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第二部 暴れん坊将軍編(セントフィリア国王編)
第86話 ミズハ
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「……」
「……(さ、さすがにクロノスケは適当すぎる名前だったか? なんか犬の名前みたいだしな)」
『ほら来いクロノスケ!』
『ワンワン!』
的な。
「クロノスケ様、素敵なお名前ですね」
しかし俺の心配をよそに、女の子は純白の百合の花のような清楚な笑顔で言った。
見た目の通り純真な女の子のようだ。
やれやれ、これなら身バレの心配はなさそうだ。
――とそこで、ゴロツキどもがこっそり立ち上がって、そうっと逃げようとしているのが目に入った。
しかし俺に見つかったと分かった途端に、
「てめぇ、顔覚えたからな!」
「覚えてやがれ!」
「お前はダーク・コンドル総出でぶっつぶしてやるからよぉ!」
「その時に泣いて喚いて許しを乞うても、今さらもう遅いからな!」
なんか威勢よく吠え始めた。
弱い犬ほどキャンキャン吠えるとは、よく言ったもんだなぁ。
ぶっちゃけこのロクデナシのゴロツキどもを、全員もう一度シバキ直して衛兵に突き出してやっても良かったんだけど。
この子のこともあるし、もし衛兵に話を聞きたいと詰所に連れていかれて身分照会でもされたら、俺が国王クロウ=アサミヤだってばれてしまう。
そういうわけだったので、今日この場に限っては広い心で見逃してやろう。
俺がこっそり王宮を抜け出してきたことに感謝するんだな。
ゴロツキどもが口調だけは威勢よく、だけどよろよろと無様に逃げ去っていくのをため息とともに見送ると、俺は改めて女の子に向き直った。
「今日は災難だったな――と、そういや君の名前を聞いてなかったっけ」
「わたくしはミズハと申します、以後お見知りおきをクロノスケ様。それと助けていただき本当にありがとうございました」
ミズハと名乗った少女が深々と頭を下げた。
絹糸のような美しい黒髪がサラリと前に流れる様子に、思わずドキッとしてしまう。
「いいっていいって、俺は荒事は得意だから。それよりミズハ、ここは治安が良くなさそうだからすぐに離れよう」
「そ、そうですね」
「そういや何か用事の途中だったのか? それならせっかくだし付き合うぞ?」
「よろしいのですか?」
「ミズハがまたダーク・コンドルに襲われたら大変だしな」
「ご厚意ありがとうございますクロノスケ様。実は婆やが風邪をひいてしまい薬を買いに街に出かけたのですが、その途中で先ほどの輩に襲われてしまったのです」
「そっか。ちなみにミズハがあいつらに襲われる心当たりはあったりするのか? 家がお金持ちとか?」
婆やとか言ってるし、俺は特に他意はなく何気なく尋ねたんだけど、
「……いえ、特に心当たりはございません。家もごくごく普通の一般家庭ですし」
ミズハが一瞬言葉を詰まらせながら視線を外したのを、俺は機敏に感じ取っていた。
なによりミズハのこの妙に丁寧な話し方だ。
とても普通の庶民とは思えない。
どうやらこのミズハって子はワケ有りの子みたいだな。
今は庶民でも、元は貴族かなにかなのかもしれない。
俺はそんな風に当たりを付けた。
ってことはさっきの奴らは、ミズハになにかしらの利用価値を見出して誘拐しようとしたのかもしれないわけだ。
であれば、今後もミズハが襲われる可能性は高い。
やはりダーク・コンドルは百害あって一利なし、早めに潰しておくとしよう。
「そっか」
「は、はい……」
でもま、言いたくなさそうなことを強引に聞くのはよくないよな。
それこそさっきのダーク・コンドルのやつらと同じになってしまう。
なにせ俺とミズハは、ついさっき会ったばかりの関係なんだから。
「じゃあとりあえず、一緒に薬を買いに行くってことで」
「本当にご一緒していただいてよろしいのですか? クロノスケ様も予定がおありなのでは?」
「なに言ってんだよ。さすがにこの状況で、ミズハを一人っきりにするわけにはいかないだろ? また襲われてるんじゃないかってミズハのことが不安で眠れなくなりそうだから、同行させてくれると俺が嬉しいかな。むしろ同行させてくれ」
「そうまでおっしゃるのでしたら……ではよろしくお願いしますね、クロノスケ様」
そう言うと、再びミズハは深々と見事なお辞儀をした。
「……(さ、さすがにクロノスケは適当すぎる名前だったか? なんか犬の名前みたいだしな)」
『ほら来いクロノスケ!』
『ワンワン!』
的な。
「クロノスケ様、素敵なお名前ですね」
しかし俺の心配をよそに、女の子は純白の百合の花のような清楚な笑顔で言った。
見た目の通り純真な女の子のようだ。
やれやれ、これなら身バレの心配はなさそうだ。
――とそこで、ゴロツキどもがこっそり立ち上がって、そうっと逃げようとしているのが目に入った。
しかし俺に見つかったと分かった途端に、
「てめぇ、顔覚えたからな!」
「覚えてやがれ!」
「お前はダーク・コンドル総出でぶっつぶしてやるからよぉ!」
「その時に泣いて喚いて許しを乞うても、今さらもう遅いからな!」
なんか威勢よく吠え始めた。
弱い犬ほどキャンキャン吠えるとは、よく言ったもんだなぁ。
ぶっちゃけこのロクデナシのゴロツキどもを、全員もう一度シバキ直して衛兵に突き出してやっても良かったんだけど。
この子のこともあるし、もし衛兵に話を聞きたいと詰所に連れていかれて身分照会でもされたら、俺が国王クロウ=アサミヤだってばれてしまう。
そういうわけだったので、今日この場に限っては広い心で見逃してやろう。
俺がこっそり王宮を抜け出してきたことに感謝するんだな。
ゴロツキどもが口調だけは威勢よく、だけどよろよろと無様に逃げ去っていくのをため息とともに見送ると、俺は改めて女の子に向き直った。
「今日は災難だったな――と、そういや君の名前を聞いてなかったっけ」
「わたくしはミズハと申します、以後お見知りおきをクロノスケ様。それと助けていただき本当にありがとうございました」
ミズハと名乗った少女が深々と頭を下げた。
絹糸のような美しい黒髪がサラリと前に流れる様子に、思わずドキッとしてしまう。
「いいっていいって、俺は荒事は得意だから。それよりミズハ、ここは治安が良くなさそうだからすぐに離れよう」
「そ、そうですね」
「そういや何か用事の途中だったのか? それならせっかくだし付き合うぞ?」
「よろしいのですか?」
「ミズハがまたダーク・コンドルに襲われたら大変だしな」
「ご厚意ありがとうございますクロノスケ様。実は婆やが風邪をひいてしまい薬を買いに街に出かけたのですが、その途中で先ほどの輩に襲われてしまったのです」
「そっか。ちなみにミズハがあいつらに襲われる心当たりはあったりするのか? 家がお金持ちとか?」
婆やとか言ってるし、俺は特に他意はなく何気なく尋ねたんだけど、
「……いえ、特に心当たりはございません。家もごくごく普通の一般家庭ですし」
ミズハが一瞬言葉を詰まらせながら視線を外したのを、俺は機敏に感じ取っていた。
なによりミズハのこの妙に丁寧な話し方だ。
とても普通の庶民とは思えない。
どうやらこのミズハって子はワケ有りの子みたいだな。
今は庶民でも、元は貴族かなにかなのかもしれない。
俺はそんな風に当たりを付けた。
ってことはさっきの奴らは、ミズハになにかしらの利用価値を見出して誘拐しようとしたのかもしれないわけだ。
であれば、今後もミズハが襲われる可能性は高い。
やはりダーク・コンドルは百害あって一利なし、早めに潰しておくとしよう。
「そっか」
「は、はい……」
でもま、言いたくなさそうなことを強引に聞くのはよくないよな。
それこそさっきのダーク・コンドルのやつらと同じになってしまう。
なにせ俺とミズハは、ついさっき会ったばかりの関係なんだから。
「じゃあとりあえず、一緒に薬を買いに行くってことで」
「本当にご一緒していただいてよろしいのですか? クロノスケ様も予定がおありなのでは?」
「なに言ってんだよ。さすがにこの状況で、ミズハを一人っきりにするわけにはいかないだろ? また襲われてるんじゃないかってミズハのことが不安で眠れなくなりそうだから、同行させてくれると俺が嬉しいかな。むしろ同行させてくれ」
「そうまでおっしゃるのでしたら……ではよろしくお願いしますね、クロノスケ様」
そう言うと、再びミズハは深々と見事なお辞儀をした。
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