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第59話 聖女、ド根性を見せる。

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 すでに舞い始めてから5、6時間ほどが経っていた。

 とっくに時間の感覚は失われてしまっているので、疲労感からなんとなく推測してるだけだけど。

 意識も朦朧もうろうとしてきて、身体は水の中にいるみたいに重くなっている。
 それでもわたしは懸命に、心を込めて舞い続ける。

「今のわたしは、みんなの期待を背負ってるんだから――!」

 どれだけ疲れていようとも。
 腕が上がらなくなっていても。
 ステップがぜんぜん踏めてなくても。

 ただ一つ、気持ちだけを支えにして、わたしは『神龍かぐら』を舞い続ける――!

 色々とドンくさいわたしだけど、根性だけなら負けないんだからっ!

 身体が火照っているのに、汗すらかかなくなっていたヘロヘロの状態で、わたしは持ち前のド根性でさらに1時間ほど舞い踊っていると――、

『……ふん、いつまで舞えば気が済むのだ。いい加減にしろ』

 そんな言葉が聞こえるとともに、荒れ狂っていた神龍さまの力が、嘘のようにピタリとおさまった。

「神龍さま……?」

 わたしが文字通り、心身ともにフラフラな状態で尋ねると、

『もうよいわ……今回の件は、特別に不問に付してやる。お前のアホみたいな粘り強さに、いい加減オレも根負けした』

「あ、ありがとうございます――!」

 わたしは崩れ落ちるように地面に四つん這いになりながら、神龍さまに感謝の気持ちを伝えた。

 ほんとへとへとだった。
 でもわたしはやりとげたんだ――!

 だけど、そう思っていられたのも束の間で――。

『ではこれからは毎日、オレに『奉納の舞』を捧げるように』

 神龍さまからそんな一言が告げられてしまう。

「ふえぇぇっ!? えっと、それはその……」

『なんだ? 無理なのか?』

 そう言うと神龍さまは、エネルギー体からなんと黄金の光り輝くドラゴンの姿へと実体化したのだ――!

 祭壇の設置されているこのシェンロンの神殿は豪勢で、広いし、天井も無駄に高い。

 その神殿の天井にまで迫ろうかという巨大で神々しい姿の前に、わたしは恐れおののきながら言葉を告げる。

「ま、毎日はその、不可能と申しますか……実はわたし今、ブリスタニアで水龍さまに仕える『水龍の巫女』をやっておりまして――」

『そんなもの辞めればいいだろう? 嫌だというのなら、また『神龍災害』を振りまくだけだぞ?』

「そ、そんな――!」

『ほれほれ、嫌ならいいんだぞ? お前が前みたいに、ここで毎日踊るのであれば、オレも今まで通りに、この国を守ってやるといってるんだ。悪い話じゃないだろうが?』

「それは、その――、急に言われても――」

 一難去ってまた一難。
 わたしは更なる難問に直面していた。

『ほれほれ、どうなんだ? 実のところ、オレはお前がわりかし気に入ってるんだ。だからこれはお前だからこそ与えてやる、特別なチャンスなんだぞ? みんなの喜ぶ顔が見たくないのか?』

 神龍さまに言われて、わたしは疲れた頭で必死に考える。

 わたしがここで『神龍の巫女』をやることになれば、水龍さまはまた一人になっちゃって悲しむよね……。
 それにブリスタニアの王族であるライオネルとは、お別れになっちゃう……。

 でも、神龍さまはそうすればずっとシェンロンを守ってくれるって、約束してくれた。

 イラチでオレ様気質な神龍さまが、こんな風に言ってくれるのは文字通り破格の譲歩だ。
 わたしはきっと神龍さまに、とてもとても好かれているんだろう。

 だったらもう、悩んでいる場合じゃないよね……。
 わたしがシェンロンに残れば、万事解決なんだから――。

 さようなら、水龍さま。
 さようなら、愛しいライオネル――。

「わかりました」

 ――わたしがそう言いかけた時だった。

 突然、胸に下げていたペンダントについた宝石が、ピカピカーって光りはじめたのは――!
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