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第4章 ヒロインズ・バトル
第125話 この日、握り返したアリエッタの手の感触を、俺は一生涯忘れることはないだろう。
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「やっと帰ってこれたな」
見慣れたブレイビア学園の校舎が見えてきて、俺は安堵したように呟いた。
「まったく、とんだ災難だったわね」
それは他のみんなも同じようで、一様にホッとしたような顔をしている。
とはいうものの、この後は事情聴取が待っており、それが終わるまではゆっくりはできない。
しかし勝手知ったる学園に帰って来たことは、俺たちに得も言われぬ安心感を与えてくれていた。
そんなブレイビア学園には、敷地全体を覆うように薄い黄土色の結界が展開している。
ブレイビア学園は、有事の際には学園を守護する四大精霊ゲンブの防御結界が起動し、学園そのものが侵入者を阻む強固な要塞となるのだ。
アリエッタやユリーナが結界を特に何もなく素通りするのに続いて、俺も結界を抜けようとして――バチッ!
火花が飛び散るような音がしたと同時に、俺は顔に予期せぬ衝撃を受けて、結界の外へと弾き飛ばされてしまった。
完全に無警戒だったこともあって、1メートルほど吹っ飛んだ俺は、ギリギリで受け身は取るものの、無様にも背中から地面に落ちてしまう。
「いってぇぇぇぇ!? ちょ、え? なんで俺だけ――」
結界に触れた顔というか、鼻が痛い。
見なくても分かる、絶対に赤くなっている。
上体を起こして鼻をさする俺を見て、アリエッタは驚いたような顔をしてから、次に俺の左手を確認するような視線を向けながら言った。
「ユータ、外出許可証はどうしたのよ? 左手に付けていたわよね?」
「外出許可証? って学園を出る時にもらったミサンガのことだよな?」
「そうよ。ゲンブの結界が起動している間は、あれがないと入れないわよ」
「あれなら無くさないように、貰ってからずっと左手首に付けて――あれ、ないぞ?」
アリエッタに言われて左手首を見てみたが、なぜか俺の左手首には何もついていなかった。
え、あれ?
「落とした――というよりは、ジラント・ドラゴンとの戦闘中に切れちゃったのかな?」
「まぁ、激戦だったしなぁ。正直ミサンガのことなんか気にしていなかったのはある」
あの戦闘中に、ミサンガのことを気にかけていられるわけがない。
「ふふっ」
と、アリエッタが右手を口元に当てながら小さく笑った。
「おいおい、笑うなよな。無防備だったから結構、痛かったんだぞ?」
「だっておかしいんだもん。あれだけ強かったユータが、ボーっと結界を抜けようとして吹っ飛ばされて、尻餅をついたまま鼻をさすっているのよ?」
「まさか弾かれるとは思ってなかったからな。完全に不意打ちだった」
それでもギリギリで受け身を取ってくれるあたり、神騎士LV99の身体は本当に高性能だ。
「きっとジラント・ドラゴンもあの世で地団太を踏んでいるわよ。俺はこいつに負けたのかってね」
「せっかくジラント・ドラゴンを倒したっていうのに、最後にカッコ悪いところを見られちまったなぁ」
あまりに情けなすぎて、俺は思わずため息をついてしまう。
「でもユータのそういう自然体なところも、私は好きよ」
と、小さな声で早口気味にアリエッタが何ごとかを呟いた。
しかしあまりに小声だったので、俺はそれを聞き逃してしまう。
「なにか言ったか?」
「ううんなにも? それよりほら、これを付けて」
そう言うとアリエッタは結界の外に出て、さっきまでユリーナが付けていたミサンガを俺に手渡してくれた。
アリエッタの指先が俺の手に触れる。
アリエッタの指がわずかに跳ねたのを俺は見逃さなかった。
「なに照れてるんだよ」
「照れてないし」
「隠さなくてもいいってば。ふふっ」
「なに笑ってるのよ」
「さっきのお返しだ」
「ふん!」
アリエッタはプイっとそっぽを向くが、そんな態度とは裏腹に、そっと俺の手を握ってくる。
その積極的な行動に、俺はアリエッタと両想いになったということを改めて実感していた。
この日、握り返したアリエッタの手の感触を、俺は一生涯忘れることはないだろう。
俺は深い感慨を胸に今度こそ、ゲンブの結界を越えたのだった。
見慣れたブレイビア学園の校舎が見えてきて、俺は安堵したように呟いた。
「まったく、とんだ災難だったわね」
それは他のみんなも同じようで、一様にホッとしたような顔をしている。
とはいうものの、この後は事情聴取が待っており、それが終わるまではゆっくりはできない。
しかし勝手知ったる学園に帰って来たことは、俺たちに得も言われぬ安心感を与えてくれていた。
そんなブレイビア学園には、敷地全体を覆うように薄い黄土色の結界が展開している。
ブレイビア学園は、有事の際には学園を守護する四大精霊ゲンブの防御結界が起動し、学園そのものが侵入者を阻む強固な要塞となるのだ。
アリエッタやユリーナが結界を特に何もなく素通りするのに続いて、俺も結界を抜けようとして――バチッ!
火花が飛び散るような音がしたと同時に、俺は顔に予期せぬ衝撃を受けて、結界の外へと弾き飛ばされてしまった。
完全に無警戒だったこともあって、1メートルほど吹っ飛んだ俺は、ギリギリで受け身は取るものの、無様にも背中から地面に落ちてしまう。
「いってぇぇぇぇ!? ちょ、え? なんで俺だけ――」
結界に触れた顔というか、鼻が痛い。
見なくても分かる、絶対に赤くなっている。
上体を起こして鼻をさする俺を見て、アリエッタは驚いたような顔をしてから、次に俺の左手を確認するような視線を向けながら言った。
「ユータ、外出許可証はどうしたのよ? 左手に付けていたわよね?」
「外出許可証? って学園を出る時にもらったミサンガのことだよな?」
「そうよ。ゲンブの結界が起動している間は、あれがないと入れないわよ」
「あれなら無くさないように、貰ってからずっと左手首に付けて――あれ、ないぞ?」
アリエッタに言われて左手首を見てみたが、なぜか俺の左手首には何もついていなかった。
え、あれ?
「落とした――というよりは、ジラント・ドラゴンとの戦闘中に切れちゃったのかな?」
「まぁ、激戦だったしなぁ。正直ミサンガのことなんか気にしていなかったのはある」
あの戦闘中に、ミサンガのことを気にかけていられるわけがない。
「ふふっ」
と、アリエッタが右手を口元に当てながら小さく笑った。
「おいおい、笑うなよな。無防備だったから結構、痛かったんだぞ?」
「だっておかしいんだもん。あれだけ強かったユータが、ボーっと結界を抜けようとして吹っ飛ばされて、尻餅をついたまま鼻をさすっているのよ?」
「まさか弾かれるとは思ってなかったからな。完全に不意打ちだった」
それでもギリギリで受け身を取ってくれるあたり、神騎士LV99の身体は本当に高性能だ。
「きっとジラント・ドラゴンもあの世で地団太を踏んでいるわよ。俺はこいつに負けたのかってね」
「せっかくジラント・ドラゴンを倒したっていうのに、最後にカッコ悪いところを見られちまったなぁ」
あまりに情けなすぎて、俺は思わずため息をついてしまう。
「でもユータのそういう自然体なところも、私は好きよ」
と、小さな声で早口気味にアリエッタが何ごとかを呟いた。
しかしあまりに小声だったので、俺はそれを聞き逃してしまう。
「なにか言ったか?」
「ううんなにも? それよりほら、これを付けて」
そう言うとアリエッタは結界の外に出て、さっきまでユリーナが付けていたミサンガを俺に手渡してくれた。
アリエッタの指先が俺の手に触れる。
アリエッタの指がわずかに跳ねたのを俺は見逃さなかった。
「なに照れてるんだよ」
「照れてないし」
「隠さなくてもいいってば。ふふっ」
「なに笑ってるのよ」
「さっきのお返しだ」
「ふん!」
アリエッタはプイっとそっぽを向くが、そんな態度とは裏腹に、そっと俺の手を握ってくる。
その積極的な行動に、俺はアリエッタと両想いになったということを改めて実感していた。
この日、握り返したアリエッタの手の感触を、俺は一生涯忘れることはないだろう。
俺は深い感慨を胸に今度こそ、ゲンブの結界を越えたのだった。
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