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第57話 聖女の帰還 (下)
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「単刀直入に言おう。シェンロン王国が『神龍災害』で危機にあると聞いて、第5師団の助力を得てブリスタニア王国より馳せ参じたんだ」
「なんと!」
「この馬車の中には『神龍の巫女』聖女クレアがいる。神龍さまの怒りを鎮めるための『奉納の舞』を行うので、急ぎ、神龍さまを祭る『祭壇の間』に通してほしい」
「馬車の中にクレア様が?」
なんとなく出番みたいな流れだったので、わたしがひょこっと顔を出すと、
「こ、これはクレア様! 間違いない! みんな、聞いて喜べ! ニセの巫女バーバラの謀略によって追放されたクレア様が! 『神龍の巫女』クレア様が、シェンロンにお戻りになられたぞ!」
「クレア様だって!?」
「戻ってきてくれたのか!」
「あんなひどい仕打ちを受けたってのに!」
「やっぱり聖女様は聖女様だ!」
「クレア様バンザイ!」
「ジーク・クレア!」
「みなの者! 歓迎は後だ! 今は道を開けるのだ! 聖女クレア様を『祭壇の間』にお連れするのだ!」
集まった数万の群衆たちが次々と海を割ったように道を開け、王宮へと続く一本の道ができあがる――!
そこにあったのは、願いと、祈りと、そして――期待だった。
「でも、どうしてそのことを知ってるんですか? わたしが本当の『神龍の巫女』たったことは、ほとんど知られてなかったはずなのに――」
「サポート役の巫女たちから、すべての真実を聞いております。彼女たちもニセ巫女のバーバラから、脅されて口止めされていたのだと。そしてそれを聞いた我々は、追放されたクレア様のことをお探ししていたのです。どうぞ『祭壇の間』へ」
代表者に促されて、わたしを乗せた馬車は人々の「思い」でできた道を進んでゆく。
数万の祈るような目が、わたしの乗る馬車を見つめていた。
『祭壇の間』がある神龍さまを祭る神殿の少し手前で、わたしは馬車をおりる。
同じく馬から降りたライオネルが、
「ボクたちはここで待機するとしよう。後はクレアに、『神龍の巫女』に全て任せるよ」
そう言って、わたしの腰をそっと軽く抱きよせた。
「はい、任されました。みんなの期待に、ライオネルの期待に、応えてみせませす!」
ライオネルの胸の中に顔をうずめながら、わたしは力強く答える。
少しの時間抱き合ってから、わたしは神殿に向かって歩きだした。
追放されてブリスタニア王国に行くまで、ほとんど毎日通い続けた神殿への道だ。
すごくすごく、懐かしかった。
こうしてわたしは約2か月ぶりに、神龍国家シェンロンの祭事の中枢、神龍さまを祭る『祭壇の間』へと足を踏み入れた。
『祭壇の間』には、わたしが巫女になってからずっと一緒に活動してきた、サポート係の巫女さん(龍の声は聞くことができない)が3人いて、
「クレア様ではありませんか! お戻りになられたのですね!」
「もう、もう私どもの力では、どうにもならず――」
「なにもできずに本当に申し訳ありません!」
涙を流しながら、口々に謝罪をしてきたんだ。
でもわたしは、隅々まで掃き清められた『祭壇の間』や、これ以上なく綺麗に磨き抜かれた祭具を見ただけで、全てを察していた。
神龍さまの声を聞くことができないサポート係の巫女さんたちが、それでもどうにかこうにか、神龍さまの怒りを鎮められないかと、必死に努力を続けていたってことを。
見よう見まねで、無駄だと分かっていながら、それでも『奉納の舞』も行ったのかもしれない。
でもそんな努力のおかげで、準備に時間をかけることなく、すぐに『奉納の舞』を踊ることができそうだよ!
「みなさんの努力は、この部屋に入った瞬間に分かりました。おかげで、すぐに『神龍かぐら』を舞うことができます。それもこれも、みなさんが最高の環境を維持し続けてくれたおかげです」
「クレア様、なんとありがたいお言葉……」
「クレア様……」
「う……っ」
「わたしの準備は既にできています。皆さんも『神龍かぐら』の演奏の準備をお願いします」
「「「かしこまりました!」」」
サポート巫女たちが配置についたのを見て、わたしは小さくアイコンタクトをかわすと、
「偉大なる神龍さまに、『神龍の巫女』クレアが『奉納の舞』を捧げ奉らん――」
『神龍かぐら』を舞い踊り始めた――!
「なんと!」
「この馬車の中には『神龍の巫女』聖女クレアがいる。神龍さまの怒りを鎮めるための『奉納の舞』を行うので、急ぎ、神龍さまを祭る『祭壇の間』に通してほしい」
「馬車の中にクレア様が?」
なんとなく出番みたいな流れだったので、わたしがひょこっと顔を出すと、
「こ、これはクレア様! 間違いない! みんな、聞いて喜べ! ニセの巫女バーバラの謀略によって追放されたクレア様が! 『神龍の巫女』クレア様が、シェンロンにお戻りになられたぞ!」
「クレア様だって!?」
「戻ってきてくれたのか!」
「あんなひどい仕打ちを受けたってのに!」
「やっぱり聖女様は聖女様だ!」
「クレア様バンザイ!」
「ジーク・クレア!」
「みなの者! 歓迎は後だ! 今は道を開けるのだ! 聖女クレア様を『祭壇の間』にお連れするのだ!」
集まった数万の群衆たちが次々と海を割ったように道を開け、王宮へと続く一本の道ができあがる――!
そこにあったのは、願いと、祈りと、そして――期待だった。
「でも、どうしてそのことを知ってるんですか? わたしが本当の『神龍の巫女』たったことは、ほとんど知られてなかったはずなのに――」
「サポート役の巫女たちから、すべての真実を聞いております。彼女たちもニセ巫女のバーバラから、脅されて口止めされていたのだと。そしてそれを聞いた我々は、追放されたクレア様のことをお探ししていたのです。どうぞ『祭壇の間』へ」
代表者に促されて、わたしを乗せた馬車は人々の「思い」でできた道を進んでゆく。
数万の祈るような目が、わたしの乗る馬車を見つめていた。
『祭壇の間』がある神龍さまを祭る神殿の少し手前で、わたしは馬車をおりる。
同じく馬から降りたライオネルが、
「ボクたちはここで待機するとしよう。後はクレアに、『神龍の巫女』に全て任せるよ」
そう言って、わたしの腰をそっと軽く抱きよせた。
「はい、任されました。みんなの期待に、ライオネルの期待に、応えてみせませす!」
ライオネルの胸の中に顔をうずめながら、わたしは力強く答える。
少しの時間抱き合ってから、わたしは神殿に向かって歩きだした。
追放されてブリスタニア王国に行くまで、ほとんど毎日通い続けた神殿への道だ。
すごくすごく、懐かしかった。
こうしてわたしは約2か月ぶりに、神龍国家シェンロンの祭事の中枢、神龍さまを祭る『祭壇の間』へと足を踏み入れた。
『祭壇の間』には、わたしが巫女になってからずっと一緒に活動してきた、サポート係の巫女さん(龍の声は聞くことができない)が3人いて、
「クレア様ではありませんか! お戻りになられたのですね!」
「もう、もう私どもの力では、どうにもならず――」
「なにもできずに本当に申し訳ありません!」
涙を流しながら、口々に謝罪をしてきたんだ。
でもわたしは、隅々まで掃き清められた『祭壇の間』や、これ以上なく綺麗に磨き抜かれた祭具を見ただけで、全てを察していた。
神龍さまの声を聞くことができないサポート係の巫女さんたちが、それでもどうにかこうにか、神龍さまの怒りを鎮められないかと、必死に努力を続けていたってことを。
見よう見まねで、無駄だと分かっていながら、それでも『奉納の舞』も行ったのかもしれない。
でもそんな努力のおかげで、準備に時間をかけることなく、すぐに『奉納の舞』を踊ることができそうだよ!
「みなさんの努力は、この部屋に入った瞬間に分かりました。おかげで、すぐに『神龍かぐら』を舞うことができます。それもこれも、みなさんが最高の環境を維持し続けてくれたおかげです」
「クレア様、なんとありがたいお言葉……」
「クレア様……」
「う……っ」
「わたしの準備は既にできています。皆さんも『神龍かぐら』の演奏の準備をお願いします」
「「「かしこまりました!」」」
サポート巫女たちが配置についたのを見て、わたしは小さくアイコンタクトをかわすと、
「偉大なる神龍さまに、『神龍の巫女』クレアが『奉納の舞』を捧げ奉らん――」
『神龍かぐら』を舞い踊り始めた――!
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