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第二章 王宮女官ミリーナ

第14話 外交使節団(1)

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 ジェフリー王太子によるパッショネイトな口づけによって、強引に距離が縮められてから。
 2人は隣国であるハンナブル王国からやってきた外交使節団の歓迎セレモニーに参加していた。

「あの、ジェフリー王太子殿下、一つよろしいでしょうか?」

「なんだいミリーナ?」

「今日の朝いきなりジェフリー王太子付き女官を拝命したといいますのに、その最初の仕事がジェフリー王太子殿下の随伴として外交使節団をお出迎え──いわゆる外交デビューというのはさすがに心の準備が整いませんわ!」

 ミリーナはジェフリー王太子にだけに聞こえるように小声で、けれど若干キレ気味に抗議した。
 さすがにこれはないだろう、と心は半泣きで訴える。

「ははっ、なんだそんなことか。気負う必要はないさ、普通に挨拶をすればいい」

 しかしジェフリー王太子は軽く微笑みながら、さらっとそんな言葉を返してくるのだ。

「この状況で気負わずにいられる人間がどこいましょうか!」

「ハンナブル王国は我がローエングリン王国の最も親密な友好国だし、今日の外交団使節団代表は俺も個人的に友誼を深めている気のおけない相手だ。緊張する必要は猫の額ほどもありはしないさ。おっ、どうやら外交使節団を乗せた馬車が見えてきたようだな」

 ジェフリー王太子が居住まいを正したのを見て、事ここに至ってはもう引くにも引けないとミリーナは覚悟を決めた。
 よもやよもよや、王太子付き女官になって最初の仕事が最友好国との大事な外交デビューになってしまったミリーナである。

 今朝起きた時はこんなことになるなんて思ってもみなかったし、正直泣いて逃げ出したかったのだが、ミリーナも誇り高きローエングリン王国貴族の子女である。
 覚悟を決めた以上は弱音などもってのほか、その目は既に貫き通す意志の強さを秘めていた。

 もちろん王太子付きの特別な地位とはいえ、ミリーナは立場上は女官に過ぎないので、ジェフリー王太子より一歩下がった位置で背筋を伸ばした美しい姿勢で静かに立って待つ。

 そんなミリーナの前で、

「ジェフリー殿下、久しぶりだな! 元気そうで何よりだ!」
 馬車から降りた30過ぎの精悍な男が、子供のように目を輝かせながら右手を差し出し、

「タイナス王子、こちらこそ元気そうでなによりだ。遠路はるばるよく来てくれた、ローエングリン王国を代表して歓迎するよ」
 ジェフリー王太子もその手を力強く握り返した。

(ハンナブル王国のタイナス王子! 10年前のハンナブル王国との大戦で大活躍した、一騎打ちでは当世でかなう者なし、軍を率いては百戦して危うからずとうたわれるハンナブル王国の大英雄だわ――!)

 10歳以上も年の離れている2人がガシっと固い握手を交わし、親しげに言葉を交わす姿を見て、ミリーナは改めてジェフリー王太子が他国にも名を知られている一角の人物なのだと納得した。

 しかもジェフリー王太子ときたら普段の嘘っぽい笑顔とは違って、子供のように目を輝かせているのだ。
 それだけこのタイナス王子を信頼しているということが、ミリーナには見て取れたのだった。

(それにこの笑顔、ジェンが笑った時の目にとても似ている気がするわ。もしもジェフリー王太子殿下がジェンだったらとても素敵な運命の出会いでしたのに――ってなにを2人の男性を偉そうに比較した上に、2人が同一人物だったらとか思ってしまっているのよ私は! いったい何様のつもりなのよ、失礼極まりないでしょう!)

 ミリーナは心の中でシャキッとなさいと自分に発破をかけると、2人が旧交を温めている間に、ハンナブル王国の外交使節団を失礼がない程度にそれとなく見渡してみた。

(タイナス王子と同じ馬車から出てきた、晴れた夏空のような鮮やかな青色のドレスを抜群のスタイルで着こなしている女性は、タイナス王子の妻でしょうね。それにしても綺麗な人。思わず見とれてしまうわ……)

 惚れ惚れするほどに美しい銀髪がさらりと風に揺れる様子は、まるで神話に出てくる女神のようであり、ミリーナは思わず息を飲んで見惚れてしまう。

 同時に、そこまで容姿が優れていない自分がジェフリー王太子のすぐ傍にいることに、少なからず気後れを感じてしまっていた。

 ――と、

「それでジェフリー殿下、これ見よがしに連れているそちらの可愛いらしい女官について尋ねてもいいかな?」

 タイナス王子が興味深そうにミリーナを見つめながら言った。

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