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第一部 腰痛勇者編
第38話 過去の記憶
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意識が闇にたゆたう中で、俺は遠い過去の日を思い出していた。
『勇者は誰かのために戦う純粋な自己犠牲の心を持った者でなくてはならぬのじゃ。じゃがダグラス、お主は自分の栄誉のために勇者になるつもりであろう。それは勇者の在り方とは対極にある』
先代勇者はそう言うと、『破邪の聖剣』を俺に手渡した。
それを見たダグラスは最初に驚いた顔をした後、憤怒の表情で親の仇のごとく俺をにらみつけてくる。
これは俺が、戦士ダグラスとともに勇者の修行をしていた頃の記憶だった。
その最後の日、俺が勇者に選ばれたことでダグラスから追放されるほどに恨まれた日の記憶だ。
だけどこの時、一番驚いていたのは他でもない俺自身だったのだ。
勇者候補に選ばれたものの、毎日ヒィヒィ言いながらなんとか修行をこなしていた未熟な俺と違い、ダグラスはこの時点で既に力を完璧に使いこなせる完成された戦士だった。
元々、勇者候補になる前からセントフィリア王国の騎士団で名を馳せていたダグラスは、魔獣との戦闘経験も豊富で、その討伐実績は騎士団の中でも群を抜いていた。
一人でSランク魔獣を討伐したことがあるのは、勇者を除けばダグラスだけだったのだから、だからダグラスが勇者候補になっても誰も不思議には思わなかった。
当然ランクは騎士団でも最高位のSランクを与えられていた。
誰もが認める騎士の中の騎士、それがダグラス=ブラフマンだったのだ。
対して当時の俺は、勇者としての潜在能力が極めて高いという理由だけで勇者候補に選ばれた、まだ駆け出しの未熟なDランクの騎士だった。
騎士見習いを卒業したばかりで実戦経験はほとんどなく、魔獣の討伐実績はたったの1体。
その1体も、Cランクの魔獣をベテラン騎士の指示の元で集団で囲んでなんとか倒しただけという、実質ゼロに等しい討伐実績だった。
そんな新米ひよっこ騎士だった俺が勇者候補に選ばれたのは、先代勇者による直接の指名があったからだ。
何でも、騎士団の高ランク騎士向けの剣技指導に招かれた先代勇者が、その日たまたま隊舎の警戒任務に当たっていた下っ端の俺を見かけて、なにかをピンと感じ取ったらしい。
だから俺が勇者候補になったと告げられた日、隊舎でルームメイトだった同じ駆け出しの騎士なんかは、
『クロウがあの高名な戦士ダグラスと並んで次の勇者候補だって? おいおい一体なんの冗談だよ? あ、でも勇者になれたらサインくれな。元ルームメイトだったって自慢するからさ』
と腹を抱えて涙を流しながら笑っていた。
そんな風に対照的な俺とダグラスだったから、だから俺はダグラスが次代の勇者に選ばれると半ば当然のように思っていたのだ。
だけど蓋を開けてみれば、勇者に選ばれたのはダグラスでなく俺だった。
そうして次代の『勇者』になった俺は勇者パーティを結成し、魔王討伐の道のりを歩み始めたのだった。
当時はダグラスでなく自分が勇者に選ばれたことを疑問に思っていた。
だけど勇者として戦いを重ね、魔王を討伐し、心技体全てにおいて成長した今になってみれば、先代勇者がダグラスを次代の勇者に選ばなかった理由が、なんとなくわかる気がしていた。
ダグラスは確かに強かった。
もしかしたら歴代最強の勇者になったかもしれなかった。
だけどダグラスには勇者としての大切な資質が欠けていたんだと思う。
自分の命を犠牲にしてでも世界のために戦い抜く強い意思。
それがダグラスに全くなかったとは言わない。
だけどそんな滅私奉公の強い覚悟が、ダグラスにはほんの少し欠けていたのだ。
「勇者」とは文字通り「勇敢なる者」のこと。
自分の命を投げうってでも正義のために戦い抜く絶対の勇気と究極の覚悟が、ダグラスにはきっと足りていなかったのだ――。
そんな懐かしい記憶が次第にぼやけはじめた。
闇に落ちていた意識が覚醒しはじめたのだ――。
…………
……
『勇者は誰かのために戦う純粋な自己犠牲の心を持った者でなくてはならぬのじゃ。じゃがダグラス、お主は自分の栄誉のために勇者になるつもりであろう。それは勇者の在り方とは対極にある』
先代勇者はそう言うと、『破邪の聖剣』を俺に手渡した。
それを見たダグラスは最初に驚いた顔をした後、憤怒の表情で親の仇のごとく俺をにらみつけてくる。
これは俺が、戦士ダグラスとともに勇者の修行をしていた頃の記憶だった。
その最後の日、俺が勇者に選ばれたことでダグラスから追放されるほどに恨まれた日の記憶だ。
だけどこの時、一番驚いていたのは他でもない俺自身だったのだ。
勇者候補に選ばれたものの、毎日ヒィヒィ言いながらなんとか修行をこなしていた未熟な俺と違い、ダグラスはこの時点で既に力を完璧に使いこなせる完成された戦士だった。
元々、勇者候補になる前からセントフィリア王国の騎士団で名を馳せていたダグラスは、魔獣との戦闘経験も豊富で、その討伐実績は騎士団の中でも群を抜いていた。
一人でSランク魔獣を討伐したことがあるのは、勇者を除けばダグラスだけだったのだから、だからダグラスが勇者候補になっても誰も不思議には思わなかった。
当然ランクは騎士団でも最高位のSランクを与えられていた。
誰もが認める騎士の中の騎士、それがダグラス=ブラフマンだったのだ。
対して当時の俺は、勇者としての潜在能力が極めて高いという理由だけで勇者候補に選ばれた、まだ駆け出しの未熟なDランクの騎士だった。
騎士見習いを卒業したばかりで実戦経験はほとんどなく、魔獣の討伐実績はたったの1体。
その1体も、Cランクの魔獣をベテラン騎士の指示の元で集団で囲んでなんとか倒しただけという、実質ゼロに等しい討伐実績だった。
そんな新米ひよっこ騎士だった俺が勇者候補に選ばれたのは、先代勇者による直接の指名があったからだ。
何でも、騎士団の高ランク騎士向けの剣技指導に招かれた先代勇者が、その日たまたま隊舎の警戒任務に当たっていた下っ端の俺を見かけて、なにかをピンと感じ取ったらしい。
だから俺が勇者候補になったと告げられた日、隊舎でルームメイトだった同じ駆け出しの騎士なんかは、
『クロウがあの高名な戦士ダグラスと並んで次の勇者候補だって? おいおい一体なんの冗談だよ? あ、でも勇者になれたらサインくれな。元ルームメイトだったって自慢するからさ』
と腹を抱えて涙を流しながら笑っていた。
そんな風に対照的な俺とダグラスだったから、だから俺はダグラスが次代の勇者に選ばれると半ば当然のように思っていたのだ。
だけど蓋を開けてみれば、勇者に選ばれたのはダグラスでなく俺だった。
そうして次代の『勇者』になった俺は勇者パーティを結成し、魔王討伐の道のりを歩み始めたのだった。
当時はダグラスでなく自分が勇者に選ばれたことを疑問に思っていた。
だけど勇者として戦いを重ね、魔王を討伐し、心技体全てにおいて成長した今になってみれば、先代勇者がダグラスを次代の勇者に選ばなかった理由が、なんとなくわかる気がしていた。
ダグラスは確かに強かった。
もしかしたら歴代最強の勇者になったかもしれなかった。
だけどダグラスには勇者としての大切な資質が欠けていたんだと思う。
自分の命を犠牲にしてでも世界のために戦い抜く強い意思。
それがダグラスに全くなかったとは言わない。
だけどそんな滅私奉公の強い覚悟が、ダグラスにはほんの少し欠けていたのだ。
「勇者」とは文字通り「勇敢なる者」のこと。
自分の命を投げうってでも正義のために戦い抜く絶対の勇気と究極の覚悟が、ダグラスにはきっと足りていなかったのだ――。
そんな懐かしい記憶が次第にぼやけはじめた。
闇に落ちていた意識が覚醒しはじめたのだ――。
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