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第61話 聖女、神龍さまに完全勝利してしまう。
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『ふぅ、やれやれ、まぁこんなもんでしょ。久々にいい汗かいたかなー。ああ、念のため言っとくけど。金輪際、無理難題ふっかけてクレアを困らせるんじゃないわよ? クレアは今、私んとこにいるんだからね?』
水龍さまが、ぶざまに転がっている神龍さまを当たり前のように踏んづけながら、ゴミでも見るような目で見下したように言った。
『…………』
『あ? おいこら、なに黙って寝てんだ? 私が優しく聞いてやったんだぞ、とっとと立って返事しろや?』
ぶっ倒れている神龍さまを、しかし水龍さまは優しさの欠片もなく足で小突く。
『ひ、ひぎぃ……わ、わかった……もうしない……』
神龍さまはフラフラと立ち上がると、必死に絞り出すように、かすれた声で言葉を返した。
『口のきき方に気をつけろっつたよな? 何回言わせんだ?』
『誠に申し訳ありませんでした……もう2度と致しません……』
『ああそれと、今後はクレアのことは私だと思って接しろよ? この意味、分かるよな? クレアが死ねって言ったら死ぬんだぞ』
『わ、わかりました……』
『ほい、言質とりましたよ、っと。これで一件落着だね~』
水龍さまがわたしを見てニッコリと言った。
「えっと、あの……なにがなにやら……」
一連のあれこれを目の当たりにして、なんていうかもう呆然とするしかないわたしだった。
いやもう、ほんと、ふぇぇぇぇっ!?
『ほんとごめんねー、クレア。この金ピカ馬鹿のせいで大変なことになっちゃって。でもちゃーんと言い聞かせておいたから、もう大丈夫だからね。安心してねー』
水龍さまは、さっきまでのヤンキー口調が嘘みたいに、既にいつもの優しいお姉さんモードだった。
「いえあの、なんといいますか、いいんでしょうか、これ?」
水龍さまと、再び床に突っ伏して動かなくなった神龍さまを交互に見つめながら、わたしはポツリとつぶやいた。
神龍さまは身体がだいぶん小さくなってしまっていて、エネルギーをかなり消耗しちゃってるみたいだった。
ほんとはもうエネルギー体に戻りたいんだろうけど、水龍さまの手前、勝手には戻れないんだろう。
上司が帰る前には帰れない感じかな?
完全に上下関係が出来上がってしまっていた。
『あはは、いいのいいの、こいつってば人間相手にイキってるしょーもないアホドラゴンなんだから。こういうバカは、調子に乗らないようにこうやって時々身体に教えてやらないといけないのよ』
水龍さまは言いながら、力なく寝そべっている神龍さまの頭をバシバシと神通力で叩く――っていうか殴った(音がバキッ、とかドゴッ、とかグシャッなの……)。
「水龍さまって、すごく強かったんですね。ビックリしました」
まさか強大な神龍さまを、こうまで一方的にフルボッコにするなんて、こんなのわたしじゃなくてもビックリ仰天だよね?
『まぁ昔ちょっとねー』
水龍さまが照れたように言う。
すると、
『な、なにが「昔ちょっとねー」だ! 水龍はな、その昔、龍の王たる最強の黄龍さまに公然と歯向かったあげくに半殺しにしてしまった、泣く子も黙る暴れ者だったんだぞ! クレイジー・ブルーって二つ名まであるくらいで!』
ボロボロで死にかけてても、これだけは言わない時が済まないとばかりに、神龍さまが首をあげてそんなことを言った。
『誰がしゃべっていいっつったんだ? てめぇは黙って寝てろや』
でも水龍さまの放った、今日一番の無慈悲で容赦ない神通力アタックが頭を直撃して、
『ごふ……』
神龍さまは口から泡を吹いて、完全に沈黙してしまった。
『そういうわけで無事に解決、めでたしめでたしなのでした』
「い、いいんでしょうか……?」
『いいのいいの。さ、クレアも疲れたでしょ? 待ってくれてるみんなに早く勝利宣言してあげて、その後は身体と心を休めないとね。疲労は美容の大敵なんだから』
「そ、そうでした! 早くみんなに、全部終わったって伝えてあげないと――!」
こうして。
わたしは、神龍さまのお気持ちを鎮めるはずが、なぜか水龍さまの助力を得て、神龍さまに完全勝利してしまったのだった。
水龍さまが、ぶざまに転がっている神龍さまを当たり前のように踏んづけながら、ゴミでも見るような目で見下したように言った。
『…………』
『あ? おいこら、なに黙って寝てんだ? 私が優しく聞いてやったんだぞ、とっとと立って返事しろや?』
ぶっ倒れている神龍さまを、しかし水龍さまは優しさの欠片もなく足で小突く。
『ひ、ひぎぃ……わ、わかった……もうしない……』
神龍さまはフラフラと立ち上がると、必死に絞り出すように、かすれた声で言葉を返した。
『口のきき方に気をつけろっつたよな? 何回言わせんだ?』
『誠に申し訳ありませんでした……もう2度と致しません……』
『ああそれと、今後はクレアのことは私だと思って接しろよ? この意味、分かるよな? クレアが死ねって言ったら死ぬんだぞ』
『わ、わかりました……』
『ほい、言質とりましたよ、っと。これで一件落着だね~』
水龍さまがわたしを見てニッコリと言った。
「えっと、あの……なにがなにやら……」
一連のあれこれを目の当たりにして、なんていうかもう呆然とするしかないわたしだった。
いやもう、ほんと、ふぇぇぇぇっ!?
『ほんとごめんねー、クレア。この金ピカ馬鹿のせいで大変なことになっちゃって。でもちゃーんと言い聞かせておいたから、もう大丈夫だからね。安心してねー』
水龍さまは、さっきまでのヤンキー口調が嘘みたいに、既にいつもの優しいお姉さんモードだった。
「いえあの、なんといいますか、いいんでしょうか、これ?」
水龍さまと、再び床に突っ伏して動かなくなった神龍さまを交互に見つめながら、わたしはポツリとつぶやいた。
神龍さまは身体がだいぶん小さくなってしまっていて、エネルギーをかなり消耗しちゃってるみたいだった。
ほんとはもうエネルギー体に戻りたいんだろうけど、水龍さまの手前、勝手には戻れないんだろう。
上司が帰る前には帰れない感じかな?
完全に上下関係が出来上がってしまっていた。
『あはは、いいのいいの、こいつってば人間相手にイキってるしょーもないアホドラゴンなんだから。こういうバカは、調子に乗らないようにこうやって時々身体に教えてやらないといけないのよ』
水龍さまは言いながら、力なく寝そべっている神龍さまの頭をバシバシと神通力で叩く――っていうか殴った(音がバキッ、とかドゴッ、とかグシャッなの……)。
「水龍さまって、すごく強かったんですね。ビックリしました」
まさか強大な神龍さまを、こうまで一方的にフルボッコにするなんて、こんなのわたしじゃなくてもビックリ仰天だよね?
『まぁ昔ちょっとねー』
水龍さまが照れたように言う。
すると、
『な、なにが「昔ちょっとねー」だ! 水龍はな、その昔、龍の王たる最強の黄龍さまに公然と歯向かったあげくに半殺しにしてしまった、泣く子も黙る暴れ者だったんだぞ! クレイジー・ブルーって二つ名まであるくらいで!』
ボロボロで死にかけてても、これだけは言わない時が済まないとばかりに、神龍さまが首をあげてそんなことを言った。
『誰がしゃべっていいっつったんだ? てめぇは黙って寝てろや』
でも水龍さまの放った、今日一番の無慈悲で容赦ない神通力アタックが頭を直撃して、
『ごふ……』
神龍さまは口から泡を吹いて、完全に沈黙してしまった。
『そういうわけで無事に解決、めでたしめでたしなのでした』
「い、いいんでしょうか……?」
『いいのいいの。さ、クレアも疲れたでしょ? 待ってくれてるみんなに早く勝利宣言してあげて、その後は身体と心を休めないとね。疲労は美容の大敵なんだから』
「そ、そうでした! 早くみんなに、全部終わったって伝えてあげないと――!」
こうして。
わたしは、神龍さまのお気持ちを鎮めるはずが、なぜか水龍さまの助力を得て、神龍さまに完全勝利してしまったのだった。
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