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第4章 ヒロインズ・バトル
第86話 鈴カステラで、あーん♪
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「でもね」
「どうした?」
「りんご飴も鈴カステラも、VIP席では一度も出てこなかったのよね。こんなに美味しいなら、出してくれたらよかったのに。ちょっと損してた感じ」
「そうは言っても、さすがにVIP席でりんご飴や鈴カステラは出せないだろ? こんな物を出して馬鹿にしてるのか、とか怒鳴られそうだもん」
「だったらいい食材で、一流シェフに作ってもらうとか?」
「それはもう、本来の趣旨としてのお祭りの食べ物じゃなくなっているような」
「それは確かに」
なんてことを話しながら、一つのお椀の鈴カステラをアリエッタと一緒に食べる。
出店の脇でアリエッタと一緒に鈴カステラを食べる幸せは、文字通りプライスレスだった。
しばらくアリエッタと食べる鈴カステラを堪能していると――事件が起こった。
俺とアリエッタは計らずも全く同時に、同じ鈴カステラを摘まみにいって、2人の指先がコツンと触れ合ってしまったのだ。
「ぁ……っ」
「わ、悪い」
俺とアリエッタは、鏡合わせのように素早く手を引っ込めた。
「お先にどうぞ」
「ユータの方こそお先にどうぞ」
「こういう時はアリエッタファーストだから」
「なにそれ、それを言うならレディファーストでしょ? それにそんなに気を使わなくてもいいわよ。ユータなんだし」
「おいおい、俺は日々気を使いまくりだっての。気配りの人だっての。ってわけで、やっぱりここはアリエッタからだ」
「だからいいってば。ユータから食べて」
「いやいやアリエッタから」
「だからユータから……って、んもう。これじゃ埒が明かないわね。だったらもう、し、しかたないわよね。このままじゃ堂々巡りだもん。時間は有限なんだし、たとえベストじゃなくても、ベターでいいから解決策を提示する必要があるわ。だからこうしましょっ! はいっ」
俺が口を挟むわずかな隙間すら見せず、やたらと早口でまくし立てるように言ったアリエッタが、鈴カステラを1つ摘まむと、なぜか自分ではなく俺の口元へと差し出した。
「え?」
アリエッタの意図が分からずに、なんとも間抜けな声をあげてしまう俺。
「だ、だから!」
「だから?」
「たっ、たっ……」
「タッタ?」
クララが立った?
クララと言えば、ユリーナたちもお祭りに来てるのかな?
「ううっ~~! だから! 食べさせてあげるって言ってるの!」
「えっと、誰が?」
「私がよ!」
「誰に?」
「ユータに決まってるでしょ!」
「いや、なんで……?」
1年生タッグトーナメントの決勝戦に望むがごときアリエッタの猛烈な気迫に、俺は完全に気圧されてしまっていた。
今、模擬戦闘訓練をやったら負けるかもしれない。
そんな雰囲気だ。
「だ、だってそうでしょ? 私が先にとって、だけどユータが先に食べる。これでプラマイゼロで対等じゃない」
「お、おう?」
「ってことは、これでどっちが先かを言い争う必要はないってわけよね?」
「ま、まぁそうなるのか……?」
「つまりこれはベストじゃないかもしれないけど、ベターな解決策なのよ」
「ベター……なのかな?」
正直よく分からないが、なんとなく解決したような気がしないこともない。
なるほど。
このなんとも微妙な納得感が、ベストじゃないけどベターな解決策ってやつなのか。
だがしかし、そこで俺はハッと気付く。
つまりこれは、アリエッタにあーんしてもらえるということでは!?
つまりこれは、アリエッタにあーんしてもらえるということでは!?
(大事なことなので2回心の中で復唱しました)
「ほらほら、大人しく口を開けなさいよね。はい、あーん」
アリエッタが恥ずかしそうに頬を染めながら、あーんをしてくれる。
もちろんこのシチュエーションで断るような俺ではない!
「あ、あーん」
パクリと、アリエッタが差し出した鈴カステラを俺は口に入れた。
「言っておくけど、ローゼンベルクの姫騎士に食べさせて貰えるなんて、ものすごく名誉なことなんだからね。しっかりと味わって食べなさいよ」
頬を赤く染め、プイッとソッポを向きながら呟いたアリエッタに、鈴カステラを口に入れたまままだ飲み込めていなかった俺は、首を縦に振って肯定の意思表示をする。
「もぐもぐ…………」
アリエッタが摘まんだことで推しの子パワーが注入されたアリエッタ鈴カステラは、さっきまでの1億万倍は美味しく感じられた。
その後は、俺があーんのお返しをしようとしたのだが、
「調子に乗らない!」
見事に一蹴されてしまった。
しかしその頬が赤くなったままだったのを、俺は見逃しなかった。
まったくアリエッタは照れ屋さんだなぁ!
「どうした?」
「りんご飴も鈴カステラも、VIP席では一度も出てこなかったのよね。こんなに美味しいなら、出してくれたらよかったのに。ちょっと損してた感じ」
「そうは言っても、さすがにVIP席でりんご飴や鈴カステラは出せないだろ? こんな物を出して馬鹿にしてるのか、とか怒鳴られそうだもん」
「だったらいい食材で、一流シェフに作ってもらうとか?」
「それはもう、本来の趣旨としてのお祭りの食べ物じゃなくなっているような」
「それは確かに」
なんてことを話しながら、一つのお椀の鈴カステラをアリエッタと一緒に食べる。
出店の脇でアリエッタと一緒に鈴カステラを食べる幸せは、文字通りプライスレスだった。
しばらくアリエッタと食べる鈴カステラを堪能していると――事件が起こった。
俺とアリエッタは計らずも全く同時に、同じ鈴カステラを摘まみにいって、2人の指先がコツンと触れ合ってしまったのだ。
「ぁ……っ」
「わ、悪い」
俺とアリエッタは、鏡合わせのように素早く手を引っ込めた。
「お先にどうぞ」
「ユータの方こそお先にどうぞ」
「こういう時はアリエッタファーストだから」
「なにそれ、それを言うならレディファーストでしょ? それにそんなに気を使わなくてもいいわよ。ユータなんだし」
「おいおい、俺は日々気を使いまくりだっての。気配りの人だっての。ってわけで、やっぱりここはアリエッタからだ」
「だからいいってば。ユータから食べて」
「いやいやアリエッタから」
「だからユータから……って、んもう。これじゃ埒が明かないわね。だったらもう、し、しかたないわよね。このままじゃ堂々巡りだもん。時間は有限なんだし、たとえベストじゃなくても、ベターでいいから解決策を提示する必要があるわ。だからこうしましょっ! はいっ」
俺が口を挟むわずかな隙間すら見せず、やたらと早口でまくし立てるように言ったアリエッタが、鈴カステラを1つ摘まむと、なぜか自分ではなく俺の口元へと差し出した。
「え?」
アリエッタの意図が分からずに、なんとも間抜けな声をあげてしまう俺。
「だ、だから!」
「だから?」
「たっ、たっ……」
「タッタ?」
クララが立った?
クララと言えば、ユリーナたちもお祭りに来てるのかな?
「ううっ~~! だから! 食べさせてあげるって言ってるの!」
「えっと、誰が?」
「私がよ!」
「誰に?」
「ユータに決まってるでしょ!」
「いや、なんで……?」
1年生タッグトーナメントの決勝戦に望むがごときアリエッタの猛烈な気迫に、俺は完全に気圧されてしまっていた。
今、模擬戦闘訓練をやったら負けるかもしれない。
そんな雰囲気だ。
「だ、だってそうでしょ? 私が先にとって、だけどユータが先に食べる。これでプラマイゼロで対等じゃない」
「お、おう?」
「ってことは、これでどっちが先かを言い争う必要はないってわけよね?」
「ま、まぁそうなるのか……?」
「つまりこれはベストじゃないかもしれないけど、ベターな解決策なのよ」
「ベター……なのかな?」
正直よく分からないが、なんとなく解決したような気がしないこともない。
なるほど。
このなんとも微妙な納得感が、ベストじゃないけどベターな解決策ってやつなのか。
だがしかし、そこで俺はハッと気付く。
つまりこれは、アリエッタにあーんしてもらえるということでは!?
つまりこれは、アリエッタにあーんしてもらえるということでは!?
(大事なことなので2回心の中で復唱しました)
「ほらほら、大人しく口を開けなさいよね。はい、あーん」
アリエッタが恥ずかしそうに頬を染めながら、あーんをしてくれる。
もちろんこのシチュエーションで断るような俺ではない!
「あ、あーん」
パクリと、アリエッタが差し出した鈴カステラを俺は口に入れた。
「言っておくけど、ローゼンベルクの姫騎士に食べさせて貰えるなんて、ものすごく名誉なことなんだからね。しっかりと味わって食べなさいよ」
頬を赤く染め、プイッとソッポを向きながら呟いたアリエッタに、鈴カステラを口に入れたまままだ飲み込めていなかった俺は、首を縦に振って肯定の意思表示をする。
「もぐもぐ…………」
アリエッタが摘まんだことで推しの子パワーが注入されたアリエッタ鈴カステラは、さっきまでの1億万倍は美味しく感じられた。
その後は、俺があーんのお返しをしようとしたのだが、
「調子に乗らない!」
見事に一蹴されてしまった。
しかしその頬が赤くなったままだったのを、俺は見逃しなかった。
まったくアリエッタは照れ屋さんだなぁ!
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