53 / 64
第53話 聖女、決意をする。
しおりを挟む
「はっ! 主だった上級貴族は討たれ、シェンロン王は捕虜となっている模様です」
「まさかそんなことが――」
ライオネルが完全に絶句してしまった。
「またニセ『神龍の巫女』バーバラ・ブラスターですが、王宮にある屋上庭園から身を投げたとのことです」
「バーバラが……死んじゃったんだ……」
バーバラとの間に、いい思い出はこれっぽっちも無かったけれど。
それでも知り合いがあっけなく死んでしまったことを、わたしは少しだけさみしく思っていたんだ。
「協力員の分析によりますと、度重なる増税で民の不満が高まっているところへ、一月ほど前から『神龍災害』が各地で発生し、それによって民の怒りに火がついたとのことです」
「やはりシェンロン王国では『神龍災害』が発生していたのか……」
「国境を封鎖したのも、これが他国に漏れるのを防ぐためだったんですね」
「ああ、そういう意図だったことで間違いない。報告ご苦労だった、下がってくれたまえ」
「はっ!」
「それとキングウルフが出没し封鎖された国境を越えてまで、急の報せを伝えてくれた協力員には、ボクがとても感謝していたと伝えておいてくれ。後日、改めて褒美をとらせるとね」
「かしこまりました。その旨お伝えいたします」
ピシっと美しい最敬礼をすると、近衛兵は下がっていった。
「ふぅ……これはまた、大変なことになったね」
「はい。大変なことになっちゃいました」
そしてもう既にこの時点で、わたしは覚悟を決めていた。
そんな、決意を決めたわたしを見て、
「それで、クレアはどうするつもりなんだい?」
ライオネルが優しく問いかけてくる。
「シェンロン王国に行こうと思います」
「シェンロン王国は、君をないがしろにして、使いつぶそうとしたところだよ?」
「シェンロンの民には、関係ありませんから」
「今のシェンロンに向かうのはあまりに危険だ。王都は反乱によって大きく混乱している。行政機能は完全に麻痺しているはずだ。君の安全は保障できない」
「それでも行きます。神龍さまの怒りを鎮められるのは、龍の声を聞ける『神龍の巫女』しかいません。わたししかいないんです」
「シェンロンの東部、つまりブリスタニアとの国境付近では、キングウルフの群れが多数確認されている。それを突破するには相応の戦力が必要だ」
「ライオネルの力で、どうにかできませんか?」
「ブリスタニア軍が今このタイミングで国境を越えるのは、正直言ってとてもまずい。混乱に乗じてシェンロンに侵攻したと見られても、仕方ないからね」
「それでもわたしはいかないといけないんです! 罪のない人たちを見捨てることはできないんです! ライオネル、どうにかなりませんか? お願いします! この通りです!」
わたしはガバッと勢いよく頭を下げた。
地面と平行になるくらいに腰を折って、必死にお願いをする。
わたし一人の力ではとてもシェンロン王国の王都までは、たどりつけないから。
ライオネルの力を借りないと、どうしようもないから――。
そんなわたしに、
「その言葉を聞けて安心したよ」
ライオネルがニコッと笑って言った。
「えっと、ライオネル?」
わたしは「ふぇ?」って感じで顔をあげた。
「わかった。今からすぐにシェンロンに向かう手はずを整えよう。国境を越える以上、どうしてもシェンロン側との調整が必要だ。だから出発は明日の昼でどうかな? それまでに何とか準備を整えてみせよう」
「っ! ライオネル、ありがとうございます!」
「なーに。今はもう他国の人間だからと言って、簡単に見殺しにするようなクレアじゃないってことを、ボクはよくよく知ってるからね。むしろこうでないと困るくらいさ。クレアがクレアらしくいてくれて、ボクは嬉しいよ」
「ライオネル……」
ライオネルが全幅の信頼をしてくれていたことを改めて知って、わたしは嬉しさで胸がいっぱいになっていた。
「さてと、今日はもう遅いから、クレアはしっかり寝て明日に備えて欲しい。主役は君だからね。万全の体調で臨んでくれ」
「えっと、ライオネルはどうするんですか?」
「ボクは今から権力とコネとツテをフルに使って、君をシェンロン王都に送り届ける下準備さ。だから安心して眠ってくれていいよ」
ライオネルは華麗にウインクをすると、さっそうと部屋を出ていった。
わたしは言われた通りにすぐにベッドに入った。
ベッドに入ってすぐは、シェンロンにいた時のこととか色んなことが頭のなかをグルグル回っていたけど、わたしはいつの間にかぐっすいり寝入ってしまっていた。
寝つきがいいもので……えへっ。
「まさかそんなことが――」
ライオネルが完全に絶句してしまった。
「またニセ『神龍の巫女』バーバラ・ブラスターですが、王宮にある屋上庭園から身を投げたとのことです」
「バーバラが……死んじゃったんだ……」
バーバラとの間に、いい思い出はこれっぽっちも無かったけれど。
それでも知り合いがあっけなく死んでしまったことを、わたしは少しだけさみしく思っていたんだ。
「協力員の分析によりますと、度重なる増税で民の不満が高まっているところへ、一月ほど前から『神龍災害』が各地で発生し、それによって民の怒りに火がついたとのことです」
「やはりシェンロン王国では『神龍災害』が発生していたのか……」
「国境を封鎖したのも、これが他国に漏れるのを防ぐためだったんですね」
「ああ、そういう意図だったことで間違いない。報告ご苦労だった、下がってくれたまえ」
「はっ!」
「それとキングウルフが出没し封鎖された国境を越えてまで、急の報せを伝えてくれた協力員には、ボクがとても感謝していたと伝えておいてくれ。後日、改めて褒美をとらせるとね」
「かしこまりました。その旨お伝えいたします」
ピシっと美しい最敬礼をすると、近衛兵は下がっていった。
「ふぅ……これはまた、大変なことになったね」
「はい。大変なことになっちゃいました」
そしてもう既にこの時点で、わたしは覚悟を決めていた。
そんな、決意を決めたわたしを見て、
「それで、クレアはどうするつもりなんだい?」
ライオネルが優しく問いかけてくる。
「シェンロン王国に行こうと思います」
「シェンロン王国は、君をないがしろにして、使いつぶそうとしたところだよ?」
「シェンロンの民には、関係ありませんから」
「今のシェンロンに向かうのはあまりに危険だ。王都は反乱によって大きく混乱している。行政機能は完全に麻痺しているはずだ。君の安全は保障できない」
「それでも行きます。神龍さまの怒りを鎮められるのは、龍の声を聞ける『神龍の巫女』しかいません。わたししかいないんです」
「シェンロンの東部、つまりブリスタニアとの国境付近では、キングウルフの群れが多数確認されている。それを突破するには相応の戦力が必要だ」
「ライオネルの力で、どうにかできませんか?」
「ブリスタニア軍が今このタイミングで国境を越えるのは、正直言ってとてもまずい。混乱に乗じてシェンロンに侵攻したと見られても、仕方ないからね」
「それでもわたしはいかないといけないんです! 罪のない人たちを見捨てることはできないんです! ライオネル、どうにかなりませんか? お願いします! この通りです!」
わたしはガバッと勢いよく頭を下げた。
地面と平行になるくらいに腰を折って、必死にお願いをする。
わたし一人の力ではとてもシェンロン王国の王都までは、たどりつけないから。
ライオネルの力を借りないと、どうしようもないから――。
そんなわたしに、
「その言葉を聞けて安心したよ」
ライオネルがニコッと笑って言った。
「えっと、ライオネル?」
わたしは「ふぇ?」って感じで顔をあげた。
「わかった。今からすぐにシェンロンに向かう手はずを整えよう。国境を越える以上、どうしてもシェンロン側との調整が必要だ。だから出発は明日の昼でどうかな? それまでに何とか準備を整えてみせよう」
「っ! ライオネル、ありがとうございます!」
「なーに。今はもう他国の人間だからと言って、簡単に見殺しにするようなクレアじゃないってことを、ボクはよくよく知ってるからね。むしろこうでないと困るくらいさ。クレアがクレアらしくいてくれて、ボクは嬉しいよ」
「ライオネル……」
ライオネルが全幅の信頼をしてくれていたことを改めて知って、わたしは嬉しさで胸がいっぱいになっていた。
「さてと、今日はもう遅いから、クレアはしっかり寝て明日に備えて欲しい。主役は君だからね。万全の体調で臨んでくれ」
「えっと、ライオネルはどうするんですか?」
「ボクは今から権力とコネとツテをフルに使って、君をシェンロン王都に送り届ける下準備さ。だから安心して眠ってくれていいよ」
ライオネルは華麗にウインクをすると、さっそうと部屋を出ていった。
わたしは言われた通りにすぐにベッドに入った。
ベッドに入ってすぐは、シェンロンにいた時のこととか色んなことが頭のなかをグルグル回っていたけど、わたしはいつの間にかぐっすいり寝入ってしまっていた。
寝つきがいいもので……えへっ。
1
お気に入りに追加
3,319
あなたにおすすめの小説
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる