59 / 64
第59話 聖女、ド根性を見せる。
しおりを挟む
すでに舞い始めてから5、6時間ほどが経っていた。
とっくに時間の感覚は失われてしまっているので、疲労感からなんとなく推測してるだけだけど。
意識も朦朧としてきて、身体は水の中にいるみたいに重くなっている。
それでもわたしは懸命に、心を込めて舞い続ける。
「今のわたしは、みんなの期待を背負ってるんだから――!」
どれだけ疲れていようとも。
腕が上がらなくなっていても。
ステップがぜんぜん踏めてなくても。
ただ一つ、気持ちだけを支えにして、わたしは『神龍かぐら』を舞い続ける――!
色々とドンくさいわたしだけど、根性だけなら負けないんだからっ!
身体が火照っているのに、汗すらかかなくなっていたヘロヘロの状態で、わたしは持ち前のド根性でさらに1時間ほど舞い踊っていると――、
『……ふん、いつまで舞えば気が済むのだ。いい加減にしろ』
そんな言葉が聞こえるとともに、荒れ狂っていた神龍さまの力が、嘘のようにピタリとおさまった。
「神龍さま……?」
わたしが文字通り、心身ともにフラフラな状態で尋ねると、
『もうよいわ……今回の件は、特別に不問に付してやる。お前のアホみたいな粘り強さに、いい加減オレも根負けした』
「あ、ありがとうございます――!」
わたしは崩れ落ちるように地面に四つん這いになりながら、神龍さまに感謝の気持ちを伝えた。
ほんとへとへとだった。
でもわたしはやりとげたんだ――!
だけど、そう思っていられたのも束の間で――。
『ではこれからは毎日、オレに『奉納の舞』を捧げるように』
神龍さまからそんな一言が告げられてしまう。
「ふえぇぇっ!? えっと、それはその……」
『なんだ? 無理なのか?』
そう言うと神龍さまは、エネルギー体からなんと黄金の光り輝くドラゴンの姿へと実体化したのだ――!
祭壇の設置されているこのシェンロンの神殿は豪勢で、広いし、天井も無駄に高い。
その神殿の天井にまで迫ろうかという巨大で神々しい姿の前に、わたしは恐れおののきながら言葉を告げる。
「ま、毎日はその、不可能と申しますか……実はわたし今、ブリスタニアで水龍さまに仕える『水龍の巫女』をやっておりまして――」
『そんなもの辞めればいいだろう? 嫌だというのなら、また『神龍災害』を振りまくだけだぞ?』
「そ、そんな――!」
『ほれほれ、嫌ならいいんだぞ? お前が前みたいに、ここで毎日踊るのであれば、オレも今まで通りに、この国を守ってやるといってるんだ。悪い話じゃないだろうが?』
「それは、その――、急に言われても――」
一難去ってまた一難。
わたしは更なる難問に直面していた。
『ほれほれ、どうなんだ? 実のところ、オレはお前がわりかし気に入ってるんだ。だからこれはお前だからこそ与えてやる、特別なチャンスなんだぞ? みんなの喜ぶ顔が見たくないのか?』
神龍さまに言われて、わたしは疲れた頭で必死に考える。
わたしがここで『神龍の巫女』をやることになれば、水龍さまはまた一人になっちゃって悲しむよね……。
それにブリスタニアの王族であるライオネルとは、お別れになっちゃう……。
でも、神龍さまはそうすればずっとシェンロンを守ってくれるって、約束してくれた。
イラチでオレ様気質な神龍さまが、こんな風に言ってくれるのは文字通り破格の譲歩だ。
わたしはきっと神龍さまに、とてもとても好かれているんだろう。
だったらもう、悩んでいる場合じゃないよね……。
わたしがシェンロンに残れば、万事解決なんだから――。
さようなら、水龍さま。
さようなら、愛しいライオネル――。
「わかりました」
――わたしがそう言いかけた時だった。
突然、胸に下げていたペンダントについた宝石が、ピカピカーって光りはじめたのは――!
とっくに時間の感覚は失われてしまっているので、疲労感からなんとなく推測してるだけだけど。
意識も朦朧としてきて、身体は水の中にいるみたいに重くなっている。
それでもわたしは懸命に、心を込めて舞い続ける。
「今のわたしは、みんなの期待を背負ってるんだから――!」
どれだけ疲れていようとも。
腕が上がらなくなっていても。
ステップがぜんぜん踏めてなくても。
ただ一つ、気持ちだけを支えにして、わたしは『神龍かぐら』を舞い続ける――!
色々とドンくさいわたしだけど、根性だけなら負けないんだからっ!
身体が火照っているのに、汗すらかかなくなっていたヘロヘロの状態で、わたしは持ち前のド根性でさらに1時間ほど舞い踊っていると――、
『……ふん、いつまで舞えば気が済むのだ。いい加減にしろ』
そんな言葉が聞こえるとともに、荒れ狂っていた神龍さまの力が、嘘のようにピタリとおさまった。
「神龍さま……?」
わたしが文字通り、心身ともにフラフラな状態で尋ねると、
『もうよいわ……今回の件は、特別に不問に付してやる。お前のアホみたいな粘り強さに、いい加減オレも根負けした』
「あ、ありがとうございます――!」
わたしは崩れ落ちるように地面に四つん這いになりながら、神龍さまに感謝の気持ちを伝えた。
ほんとへとへとだった。
でもわたしはやりとげたんだ――!
だけど、そう思っていられたのも束の間で――。
『ではこれからは毎日、オレに『奉納の舞』を捧げるように』
神龍さまからそんな一言が告げられてしまう。
「ふえぇぇっ!? えっと、それはその……」
『なんだ? 無理なのか?』
そう言うと神龍さまは、エネルギー体からなんと黄金の光り輝くドラゴンの姿へと実体化したのだ――!
祭壇の設置されているこのシェンロンの神殿は豪勢で、広いし、天井も無駄に高い。
その神殿の天井にまで迫ろうかという巨大で神々しい姿の前に、わたしは恐れおののきながら言葉を告げる。
「ま、毎日はその、不可能と申しますか……実はわたし今、ブリスタニアで水龍さまに仕える『水龍の巫女』をやっておりまして――」
『そんなもの辞めればいいだろう? 嫌だというのなら、また『神龍災害』を振りまくだけだぞ?』
「そ、そんな――!」
『ほれほれ、嫌ならいいんだぞ? お前が前みたいに、ここで毎日踊るのであれば、オレも今まで通りに、この国を守ってやるといってるんだ。悪い話じゃないだろうが?』
「それは、その――、急に言われても――」
一難去ってまた一難。
わたしは更なる難問に直面していた。
『ほれほれ、どうなんだ? 実のところ、オレはお前がわりかし気に入ってるんだ。だからこれはお前だからこそ与えてやる、特別なチャンスなんだぞ? みんなの喜ぶ顔が見たくないのか?』
神龍さまに言われて、わたしは疲れた頭で必死に考える。
わたしがここで『神龍の巫女』をやることになれば、水龍さまはまた一人になっちゃって悲しむよね……。
それにブリスタニアの王族であるライオネルとは、お別れになっちゃう……。
でも、神龍さまはそうすればずっとシェンロンを守ってくれるって、約束してくれた。
イラチでオレ様気質な神龍さまが、こんな風に言ってくれるのは文字通り破格の譲歩だ。
わたしはきっと神龍さまに、とてもとても好かれているんだろう。
だったらもう、悩んでいる場合じゃないよね……。
わたしがシェンロンに残れば、万事解決なんだから――。
さようなら、水龍さま。
さようなら、愛しいライオネル――。
「わかりました」
――わたしがそう言いかけた時だった。
突然、胸に下げていたペンダントについた宝石が、ピカピカーって光りはじめたのは――!
1
お気に入りに追加
3,319
あなたにおすすめの小説
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!
友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」
婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。
そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。
「君はバカか?」
あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。
ってちょっと待って。
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!?
⭐︎⭐︎⭐︎
「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」
貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。
あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。
「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」
「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」
と、声を張り上げたのです。
「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」
周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。
「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」
え?
どういうこと?
二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。
彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。
とそんな濡れ衣を着せられたあたし。
漂う黒い陰湿な気配。
そんな黒いもやが見え。
ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。
「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」
あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。
背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。
ほんと、この先どうなっちゃうの?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる