上 下
45 / 142
第一部 腰痛勇者編

第45話 アリスベルと公園デート

しおりを挟む
 アリスベルと仲直りして、フィオナと3人で結婚を前提にした親密なお付き合いをすることになった翌日。

 俺はアリスベルと街のシンボルでもある大きな公園を散策デートしていた。

 この町の行政府が管理・運営してる公園で、様々な木や草が植えられていて四季折々に合わせて色んな花が楽しめるのだそうだ。

 実際、鬼ごっこして遊ぶ子供や身体を寄せ合う若いカップル、ランニングする中年男性、果ては年配のご老人まで全世代が楽しそうに公園を満喫していた。

 そんな公園の中を、俺とアリスベルは手をつないでゆっくりと歩いていく。
 もちろんつなぎ方は指を絡める恋人つなぎだ。

 アリスベルの柔らかい手を握っていると、優しい温もりと心休まる安心感が感じられた。

「でもせっかくのデートなのに公園の散歩でよかったのか? 今回の討伐の報酬はかなりの額だったから、もっとこうゴージャスにデートできるお金は十分にあるんだぞ?」

「べつにー?」

「もしかして遠慮してるのか?」
「あはは、今さらおにーさんに遠慮はしないし」

「フィオナに聞いたんだけど、エルフ自治領の中心都市ミルズガルドには海みたいな大きな湖があって、その傍に高級ホテルが立ってるんだろ? 最上階のスイートルームを1カ月借り切っても余裕なくらいお金はあるんだぞ?」

「最上階のスイートに1か月も泊まって何するのさ?」

「それはもちろん……観光とか?」

「ならスイートじゃなくてよくない? 寝てる以外はほとんど外にいるんだよね?」

「そう言われるとすごくもったいない気がするな。あ、でも最上階から眺めたらきっといい眺めだぞ。湖が一望できるだろうし」

「1か月も見たら飽きそうなんだけど……」

「だよな、実は俺も言いながらそう思った。一週間も経ったら飽きそうって」

「偉い人とかお金持ちの人の考えることって、アタシたち庶民には時々わからないよねー」

「湯水のようにお金があるから、とりあえず一番高い部屋に泊まってるだけなのかもな。もったいないとか、そもそも気にすることもなさそうだし」

「ふふっ、それはあるかも」

「だろ?」

 そんな何気ない会話を楽しみながら散策していると、公園の植物園ゾーンに差し掛かった。

「植物園ゾーンはね、この時期は緑が多くていろんなお花が咲いてて、特に綺麗なんだよね~。あ、ラベンダーだ。綺麗だしいい匂い~」

 アリスベルが紫色の花の前で立ち止まって、嬉しそうに前かがみになる。

「へえ、これが有名なラベンダーか。名前だけは聞いたことがあったんだけど、こんな花だったんだな」

「おにーさんは花はあまり知らないの?」

「チューリップとバラはわかるぞ。あとはアサガオにタンポポだろ……それとアジサイもわかるな」

「あはは、未就学児童じゃないんだからさ……じゃあせっかくだし教えてあげるね。アタシも詳しいわけじゃないけど、間違いなくおにーさんよりは知ってると思うから」

「せっかくだし教えてもらおうかな」

 というわけで、歩きながらアリスベルに初夏の花をあれこれ教えてもらうことになった。


【CASE.1】

「これはハナミズキっていうの」
 アリスベルがまっ赤な大きな花をたくさんつけた低木を指差して言った。

「ハナミズキか、初めて聞いたな。でも大きくて綺麗な花がいっぱい咲いてて、豪奢な花だな」

「ふふーん、期待通りの感想をありがと。でもこの花に見える部分って、実は葉っぱなんだよね」

「え、そうなのか? でもどう見ても花だぞ? 俺を騙そうったってそうはいかないからな?」

「なんでアタシがおにーさんを騙す必要があるのよ? ほらよく見てよ、花はこの真ん中にあるここのところだけなの。よーく見たら小さい花がいくつも集まってるでしょ?」

「うわマジだ、大きな花の真ん中に小さな花がたくさんある!」

「外側の花に見える部分は、ここに花がありますよーって、虫や鳥に知らせるためのものなんだって」

「へぇ、そうなのか。世の中にはこんなものがあるんだな、驚いたよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?

ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。 妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。 そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】スライム5兆匹と戦う男

毛虫グレート
ファンタジー
スライムくらいしか狩れない雑魚魔法使いレンジはまたパーティを追放された! もう28歳だよ。二十歳そこそこの連中に老害扱いされはじめてんのに、一向にレベルも上がらない。彼女もいない。なにやってんの。それでいいの人生? 田舎町で鬱々とした日々を送るそんなレンジの前に、ある日女性ばかりの騎士団が現れた。依頼はなんとスライムを倒すこと。 おいおい。俺を誰だと思ってんだ。お嬢ちゃんたち。これでも『雷を呼ぶ者』と呼ばれた偉大な魔法使い、オートーの孫なんだぜ俺は! スライムなんていくらでも倒してやるYO! 20匹でも30匹でも持って来やがれ! あと、結婚してください。お願いします。 ............ある日突然、スライム5兆匹と戦うことになってしまった男の、絶望と灼熱の日々が今はじまる!! ※表紙画像はイラスト自動作成のhttps://www.midjourney.com/ にてAIが描いてくれました。

処理中です...