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第一部 腰痛勇者編
第52話 急報
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その急報が入ってきたのは、俺がいつものようにアリスベルの家で晩ご飯の準備をしていた時のことだった。
「今日は夏を先取りってくらいに暑くて、アリスベルも暑い暑い言ってへばり気味だったもんな。こういう時は、食べやすくて身体を冷ましてくれる冷たいそうめんに限る(キリッ!」
俺は吹きこぼれないように注意してそうめんを茹でながら、並行して麺つゆを作り、ネギを切ってしょうがをすり下ろす。
既にアリスベルは閉店作業を始めていて、それが終わったくらいにちょうど晩ご飯を用意できる完璧な段取りだった。
そんないつもと変わらない夕暮れ時の穏やかな時間に、俺との仲を買われて先日『勇者担当特務騎士』に任命されたフィオナが、血相を変えて駆け込んできた。
「ゆ、勇者様、大変です! 一大事です! 緊急事態なんです!」
おやおや、いつも冷静なフィオナがこうまで慌ててるなんて珍しいな?
フィオナは片付け中のアリスベルに簡単に挨拶をすると、台所でそうめんを茹でている俺のところまで駆け足でやってきた。
「ようフィオナ、そんなに慌ててどうしたんだ? でもそろそろそうめんが茹で上がるから、悪いけどちょっとだけ待ってもらっていいかな。もうあとちょいなんだよ」
俺はそうめんを一本つまみ上げて口に入れると、茹で具合をチェックする。
んー、あと1分くらいかな?
「そうめんですか? 今日は暑かったので晩ご飯としてはとてもありだと思うのですが、今はそれどころではないんです!」
「ほんとちょっとだけ待ってくれない? そうめんを茹でて水で締めたらいくらでも話を聞くからさ」
「うう、ですが……」
「もうおにーさんってば、フィオナさんが困ってるでしょ。そうめんならアタシが見とくから、おにーさんはフィオナさんの話を聞いてあげて」
そこへ店内の片づけを終えたアリスベルが苦笑しながら戻ってきた。
「じゃあそうめんはアリスベルに任せるな。あと1分弱くらいでいい感じに茹で上がると思うから、水で締めておいてほしいんだ。麺つゆとか他の準備はほとんど終わってるから」
「1分弱ね、りょーかい」
俺はアリスベルにそうめんを任せると、フィオナを連れて居間に行った。
「それで話ってのはなんなんだ? あと急いでる時ほど落ち着こうな、急いては事を仕損じる、だぞ。まずは深呼吸だ」
「は、はい、すー……はー……」
フィオナが大きく一度深呼吸をする。
「じゃあ落ち着いたところで話を頼む、なにがあったんだ?」
俺は今までの軽いノリじゃないとフィオナに示すように、真剣な顔で問いかけた。
「それがその、驚かないで聞いていただきたいのですが」
「さっきのフィオナほど驚くことはないと思うけどな」
慌てて駆け込んできた時のフィオナの焦りに焦った表情を思い出して、俺は少しだけ思い出し笑いをしてしまった。
「では言いますね――数日前、セントフィリア王国の王都が壊滅しました」
「……え、なんだって?」
そのとんでもない内容に、俺は思わず聞き返してしまった。
いやだって、え?
「セントフィリア王国王都が壊滅しました」
しかしフィオナはもう一度同じ言葉を繰り返したのだ。
「いやあの、いきなり王都が壊滅したって言われてもな……」
ねぇ?
突然そんなこと言われても、にわかには信じがたいんだけど。
だって結構大きな国だぞセントフィリア王国って。
戦力も充実してるし。
その王都が壊滅したなんて言われても、なぁ?
にわかには信じがたいんだけど。
「現在多数の避難民が王都周辺の衛星都市になだれ込んでおり、辺境にあるここエルフ自治領にも、数は少ないですがエルフの避難民たちがやってきている状況です」
しかしフィオナはさらに詳細な説明を続けていくのだ。
フィオナが俺に嘘を言うはずはない。
どうやらセントフィリア王国の王都が壊滅したというのは、本当のことのようだった。
「今日は夏を先取りってくらいに暑くて、アリスベルも暑い暑い言ってへばり気味だったもんな。こういう時は、食べやすくて身体を冷ましてくれる冷たいそうめんに限る(キリッ!」
俺は吹きこぼれないように注意してそうめんを茹でながら、並行して麺つゆを作り、ネギを切ってしょうがをすり下ろす。
既にアリスベルは閉店作業を始めていて、それが終わったくらいにちょうど晩ご飯を用意できる完璧な段取りだった。
そんないつもと変わらない夕暮れ時の穏やかな時間に、俺との仲を買われて先日『勇者担当特務騎士』に任命されたフィオナが、血相を変えて駆け込んできた。
「ゆ、勇者様、大変です! 一大事です! 緊急事態なんです!」
おやおや、いつも冷静なフィオナがこうまで慌ててるなんて珍しいな?
フィオナは片付け中のアリスベルに簡単に挨拶をすると、台所でそうめんを茹でている俺のところまで駆け足でやってきた。
「ようフィオナ、そんなに慌ててどうしたんだ? でもそろそろそうめんが茹で上がるから、悪いけどちょっとだけ待ってもらっていいかな。もうあとちょいなんだよ」
俺はそうめんを一本つまみ上げて口に入れると、茹で具合をチェックする。
んー、あと1分くらいかな?
「そうめんですか? 今日は暑かったので晩ご飯としてはとてもありだと思うのですが、今はそれどころではないんです!」
「ほんとちょっとだけ待ってくれない? そうめんを茹でて水で締めたらいくらでも話を聞くからさ」
「うう、ですが……」
「もうおにーさんってば、フィオナさんが困ってるでしょ。そうめんならアタシが見とくから、おにーさんはフィオナさんの話を聞いてあげて」
そこへ店内の片づけを終えたアリスベルが苦笑しながら戻ってきた。
「じゃあそうめんはアリスベルに任せるな。あと1分弱くらいでいい感じに茹で上がると思うから、水で締めておいてほしいんだ。麺つゆとか他の準備はほとんど終わってるから」
「1分弱ね、りょーかい」
俺はアリスベルにそうめんを任せると、フィオナを連れて居間に行った。
「それで話ってのはなんなんだ? あと急いでる時ほど落ち着こうな、急いては事を仕損じる、だぞ。まずは深呼吸だ」
「は、はい、すー……はー……」
フィオナが大きく一度深呼吸をする。
「じゃあ落ち着いたところで話を頼む、なにがあったんだ?」
俺は今までの軽いノリじゃないとフィオナに示すように、真剣な顔で問いかけた。
「それがその、驚かないで聞いていただきたいのですが」
「さっきのフィオナほど驚くことはないと思うけどな」
慌てて駆け込んできた時のフィオナの焦りに焦った表情を思い出して、俺は少しだけ思い出し笑いをしてしまった。
「では言いますね――数日前、セントフィリア王国の王都が壊滅しました」
「……え、なんだって?」
そのとんでもない内容に、俺は思わず聞き返してしまった。
いやだって、え?
「セントフィリア王国王都が壊滅しました」
しかしフィオナはもう一度同じ言葉を繰り返したのだ。
「いやあの、いきなり王都が壊滅したって言われてもな……」
ねぇ?
突然そんなこと言われても、にわかには信じがたいんだけど。
だって結構大きな国だぞセントフィリア王国って。
戦力も充実してるし。
その王都が壊滅したなんて言われても、なぁ?
にわかには信じがたいんだけど。
「現在多数の避難民が王都周辺の衛星都市になだれ込んでおり、辺境にあるここエルフ自治領にも、数は少ないですがエルフの避難民たちがやってきている状況です」
しかしフィオナはさらに詳細な説明を続けていくのだ。
フィオナが俺に嘘を言うはずはない。
どうやらセントフィリア王国の王都が壊滅したというのは、本当のことのようだった。
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