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第1章 突然のゲーム内転移

第26話 この世界での「推し活」

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 体温や匂いといった、ソシャゲでは絶対に感じられなかったリアルなアリエッタが伝わってくる。

 推しに触れることができる。
 推しをリアルに感じられる。

 その言いようのない幸せに、俺は頭が沸騰してどうにかなってしまいそうだった。
 推しを幸せにしたいって気持ちは一番だが、しかし俺も一人の男の子なのだ。

 同年代の女の子に興味津々になっちゃうのは、これもうしょうがないだろ!?
 常識的に考えて!

 白状しよう。
 俺は今、猛烈に興奮している!

 くっ、だめだ!
 あと何時間もこのままの状態で、ほとばしる青少年のリビドーを抑えられる気がしない!

 俺のLV99レクイエムが、アリエッタとカラミティ・インフェルノしてしまうのは、もはや時間の問題!

 俺が隣に眠るアリエッタの存在を強く意識しながら、しばらく悶々としていると、アリエッタが俺にギュッと抱き着いてきた。

 ほ、ほ、ほ、ほわあああああああっっ!!??

「あ、アリエッタ? ど、どうした?」
「……も……」

 何ごとか、かすれるような小声でささやくアリエッタ。
 しかし小さすぎて内容までは聞き取れない。

 もしかして愛の言葉をささやこうとして、恥ずかしくて聞き取れないほどの小声になってしまったのか?
 つまりアリエッタは、最初からその気で俺をベッドに誘っていた?

 そ、そうだよなぁ?
 いくらアリエッタが箱入りのお嬢さまでも、何かしらの好意がなければ、いくらなんでも初めて会った男子を、自分のベッドに招き入れはしないよなぁ?

 つまりアリエッタは俺のことが好きで、その延長にある大人のボディコンタクト的なものを期待してベッドに誘ったということでは??
 変なことしないでって言ったのも、ツンデレなアリエッタならではの期待の裏返しでは?

 ご、ごくり。
 緊張で俺の喉が鳴った。

 ついに俺は推しとリアルに1つになってしまうのか!?
 燃え盛るカラミティ・インフェルノと化してしまうのか!?

 推しが期待しているのなら、俺としては踏みとどまる理由も必然もありはしない。

 意を決した俺が、しがみつくように抱き着いてくるアリエッタを、感極まった震える両手で抱き返そうとした時、

「……も」
 アリエッタがふたたび何事かつぶやいた。

「ごめんアリエッタ、小声過ぎてよく聞こえなくて――」

「私もいつかお姉さまみたいに、みんなに尊敬されて慕われる、素敵な姫騎士になるから……」

 アリエッタが切ない声色でつぶやいた。

「もっと頑張るから……だから私のことを置いていかないで……見捨てないで……」

 それは俺ではない誰か――おそらく姉であるエレナ会長へと向けられた言葉。

「アリエッタ……」
 そしてその言葉に、俺はソシャゲでのアリエッタが、何をしても敵わないエレナ会長に、大きな劣等感を抱いていたことを思い出していた。

 アリエッタにとってエレナ会長は、最も尊敬する姉であると同時に、ずっと越えられない――どころか足元にすらたどりつけない、高い高い壁として描かれていた。
 ゲーム内でも2人の性能差は歴然としている。

 俺の興奮は、崖を転げ落ちるように霧散していった。

「アリエッタは俺の推し、つまり俺の一方的な感情だろ。なのに推しも俺のことを好きとか、何をイタイ勘違いしているんだっての」

 危うく最愛の推しに、酷い裏切りを働いてしまうところだった。

「そうだ、アリエッタは俺の推し。それ以上でもそれ以下でもない、ただただ幸せにしてあげたい存在なんだ」

 俺はアリエッタを推したい。
 アリエッタのために俺は何ができる?

 ここは姫騎士を育成するブレイビア学園だ。
 そしてアリエッタの目標は、エレナ会長に負けないような立派な姫騎士になること。

「ならば俺は、その手助けをする――! 不遇だったアリエッタを、最強姫騎士に育て上げるんだ!」

 俺はこの世界での「推し活」をそう見定めた。

 そのために俺に何ができるかは、残念ながらまだ分からない。
 パッと思いつくのはアリエッタが強くなるように、ブレイビア学園の授業で行われる模擬戦で、成長を促すように上手く相手をしてあげるとか、だろうか。

 まだふんわりとしかイメージはできていない。

 だけど『推し活』の明確な目標を見定めたことで、俺の心は強い推しモチベーションを手に入れていた。

 もちろんだからといって、勝ち気で可愛いアリエッタと同じベッドでくっついて寝ていることに、興奮しないわけじゃない。
 でもそれ以上の推しへの強い想いが俺の中に生まれ落ち、性的興奮すらも凌駕したのだ。

 そしてメンタルが落ちつくと同時に、怒涛の1日の疲れもあって、次第にうとうととし始め――。

「朝起きたら元の世界に戻ってた、全部夢だった――なんてことがありませんように」

 そのことだけを強く祈りながら、俺の意識は眠りの国へと旅立っていった――。
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