数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。
そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、
初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる