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第3章 1年生タッグトーナメント

第67話 アリエッタ with ツンツン・トゲトゲ・ハリネズミ・アーマー

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「なぁアリエッタ。ユリーナも負けてショックだっただろうし、もうちょっと優しくしてあげても良かったんじゃないか?」

 俺はユリーナのメンタルが心配になって、アリエッタの背後から小声でこっそり問いかけた。

「いいのよ。コレくらいでへこたれるようじゃ、名門の姫騎士は務まらないわ」
「スパルタだなぁ。俺なら下手したらショックで引きこもるぞ?」

「ユータはそんな柔なタマじゃないでしょ。あ、もしかして冗談? あんな強さを見せつけておいて、なのにそんなことを言ったら、ちょっと笑えないわよ?」
「冗談じゃないんだけどなぁ」

 この世界に来る前の『本来の俺』――学校カースト最下層――がこんな厳しい挫折を経験したら、間違いなく心が折れている。

「それにほら、ユリーナもすっかり元気になったみたいじゃない。ベストじゃないにしても、これはこれでベターだったのよ」

「……もしかしてわざと憎まれ役を買ってでたのか? ユリーナを元気づけるために」
「まさか。売られたケンカを買っただけよ」

「うん、そっかそっか」
「ちょっとユータ、なにニヤついてるのよ?」

「いや? 別に? ニヤついてなんかいないぞ?」
「滅茶苦茶ニヤついてるでしょ。言っておくけど、私が傷心のユリーナを元気づけようとしたとか、変な勘違いするのはやめてよね。ありえないから」

「うんうん、分かってるって」

 アリエッタがとても優しい子だということを、俺はこの世界の誰よりもよく知っている。
 だけどアリエッタの優しい心は、普段はツンツン・トゲトゲ・ハリネズミ・アーマーによって覆い隠されているのだ。
 つまりはそういうことである。

 まったくもう、可愛い奴だなぁ。
 ふふふ。

「本当に分かってる? 私はユリーナのことなんて全然心配なんてしてないんだからねっ!」
「はいはい、そうだよなー。ユリーナのことなんて、全然心配なんてしてないよなー」

「はいは1回!」
「はーい」
「さっきからその態度、絶対わかってないし!」
「いやいや、俺はアリエッタのことはそれなり以上に分かってるっての」

「ユータが私の何を分かってるって言うのよ?」
「タッグトーナメントでお互い信頼して状況を任せあえるくらいには、分かってるんじゃないかな?」

「まぁ……そうよね」
 アリエッタが納得したようにコクンと頷いた。
 こういうところはとても素直なアリエッタである。

「おーいおまえら。仲がいいのは結構だが、このまま優勝セレモニーをするから、とりあえず整列しろー。イチャつくのはその後にしてくれ」

 と、そこでレベッカ先生から声がかかった。

「レベッカ先生、私とユータはイチャついてなんていません。今のはタッグパートナーとの、ただの一般的な会話です」

「別に深い意味で言ったわけじゃないから、そこはどうでもいいんだが……お前こそカガヤを意識し過ぎじゃないか?」

「ひゃうんっ!?」
 アリエッタがピョコンと小さく飛びあがった。

「そ、そそそんなことありません! 私は決勝戦を振り返ることで、更なる高みに上るためのステップアップとして――」

「ああもう、分かったから早く整列しろ。今日はお偉いさんもいっぱいいるんだ。怒られるだろ、私が。大人が怒られる時は面倒くさいんだ」

「ちょ、ちょっとユータ! レベッカ先生に変な勘違いされちゃったでしょ!」
「え、俺のせい?」
「そうに決まってるでしょ! ほら行くわよ!」

 恥ずかしかったのか、アリエッタの頬は赤く染まり、早口でまくし立てるように言ってくる。

「ま、主賓の俺たちが行かないと始まらないもんな。それではレディ・アリエッタ。エスコート致します」
 俺が冗談半分、もう半分は期待を込めて出した手を、

「あら、ユータのくせに気が利くじゃない」
 アリエッタが躊躇ちゅうちょなく取った。

 俺はアリエッタと手を繋いだまま、既に簡易のセレモニーセットが用意された場所まで歩いて行った。

 決勝戦を戦った俺たち2組4人に加え、3位決定戦を勝ったルナ&ミリアも含めた計3チーム6人に、視察に来ていた王国騎士団・副団長の超エリート姫騎士から、金銀銅のきらびやかなメダルと、精緻な意匠が施されたトロフィーが授与される。

 副団長の隣にはエレナ会長もいて、

「よくやったね、アリエッタ。優勝おめでとう」
 トロフィーを手にしたアリエッタに優しく声をかけた。

「ありがとうございます、お姉さま」

「今日のアリエッタには、私も心の底から驚かされたわ。まさかAランク魔法のライオネル・ストライクを作り替えるだなんて。いつの間にこんなすごいことができるようになったのかしら?」

 エレナ会長に掛け値なしで褒められて、

「えへへ。なんとかして模擬戦でユータに勝ちたくて、魔法式の構成を一から深掘りしていったら、なんとなくできそうな気がしたんです」

 アリエッタの顔がにへらーと、それはもう嬉しそうに崩れる。

 もうめちゃくちゃ嬉しそう。
 例えるなら散歩に連れていってもらう時の子犬のようで、尻尾があったら間違いなく全力でフリフリしているだろう。
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