69 / 132
第3章 1年生タッグトーナメント
第67話 アリエッタ with ツンツン・トゲトゲ・ハリネズミ・アーマー
しおりを挟む
「なぁアリエッタ。ユリーナも負けてショックだっただろうし、もうちょっと優しくしてあげても良かったんじゃないか?」
俺はユリーナのメンタルが心配になって、アリエッタの背後から小声でこっそり問いかけた。
「いいのよ。コレくらいでへこたれるようじゃ、名門の姫騎士は務まらないわ」
「スパルタだなぁ。俺なら下手したらショックで引きこもるぞ?」
「ユータはそんな柔なタマじゃないでしょ。あ、もしかして冗談? あんな強さを見せつけておいて、なのにそんなことを言ったら、ちょっと笑えないわよ?」
「冗談じゃないんだけどなぁ」
この世界に来る前の『本来の俺』――学校カースト最下層――がこんな厳しい挫折を経験したら、間違いなく心が折れている。
「それにほら、ユリーナもすっかり元気になったみたいじゃない。ベストじゃないにしても、これはこれでベターだったのよ」
「……もしかしてわざと憎まれ役を買ってでたのか? ユリーナを元気づけるために」
「まさか。売られたケンカを買っただけよ」
「うん、そっかそっか」
「ちょっとユータ、なにニヤついてるのよ?」
「いや? 別に? ニヤついてなんかいないぞ?」
「滅茶苦茶ニヤついてるでしょ。言っておくけど、私が傷心のユリーナを元気づけようとしたとか、変な勘違いするのはやめてよね。ありえないから」
「うんうん、分かってるって」
アリエッタがとても優しい子だということを、俺はこの世界の誰よりもよく知っている。
だけどアリエッタの優しい心は、普段はツンツン・トゲトゲ・ハリネズミ・アーマーによって覆い隠されているのだ。
つまりはそういうことである。
まったくもう、可愛い奴だなぁ。
ふふふ。
「本当に分かってる? 私はユリーナのことなんて全然心配なんてしてないんだからねっ!」
「はいはい、そうだよなー。ユリーナのことなんて、全然心配なんてしてないよなー」
「はいは1回!」
「はーい」
「さっきからその態度、絶対わかってないし!」
「いやいや、俺はアリエッタのことはそれなり以上に分かってるっての」
「ユータが私の何を分かってるって言うのよ?」
「タッグトーナメントでお互い信頼して状況を任せあえるくらいには、分かってるんじゃないかな?」
「まぁ……そうよね」
アリエッタが納得したようにコクンと頷いた。
こういうところはとても素直なアリエッタである。
「おーいおまえら。仲がいいのは結構だが、このまま優勝セレモニーをするから、とりあえず整列しろー。イチャつくのはその後にしてくれ」
と、そこでレベッカ先生から声がかかった。
「レベッカ先生、私とユータはイチャついてなんていません。今のはタッグパートナーとの、ただの一般的な会話です」
「別に深い意味で言ったわけじゃないから、そこはどうでもいいんだが……お前こそカガヤを意識し過ぎじゃないか?」
「ひゃうんっ!?」
アリエッタがピョコンと小さく飛びあがった。
「そ、そそそんなことありません! 私は決勝戦を振り返ることで、更なる高みに上るためのステップアップとして――」
「ああもう、分かったから早く整列しろ。今日はお偉いさんもいっぱいいるんだ。怒られるだろ、私が。大人が怒られる時は面倒くさいんだ」
「ちょ、ちょっとユータ! レベッカ先生に変な勘違いされちゃったでしょ!」
「え、俺のせい?」
「そうに決まってるでしょ! ほら行くわよ!」
恥ずかしかったのか、アリエッタの頬は赤く染まり、早口でまくし立てるように言ってくる。
「ま、主賓の俺たちが行かないと始まらないもんな。それではレディ・アリエッタ。エスコート致します」
俺が冗談半分、もう半分は期待を込めて出した手を、
「あら、ユータのくせに気が利くじゃない」
アリエッタが躊躇なく取った。
俺はアリエッタと手を繋いだまま、既に簡易のセレモニーセットが用意された場所まで歩いて行った。
決勝戦を戦った俺たち2組4人に加え、3位決定戦を勝ったルナ&ミリアも含めた計3チーム6人に、視察に来ていた王国騎士団・副団長の超エリート姫騎士から、金銀銅のきらびやかなメダルと、精緻な意匠が施されたトロフィーが授与される。
副団長の隣にはエレナ会長もいて、
「よくやったね、アリエッタ。優勝おめでとう」
トロフィーを手にしたアリエッタに優しく声をかけた。
「ありがとうございます、お姉さま」
「今日のアリエッタには、私も心の底から驚かされたわ。まさかAランク魔法のライオネル・ストライクを作り替えるだなんて。いつの間にこんなすごいことができるようになったのかしら?」
エレナ会長に掛け値なしで褒められて、
「えへへ。なんとかして模擬戦でユータに勝ちたくて、魔法式の構成を一から深掘りしていったら、なんとなくできそうな気がしたんです」
アリエッタの顔がにへらーと、それはもう嬉しそうに崩れる。
もうめちゃくちゃ嬉しそう。
例えるなら散歩に連れていってもらう時の子犬のようで、尻尾があったら間違いなく全力でフリフリしているだろう。
俺はユリーナのメンタルが心配になって、アリエッタの背後から小声でこっそり問いかけた。
「いいのよ。コレくらいでへこたれるようじゃ、名門の姫騎士は務まらないわ」
「スパルタだなぁ。俺なら下手したらショックで引きこもるぞ?」
「ユータはそんな柔なタマじゃないでしょ。あ、もしかして冗談? あんな強さを見せつけておいて、なのにそんなことを言ったら、ちょっと笑えないわよ?」
「冗談じゃないんだけどなぁ」
この世界に来る前の『本来の俺』――学校カースト最下層――がこんな厳しい挫折を経験したら、間違いなく心が折れている。
「それにほら、ユリーナもすっかり元気になったみたいじゃない。ベストじゃないにしても、これはこれでベターだったのよ」
「……もしかしてわざと憎まれ役を買ってでたのか? ユリーナを元気づけるために」
「まさか。売られたケンカを買っただけよ」
「うん、そっかそっか」
「ちょっとユータ、なにニヤついてるのよ?」
「いや? 別に? ニヤついてなんかいないぞ?」
「滅茶苦茶ニヤついてるでしょ。言っておくけど、私が傷心のユリーナを元気づけようとしたとか、変な勘違いするのはやめてよね。ありえないから」
「うんうん、分かってるって」
アリエッタがとても優しい子だということを、俺はこの世界の誰よりもよく知っている。
だけどアリエッタの優しい心は、普段はツンツン・トゲトゲ・ハリネズミ・アーマーによって覆い隠されているのだ。
つまりはそういうことである。
まったくもう、可愛い奴だなぁ。
ふふふ。
「本当に分かってる? 私はユリーナのことなんて全然心配なんてしてないんだからねっ!」
「はいはい、そうだよなー。ユリーナのことなんて、全然心配なんてしてないよなー」
「はいは1回!」
「はーい」
「さっきからその態度、絶対わかってないし!」
「いやいや、俺はアリエッタのことはそれなり以上に分かってるっての」
「ユータが私の何を分かってるって言うのよ?」
「タッグトーナメントでお互い信頼して状況を任せあえるくらいには、分かってるんじゃないかな?」
「まぁ……そうよね」
アリエッタが納得したようにコクンと頷いた。
こういうところはとても素直なアリエッタである。
「おーいおまえら。仲がいいのは結構だが、このまま優勝セレモニーをするから、とりあえず整列しろー。イチャつくのはその後にしてくれ」
と、そこでレベッカ先生から声がかかった。
「レベッカ先生、私とユータはイチャついてなんていません。今のはタッグパートナーとの、ただの一般的な会話です」
「別に深い意味で言ったわけじゃないから、そこはどうでもいいんだが……お前こそカガヤを意識し過ぎじゃないか?」
「ひゃうんっ!?」
アリエッタがピョコンと小さく飛びあがった。
「そ、そそそんなことありません! 私は決勝戦を振り返ることで、更なる高みに上るためのステップアップとして――」
「ああもう、分かったから早く整列しろ。今日はお偉いさんもいっぱいいるんだ。怒られるだろ、私が。大人が怒られる時は面倒くさいんだ」
「ちょ、ちょっとユータ! レベッカ先生に変な勘違いされちゃったでしょ!」
「え、俺のせい?」
「そうに決まってるでしょ! ほら行くわよ!」
恥ずかしかったのか、アリエッタの頬は赤く染まり、早口でまくし立てるように言ってくる。
「ま、主賓の俺たちが行かないと始まらないもんな。それではレディ・アリエッタ。エスコート致します」
俺が冗談半分、もう半分は期待を込めて出した手を、
「あら、ユータのくせに気が利くじゃない」
アリエッタが躊躇なく取った。
俺はアリエッタと手を繋いだまま、既に簡易のセレモニーセットが用意された場所まで歩いて行った。
決勝戦を戦った俺たち2組4人に加え、3位決定戦を勝ったルナ&ミリアも含めた計3チーム6人に、視察に来ていた王国騎士団・副団長の超エリート姫騎士から、金銀銅のきらびやかなメダルと、精緻な意匠が施されたトロフィーが授与される。
副団長の隣にはエレナ会長もいて、
「よくやったね、アリエッタ。優勝おめでとう」
トロフィーを手にしたアリエッタに優しく声をかけた。
「ありがとうございます、お姉さま」
「今日のアリエッタには、私も心の底から驚かされたわ。まさかAランク魔法のライオネル・ストライクを作り替えるだなんて。いつの間にこんなすごいことができるようになったのかしら?」
エレナ会長に掛け値なしで褒められて、
「えへへ。なんとかして模擬戦でユータに勝ちたくて、魔法式の構成を一から深掘りしていったら、なんとなくできそうな気がしたんです」
アリエッタの顔がにへらーと、それはもう嬉しそうに崩れる。
もうめちゃくちゃ嬉しそう。
例えるなら散歩に連れていってもらう時の子犬のようで、尻尾があったら間違いなく全力でフリフリしているだろう。
10
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。
十分以上に勝算がある。と思っていたが、
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」
と完膚なきまでに振られた俺。
失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。
彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。
そして、
「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」
と、告白をされ、抱きしめられる。
突然の出来事に困惑する俺。
そんな俺を追撃するように、
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スウィートカース(Ⅷ):魔法少女・江藤詩鶴の死点必殺
湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
眼球の魔法少女はそこに〝死〟を視る。
ひそかに闇市場で売買されるのは、一般人を魔法少女に変える夢の装置〝シャード〟だ。だが粗悪品のシャードから漏れた呪いを浴び、一般市民はつぎつぎと狂暴な怪物に変じる。
謎の売人の陰謀を阻止するため、シャードの足跡を追うのはこのふたり。
魔法少女の江藤詩鶴(えとうしづる)と久灯瑠璃絵(くとうるりえ)だ。
シャードを帯びた刺客と激闘を繰り広げ、最強のタッグは悪の巣窟である来楽島に潜入する。そこで彼女たちを待つ恐るべき結末とは……
真夏の海を赤く染め抜くデッドエンド・ミステリー。
「あんたの命の線は斬った。ここが終点や」
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
学園のマドンナの渡辺さんが、なぜか毎週予定を聞いてくる
まるせい
青春
高校に入学して暫く経った頃、ナンパされている少女を助けた相川。相手は入学早々に学園のマドンナと呼ばれている渡辺美沙だった。
それ以来、彼女は学校内でも声を掛けてくるようになり、なぜか毎週「週末の御予定は?」と聞いてくるようになる。
ある趣味を持つ相川は週末の度に出掛けるのだが……。
焦れ焦れと距離を詰めようとするヒロインとの青春ラブコメディ。ここに開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる