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第二部 暴れん坊将軍編(セントフィリア国王編)
第89話 悪だくみ(1)
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~~????SIDE~~
そこは第一区と呼ばれる王都でも最上級エリアにある、ひと際大きな邸宅だった。
かつて勇者として魔王を討伐したクロウが家を買ったのもこのエリアなのだが、そのことは今は特には関係はない。
この第一区は国の復興計画からは外れており、この地区に住む住人たちの自らの資金によって独自に復興が行われている。
つまりそれができるだけの莫大な財産を持った超上級国民たちが住むエリアだった。
その中でも特に巨大な邸宅の、閑静な中庭に面した一室で二人の男が向き合って話していた。
「ミズハと言ったか、あの娘」
そう言ったのは前国王の下で右大臣を務めた古参貴族で、侯爵のボリフェノール卿。
この屋敷の主でもある50過ぎの男だった。
「左様にございます」
ボリフェノール侯爵に酒を注ぎながら恭しく答えたのは、豪商エチゴ屋の主だ。
エチゴ屋はかつて右大臣を務めていたボリフェノール侯爵に特別に贔屓をされ、政商として急激に勢力を拡大したものの。
クロウが新国王になってからは、過去の様々な癒着や裏金を問題視されて冷や飯ぐらいをさせられていた。
「して、ミズハは前国王の隠し子に間違いないのじゃな?」
「はい、あの娘の家のタンスの奥に、前セントフィリア王家の紋が刻まれた短刀が丁寧に保管されておりました」
「なんと、前セントフィリア王家の紋が刻まれた短刀とな!? 当然持って帰ったのじゃろうな?」
「はい、これにございますれば。どうぞ侯爵様おん自らご検分くださいませ」
エチゴ屋が風呂敷に包まれた短刀を恭しく差し出す。
「おお……っ!! まさしくこれは前セントフィリア王家の紋章であることよ! 短刀そのもののこしらえも、実に見事じゃ!」
「さらにあの美しき黒髪は、王家に代々伝わる『ぬばたまの黒髪』に相違ございません。美しく気品あふれるお顔立ちも、若き頃は当世一の美男子とうたわれた前国王の面影を、色濃く受け継いでいるからにございましょう」
「ほぅ、ほぅ!」
「なによりあの娘が生まれた頃から、今もずっと側についておりますあの婆やと呼ばれている乳母。あれは前国王より特に信頼篤いことで有名だったのです」
「その話はワシも知っておるのぅ。しかしあの乳母はある日突然、王宮から消え失せたのじゃ。15、6年ほど前じゃったかの。詳しくは知らぬが、少し騒ぎになったのでワシもいまだに覚えておるわ」
「はい。時期的にミズハが生まれて半年も経たぬうちに、あの乳母はこっそりとミズハを連れて王宮から姿を消したのです」
「なるほどのぅ、それはどうにも妙なことじゃのぅ。もちろんその理由も突きとめておるのじゃろうの?」
「私どもが調べあげたところによれば、ミズハの母親は身分の低い王宮の下働きの娘で、前国王の子供を身ごもったものの、身体が弱くあの娘を生むと同時に命を落としたようです」
「ほぅ、そのようなことがのぅ」
「そして前国王は王妃に不貞がバレ、幼いミズハが酷い扱いを受けることをおそれ、信頼できる乳母に預けて市井に逃がしたというわけなのです」
「くくく、下女に手を出してはらませるわ、それが王妃にバレるのが怖くてこっそり逃がすわ。前国王は本当に愚王であったよのぅ」
「であるがゆえに、我々は愚かな目の届かぬところでいくらでも大儲けをできたわけですが」
「まったくじゃの、愚王様さまじゃ。くくくく……」
「ぬふふふふ……」
民が汗水たらして働き必死に納めた血税を、好き放題にむさぼり尽くす。
人を人とも思わぬボリフェノール侯爵とエチゴ屋の主人は、そろって悪辣な笑みを浮かべた。
そこは第一区と呼ばれる王都でも最上級エリアにある、ひと際大きな邸宅だった。
かつて勇者として魔王を討伐したクロウが家を買ったのもこのエリアなのだが、そのことは今は特には関係はない。
この第一区は国の復興計画からは外れており、この地区に住む住人たちの自らの資金によって独自に復興が行われている。
つまりそれができるだけの莫大な財産を持った超上級国民たちが住むエリアだった。
その中でも特に巨大な邸宅の、閑静な中庭に面した一室で二人の男が向き合って話していた。
「ミズハと言ったか、あの娘」
そう言ったのは前国王の下で右大臣を務めた古参貴族で、侯爵のボリフェノール卿。
この屋敷の主でもある50過ぎの男だった。
「左様にございます」
ボリフェノール侯爵に酒を注ぎながら恭しく答えたのは、豪商エチゴ屋の主だ。
エチゴ屋はかつて右大臣を務めていたボリフェノール侯爵に特別に贔屓をされ、政商として急激に勢力を拡大したものの。
クロウが新国王になってからは、過去の様々な癒着や裏金を問題視されて冷や飯ぐらいをさせられていた。
「して、ミズハは前国王の隠し子に間違いないのじゃな?」
「はい、あの娘の家のタンスの奥に、前セントフィリア王家の紋が刻まれた短刀が丁寧に保管されておりました」
「なんと、前セントフィリア王家の紋が刻まれた短刀とな!? 当然持って帰ったのじゃろうな?」
「はい、これにございますれば。どうぞ侯爵様おん自らご検分くださいませ」
エチゴ屋が風呂敷に包まれた短刀を恭しく差し出す。
「おお……っ!! まさしくこれは前セントフィリア王家の紋章であることよ! 短刀そのもののこしらえも、実に見事じゃ!」
「さらにあの美しき黒髪は、王家に代々伝わる『ぬばたまの黒髪』に相違ございません。美しく気品あふれるお顔立ちも、若き頃は当世一の美男子とうたわれた前国王の面影を、色濃く受け継いでいるからにございましょう」
「ほぅ、ほぅ!」
「なによりあの娘が生まれた頃から、今もずっと側についておりますあの婆やと呼ばれている乳母。あれは前国王より特に信頼篤いことで有名だったのです」
「その話はワシも知っておるのぅ。しかしあの乳母はある日突然、王宮から消え失せたのじゃ。15、6年ほど前じゃったかの。詳しくは知らぬが、少し騒ぎになったのでワシもいまだに覚えておるわ」
「はい。時期的にミズハが生まれて半年も経たぬうちに、あの乳母はこっそりとミズハを連れて王宮から姿を消したのです」
「なるほどのぅ、それはどうにも妙なことじゃのぅ。もちろんその理由も突きとめておるのじゃろうの?」
「私どもが調べあげたところによれば、ミズハの母親は身分の低い王宮の下働きの娘で、前国王の子供を身ごもったものの、身体が弱くあの娘を生むと同時に命を落としたようです」
「ほぅ、そのようなことがのぅ」
「そして前国王は王妃に不貞がバレ、幼いミズハが酷い扱いを受けることをおそれ、信頼できる乳母に預けて市井に逃がしたというわけなのです」
「くくく、下女に手を出してはらませるわ、それが王妃にバレるのが怖くてこっそり逃がすわ。前国王は本当に愚王であったよのぅ」
「であるがゆえに、我々は愚かな目の届かぬところでいくらでも大儲けをできたわけですが」
「まったくじゃの、愚王様さまじゃ。くくくく……」
「ぬふふふふ……」
民が汗水たらして働き必死に納めた血税を、好き放題にむさぼり尽くす。
人を人とも思わぬボリフェノール侯爵とエチゴ屋の主人は、そろって悪辣な笑みを浮かべた。
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