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第58話 聖女、神龍さまと対話する。

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 わたしは大得意の必殺技『神龍かぐら』を舞い踊る。

 神龍国家シェンロンの『神龍の巫女』にだけに伝わる、門外不出のとっておきのとっておきだ!
 ここで舞わずにどこで舞う!

 舞い踊りながら、わたしは意識を深い水の底に沈ませるように集中力を高めていき、神龍さまとのコンタクトをはかる。

 長年『神龍の巫女』をやってきたわたしだ。
 神龍さまとコンタクトをするのに、そうは時間はかからなかった。

 すぐに荒ぶる強大な力と接触したのだ。

 だけどいきなり話しかけちゃいけない。

 ここに来るまでに、神龍さまの力の流れはおおざっぱに把握してたわたしは、作戦をたてていた。

 こんなにも荒れ狂った神龍さまは、落ち着かせようとしても落ち着かせられるものじゃないから。

 下手にいさめようものなら、その怒りはさらに激しく燃え上がることだろう。

 だからまずは、いつもよりも力強いアップテンポの『神龍かぐら』で、神龍さまの怒りに共感を示すんだ。

 『神龍の巫女』クレアは、神龍さまの怒りを理解しているのだと。
 でもその上で神龍さまにお願いをしたいのだと、まずは示さなければいけない。

 焦っちゃいけない。
 まず大事なのは、神龍さまの怒りにそっと寄り添うこと――。

 わたしは、神龍さまの荒ぶる力にじかに触れて、何度も微調整を加えながら『神龍かぐら』をひたすらに舞い踊る――!

 じっくりと時間をかけて、神龍さまの気持ちに寄り添ってから、

「神龍さま、お久しぶりです。『神龍の巫女』クレアにございます――」

 わたしはタイミングを見計らって声をかけた。

 けれどわたしが挨拶をした瞬間、怒りを凝縮したかのような猛烈な力が荒れ狂った。

 外界で雷鳴が激しくとどろいてるのが、全集中して精神世界に入っているコンタクト中にもかかわらず、ヒリヒリと感じられる。

 それほどの激しすぎる怒りだった。

『今さら何をしに戻ってきた!』

 神龍さまはわたしにむかって激しく怒鳴ってくる。

「申し訳ありません、神龍さま。この通りです、どうかお許しください」

『許せぬ!』

 傍から見れば、理不尽な怒りだろう。
 でもわたしがバーバラに追放されたことなんて、神龍さまには関係ないのだ。

 それはあくまで人間の側の理由にすぎないから。
 ちっぽけな人間のいさかいなんて、神龍さまにはなんの関係もないことなのだ。

 だからわたしは『奉納の舞』を舞い踊りながら、ひたすらに誠心誠意、神龍さまに謝り続けた。

「お気持ちは重々承知しております、ですが、どうか荒ぶる心をお鎮めください」

『ふん……』

 だけど神龍さまはねるというか、完全にへそを曲げてしまっていて。

 わたしがいくらお願いしても、聞く耳すら持ってくれないのだった。

 だからわたしは舞い続ける。
 それでもわたしは舞い続ける。

 一心不乱に『神龍かぐら』を舞い続けるのだ。

 指の爪の先から、毛細血管の1つ1つに至るまで。
 神龍さまへの誠意と敬意を込めて、わたしは『神龍かぐら』を舞い続けた。

 サポート役の巫女さんたちも、一糸乱れぬ心のこもった演奏を続けてくれていて、バックからわたしを盛り立ててくれる。

「お願いです神龍さま、どうか気持ちをお鎮めください――」

 わたしの問いかけに無言のまま知らんぷりをする神龍さまに、わたしは情熱と想いと願いを込めて、『奉納の舞』を舞い続けた――。
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