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第88話 でぃーぶぃでぃー

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 吾輩はネコである。
 名前はちび太。


「ただいま……」
 ご主人様がしょぼくれた小さな声とともに仕事から帰ってきた。
 いつもは無駄に元気なご主人様が、今日は360度どこから見ても元気がないご様子。
 きっと仕事で嫌なことでもあったのだろう。

 ご主人様は夜の7時も過ぎているというのに、晩御飯を食べもせずにテレビをつけるとDVDを見始めた。

 見ているのは、三十代で夢なかばにして死んだ小説家志望のおっさんが異世界ノーベルに転生し、『執筆クリエイト』と言う唯一無二のチートを武器に、若きイケメンエリート商社マンの世界征服の野望をぶっ潰して人気アイドル声優と結ばれるという、ところどころ作者の願望を隠し切れていないドン引き設定の異世界転生ものアニメである。

 世間的にはいまいちウケなかったものの、ご主人様的にはかなり気に入ったようで、気分が落ち込んだ時にこうやって時々見返していたのだった。


『現実から目を背けているだけの大人が、なにを言う!』
『大人が夢を見て悪いか!』


 大好きな最終決戦シーンを10回ほど見終えたご主人様は、

「よし、晩飯にしよう。見ろちび太、今日は久々の半額カツ丼だ!」

 すっかり元のご主人様なのだった。
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